俺、招待状のカードに目を通す。
俺は手にした手紙兼招待状のカードに目を通した。
「マラソンしませんか? しましょうしましょう。是非是非。ぜひのぜひ。ぜひぜひと息を弾ませながらマラソンを走っちゃいましょう。上位入賞者には豪華プレゼントがもらえますよ。どうです? どかんと一発成り上がり、やっちゃいましょうよ? ええ。いい返事を待っています。エントリーは今日までです。で、明日がマラソン大会の当日です。大丈夫です。マラソンしたことない人でも、優勝出来る可能性はありますから。だから、楽しくマラソンしちゃいましょう。このカードは招待状です。これがあればあなたは私の主催のマラソン大会に出場することが出来ます。そうです。あなたは私に選ばれたのです。大体一つの国から五人しか私は選びませんから、あなたはつまりの所、日本で五人の内の一人に選ばれたわけです。これは凄い奇跡ですよ? そう思いませんか? 思ったのなら、さあ、決定しましょう。即決でもいいですよ。そこにこのカードを渡した使者がいるはずでしょうから、その使者にマラソンに参加するならば、「マラソンに参加する」と伝えて下さい。そして、サインをこのカードの右下の所にして下さい。それでエントリーが終了します。そしたら明日、また再びそこにいる使者があなたを迎えに来てくれるでしょう。そういうわけで、私の伝えたいことは全部伝えました。それではあなたと会えることを信じて。アデュー!」
俺はカードから目を離すと、誰に言うでもなく呟いた。
「マラソン……だと?」
すると、俺のことを眺めていた、男がうんうんと首を縦に振って頷いた。
「そう、その通り。マラソンだ。君はそのマラソン大会に参加する資格を手に入れたんだ」
「俺が? 何で俺が……」
「それは俺にも上の考えは分からないけれど、でもまあ君が面白そうだと思ったんじゃない。色々な意味で。性格や、今までの退屈な人生とかを見ていてね」
「お前に俺の何が分かる!」
「いやいや、だから自分じゃなくて、上の人が君を見てっていう話だよ」
「くそっ」
「で、どうするの? マラソンやるの? やらないの?」
「そんなこと言ってもどこの馬の骨かも知らない奴が主催するマラソン大会に出場なんて出来るわけないだろう?」
「まあ、その気持ちは分からなくはないね」
「だろう?」
「でもいいの? 豪華賞品がもらえるチャンスがあるんだよ?」
「それは上位入賞した時の話だろう?」
「いあ、上位入賞した人だけではない。一番下位の人だってちゃんと商品は出るんだ」
「え? 本当かよ」
「うん。本当だ」
「でも、どうせしょぼい商品なんだろう?」
「それはどうかな? ただ、自分はそのことについて言うことは出来ないんだ」
「商品について言うことは出来ないだと? それは一体どうして」
「まあ、それを言ったら、商品に合わせてレース配分を変える人が出てくるかもしれないからね」
「なるほど」
「まあ、でも、とは言っても、上位に行けば上位に行くほど、商品が豪華なのは間違いないよ。一位は本当に、凄いよ。だって自分の欲しい物が何でも手に入ると言っても過言ではないからね」
「な、何でも?」
「まあ、そこらへんは、マラソン大会に出場しないと分からないかもしれないけどね。自分はただカードを渡す使命で下界に降りたから、詳しい話は分からないんだよね」
「そうか。で返事は今日までだったっけな」
「うん。そうだね。でも、今日って言っても、エントリーするならば夜の十二時前までにエントリーしなくてはならないから、夜の11時半にまた君の所に来るよ。それまでじっくり色々と考えてみればいい」
「そうか。で、お前は夜の11時半まで何をするんだ?」
「うーん。せっかくだから。下界を散策?」
「ふん。どこまでも上から立場な野郎だぜ」
「ははは。違ってないや」
「そこは、否定しろよ」
「あ、そういえばそこには書かれていなかったけど、一度マラソン大会に出場したら、ゴールするまでマラソンコースから出られないから」
「はあ? 何だよそれ」
「でも、大丈夫、何日かかっても」
「何でだよ。何日もかかったら、親が帰ってくるし、学校だって始まるぜ」
「大丈夫、心配しなくても。なぜなら、マラソン大会に出場してゴールしたら、この地上で何日立っていても、そのスタートした日つまり明日に帰ってくることが出来るようにするから」
「それは、時間を操作するっていうことか?」
「まあ、そういうことだね。だから、安心していいよ。何日経っても大丈夫だ。それに君の肉体も元のスタート時と記憶以外ほとんど同じ状態に戻すから」
「でも、ゴール出来なかった場合は?」
「大丈夫、君ならゴール出来るさ」
「ずいぶんと曖昧な言い方だな」
「これも、あんまり言えないんだよね。マラソンのコースを教えることも。それってつまり、マラソンを走る前に皆より、情報を先取りしようっていうことでしょ。でもそれは上のお偉いさんの立場からすれば、ずるとしかとらえられないんだよね」
「そうか。それならばもう質問はやめよう」
「そうしてくれるとありがたい。じゃあ僕は一旦帰るね。まあ、帰るって言ったって街をぶらぶらするだけだけれどね」
男は、はは、と笑い、玄関から出て行った。
俺は玄関から男が出ていくのを見送ると、鍵を二つかけた。
それがあの男にとって意味がないことだと知っていながら。




