表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/1

序章:再会

今日、古い友人と居酒屋に行った。夕方の6時、凍るような寒さの中、ハチ公前で高校の頃の竹馬の友であった加藤圭子と加東華を待っていた。二人共名前が「カトウ」なのでいつも混乱してしまう為、圭子のあだ名が「フジ」、華のあだ名が「ヒガシ」だ。

もう俺らも27歳だ。あれから色々あった。大学を出て社会に出ても連絡を取り合っているのはフジとヒガシ位だろう。そんな事を懐かしんでいると目の前にショートカットで目がくりっとした女性が立っていた。

「待った?」どうやら遅れている自覚はあるらしい。

「あぁ、待ったよ。いつも通りな。」嫌味たっぷりに答えた。高校の頃からこいつはきっかり5分遅れで来る。なぜかわからないが、いつも小さなトラブルに見舞われて遅れる。

「うっさいな、道渡ってるおばあちゃんいたら助けないと。」さらっと答えた。ははあ、やっぱりフジは正義感があるなと思っていたら口に出ていたらしい。

「あったりまえじゃん、警察官だし。」

元気そうな声で言った。警察官だからというよりは極度のお人好しだからと思うがあえて言わずに話題を変えた。

「そういえばヒガシまだかよ。あいつらしくなく遅れてるぞ。」ヒガシは昔から遅刻は全くと言っていいほど無い。生徒会をやっていたせいか、徹底された五分前行動が染み付いている、と思っていた。するとフジが呆れたように

「あんた昔からケータイもほとんど見ないでしょ、弓道の大会の授賞式が長引いてるってメール来たじゃない。」と文句を言った。3時間ぶりに触るケータイを見ると確かにメールが来ていた。「大会の授賞式が長引いてるので30分遅れます。ごめんなさい。」確かに書いてあった。そうだ、今日は弓道の全国大会の決勝だったんだ。自分の記憶力の無さに呆れながらケータイを閉じたら自然とため息がこぼれた。

「あいつもすごいよなあ、大会社のプロジェクトマネージャーをやりながら全国1位だよ。じゃあとりあえずそこのスタバで時間潰すか、寒いし。」

立ち上がったらフジも黙ってついてきたので同意したということだろう。ヒガシにその旨をメールで送ってスターバックスカフェでコーヒーを飲みながらフジとデートさながら談笑しているとヒガシが来た。俺の名前は「小西」なのでよくクラスメイトからは東西カップルなんて言われてもてはやされていたのを思い出したが、その事については何も触れずカフェを出て街を歩き始めた。

流石は渋谷、夕方となれば人が多い。スクランブル交差点を3人で渡っていると観光客の外国人が大勢珍しそうに写真を撮っていた。いつもの渋谷だ。何も変わらない、眠らない街、渋谷。大学に入学するのに上京してきた時はびびり上がっていた僕ももう慣れた。そんな事を思いながら話題を提供した

「最後会ったのって、いつだったっけ?3年くらい前?」

ヒガシが懐かしむような表情で

「そうですね、大学卒業パーティー以来でしょうか。」と言った。横でフジが顔を風船のように膨らませながら

「私その時来てないから。警察学校が忙しかった。」と抗議した。ああそうだった、フジは高校出てすぐに警察学校に入って色々と忙しかったんだ。今日会えたから許してくれよ、奢るからさと言うと玩具を買い与えられた子供のように

「本当に!?やったあ!帰りのタクシー代もね!」と気分を急に良くした。こいつが蛇のように酒を飲むのは周知の事実である。財布の中を確認しながら目の前が暗くなった。元気づける為に言ってしまった事だが酷く後悔している。


そんなやり取りをしながら3人で歩いていると俺がよく行く居酒屋に着いた。いつも通り満席だが予約しているので問題ないだろう。店内に入って座敷に座って落ち着いた先からフジが目を輝かせながら俺に言った

「とりあえず生でしょ!?ね!?生だよね!?乾杯は生だよね!」勝手に決めてかかって注文用のボタンに指が伸びていた。

「馬鹿。俺とヒガシがビール嫌いなのもう忘れたかよ。酒の事になると急に元気になるよなお前。」と皮肉たっぷりに言った。するとフジは縮こまってあ、忘れてたと呟いた。それを傍目に俺とヒガシはカシスソーダを注文して、ついでにフジの分のビールも頼んだ。


