無人の街とマシンガール。
『離ればなれになった世界。彼女はどんな所で、どんな夢を見ていたのだろうか。
……いくら考えても、答えに辿りつく事はなかった。』
竜車の乗り心地は、思ったより快適だった。ジェット機には乗った事はないけれど、これと同じ感じなのだろうか。
勿論飛ぶタイプなので、リジル帝国までの道中に子供達がきゃあきゃあ言ってこちらを指差しているのが何度も見えたのを覚えている。
門番から見えない所で、レオナールは竜車をローブの謎空間にしまい込んだ。少し悩む素振りを見せた後、彼女(ここに来る途中で知った)は白いアホ毛がついた黒い子犬に姿を変えてこちらに駆け寄ってきた。
「くそっ、可愛いじゃねぇか……じゃなくて、なーんかおかしいなここ。前きた時はガッチガチの門番がいたのによ」
今は帝国の入り口である街『帝都ヴィランスール』、その南門からぐるりと回って北門にいるのだが……以前いたハズの門番がどの門にもいなかった。
その代わりのつもりなのか、『殺人罪を背負う者の入国を禁止する』と書かれた紙が釘で打ってある。
防犯面はかなりアレだけど……まぁ、入国審査がないだけ楽か。
俺が街に入ろうとすると、レオナールがわんわんっ、と子犬らしく甲高い声で吠えた。
『気をつけて、カナタ君。なんだか疫病と事件とラッキースケベのニオイがするよ』
「最後のは何だよ!!」
頭に響く声で言ってきた彼女に怒鳴りつけて、街に入った。
十字路に沿って、レンガ造りの建物や得体の知れない食べ物の屋台が並ぶ。
武器や防具を新調しようとする戦士や食べ歩き目的で来た観光客でごったがえしていて、息がつまりそうだった。
ところどころにある路地裏でも、迷った旅人やそいつらの金品を狙うごろつき、どこかへ続く隠しルートを知る住人達が溢れかえっている。そんな光景があるハズだが……
「……誰もいないな」
「……わおーん」
そう、見事に誰もいなかったのだ。
「おいレオナール、お前の言ってた疫病とこれって関係があるのか?……まぁとにかく、噴水広場まで行ってみようぜ……ってあれ、人がいる」
遠くに見つけた黒い点は、徐々に人の形になってこちらに近づいてくる。
「うわああああああん!!」
そして泣き叫びながら、俺に向かって体当たりをかました。
……本当は違うんだろうけど、身体をぶつけられた時の速さは魔物がぶち当たってきた時とほぼ同じ速さだったため、体当たりと解釈した。記憶力は恐ろしいモノだ。
そんな魔物の様な速さで身体をぶつけられた俺は、とっさに相手の身体を押し返して衝撃を打ち消そうとする。
……が、抑えきれずに砂煙を纏い倒れる形になった。
「はぁ……何だよ、いきなりぶつかりやがって……」
熱を伴って痛む頭を押さえていると、何故かレオナールが冷たい目で見ていた。耳もだらーっとだらしなく垂れている。
『うわー……やっぱりカナタ君ってヘンタイさんなんだね、気持ち悪ーい』
「うるせぇよ!?俺何もしてないだろ!!」
……でも何だろう、右手にすっかすかのメロンパンみたいな感触がある……
そこで顔をあげると、信じられない光景があった。
夜空を固めたのかと思うほど澄んだ黒い目に、涙が浮かんでいる。何故か右目は灰の様に濁っていたけど、失明しているのだろうか。
絹の様にさらりとした薄い金色のロングヘアーは、右耳だけ髪がかけられている。
ほんのりと赤みがさす色白の肌は、生き物と思えないほど綺麗でまるで作り物みたいだ、と思った。
輪郭を隠している黒とミントの縦縞マフラー、その下には……
さほど大きくない胸を鷲掴みにする、俺の手があった。
「この……へっ……へっ……変態バカアァァァァァァ!!」
少女は耳元で叫ぶと、大きなカバンからリモコンらしき物体を取り出してスイッチを押した。
がしん、ちゅいいいいん、がちゃんがちゃん、しゃきーん。
何が起きたか理解出来ないけどあら不思議。(2つの意味で)ちっさい女の子が駆逐か……じゃなくてマシンガールに大変身。
背中の砲台と両腕のライフルが、俺を狙っていた。
「待て、待てって!!わざとやった訳じゃない!!何でもするから許してくれ……頼む、この通りだ!!」
少女から離れて、頭を下げる。
「ほう……貴様、今何でもすると言ったな」
さっきまでのアニメ声と打って変わり、ハスキーな声が静かな道に響く。警戒は怠っていない様で、まだ砲台とライフルはこちらに向けていた。
「あ、ああ……」
大人しく頷くと、少女は真剣な顔でこう言った。
「……オレの相方を探して欲しい。ここで起きた事件を解決するには、彼女の力が必要なんだ」