「「「3年ぶりの再開と年末を祝ってカンパーイ!」」」元気に声が響いた。ごくりと一気に飲む。美味い。やはりこのメンバーで飲む酒は一番美味い。

「いやー優勝おめでとう、ヒガシ」とフジが労った。

「いえいえ、たまたま運良くて勝てただけですよ、まだまだ弓の道は長いです。」顔をほんのり紅くさせながらヒガシが答えた。そして僕たちは与太話をつまみに酒を飲んだ。

いつ頃だっただろうか、ヒガシが

「私はギブアップですぅ」なんて言いながら床に転がって寝始めた。整った顔を紅くさせすうすうと静かに眠るヒガシは林檎の姫様のようだった。すると急にフジが切り出した

「で、あんたまだヒガシの事好きなの?」かなり酔っているようだったが呂律は回っていた。

「な、なんだよ急に。なんでそんな事言うんだよ?」と俺も動揺を隠せなかった。確かに高校の頃は周りから持て囃されていて意識をしてしまっていたが、今は違う。俺はこの目の前にいる女性、フジ、いや、加藤圭子を好きになっていた。馬鹿みたいだが、事実だ。この女性に惹かれているのに気づいたのはいつだろうか。振り返ってみればきっかけは3年前の大学卒業パーティーだった。あの時、俺は来れなかったフジにメールを送った。大した意味もないメールだったと思う。そこから殆ど毎日メールのやり取りをしていた。気づけば頭の中は加藤圭子という女性でいっぱいだった。意識はしていなかったが、よく見ると愛らしい顔つきと小柄な体、底が見えない程の優しさは俺にとって充分な惚れ薬となっていた。

そんな事が頭の中で回っている時にフジは言った。

「だってあんた、高校の頃からずっとヒガシの良い所しか言わないじゃない。私には憎まれ口ばっかりなのに。」相当酔っているようだ、俺の上司のように愚痴を語り始めた。

「大体さあ、なんであんたはヒガシばっかりなの?そりゃあ確かにヒガシのほうが私より背も高いし、頭良いし、綺麗だけど、あんたは鈍感すぎるの!!!」怒っていた。まるで俺の飲んだくれの上司のように。流石にここで愛の告白のようなキザな事はできないのであえて反論する。

「お前だってヒガシの事いつも褒めてるじゃねえかよ!鈍感って意味がわかんねえよ!警察官も大した事ねえなこりゃ!警察犬のほうがお前より良い仕事してんじゃねえの??」思い切り言い返してやった、と思っていたが文章を言い切る前に目の前に火花が飛んだ。

「警察のこと悪く言うなこの社畜がぁ!国家公務員舐めんなよクソがあ!!」どうやら警察の悪口を言ったことに対して並ならぬ怒りを覚えたようだ。俺は黙って右手を差し出した。フジも同じようにして、握手をした。お互い腹がよじれるほど笑い転げた。いつもこうだ。口喧嘩の後はいつも握手をしてお互い怒りに任せて言ったことに対して笑う。これで良いのだ。殴るなんて性に合わない上に痛い。笑えば解決だ。


こうやってフジと軽いいざこざがあったあと、フラフラの2人を連れて駅まで行った。終電が終わっていた。銭無しの財布で2人をタクシーで家へ送ることになるようだ。考えるだけで頭が痛くなってきたが、しょうがないのでタクシーを捕まえてまずヒガシを家に送った。

タクシーの中でフラフラのフジが話しかけてきた。

「ねえ、私の事、好き?」それは唐突であり劇的であり運命的だった。少し間をおいて俺は答えた。

「ああ、大嫌いだよ、地獄に落ちればいいと思う。」それを聞くとフジは安心したように

「そっか。私も大好き」と返事した。

フジのアパートに着いた。肩を支えて階段を登って、部屋に入るとフジは俺に究極の選択を突きつけた。

「ねえ、今夜泊まっていきなよ。もう遅いし。」高校の頃なら躊躇なくOKした所だが今は違う。俺はフジが好きだ。同じ屋根の下で寝るなんて俺が何をしでかすかわかったもんじゃない、が、酔いがピークだったので言葉に甘えて泊まることにした。

俺の自制のおかげなのだったろうか、特に何もなく布団につき、寝た。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