第三話 王の人柄
またしても医務室に運び込まれたポールを除いたメンバーで僕達は王と対峙していた。と言っても話をしたのはこの中で代表とされている僕だけだったけれど。
「ふむ、大体の話はわかった。こちらとしても勇者の仲間と親交を深める事は利益があるし、望むのならばすぐにでもそなた達の事を王家の名の元に周辺諸国へと広めておこう。そうすれば雷の一派とて迂闊には手を出せまいて」
これまでの話――飛空艇での魔族の話やメルやオルトが雷の一派に狙われている事を重点的に――をすると王はそう言って頷いてくれた。
詳しい内容については交渉をしながら追々話を詰めていく事にして。
そうして一先ず王家との友好関係を作れたのでホッとしていたところに、
「ところでコノハ殿はユーティリアとの婚約を断ったと聞いたが、娘のどこが気に入らなかったのじゃ?」
「ぶっ!?」
いきなり飛んできた脈略のないその発言に僕は思わず咽てしまう。
「お、お父様! 何を急にそんな事を言っているのですか!」
「急にも何も、こうして余がお忍びでやって来た一番の理由はそれを聞く為なのだがのう。余はこの国の王だが、同時にそなたの父でもある。娘が好いている相手と会ってみたいと思うのが当然じゃろうて」
顔を真っ赤にしたユーティリアの抗議を飄々と受け流してバスティート王は笑顔でそう言う。
「そもそも互いに準備もなしに、しかもこうしていきなりやって来て重要な案件や契約を決める訳にはいかないじゃろう?」
「そ、それはそうかもしれないですけど……」
(だからと言ってわざわざその為だけに来るのもどうなの?)
メルが心配そうにしているのに気付きながら、どうにか呼吸を整えた僕が何と言ったらいいのかと迷っているところに、
「へーそんな話が出ていたなんて初めて聞いたわ」
(あ、やば)
ミーティアがニッコリと笑っているのを視界に捉えた。理由は分からないがあれは間違いなく苛ついている時の顔だ。迂闊に触れると不味い。
「そ、それについてですけど僕はこの魔王と勇者の騒動が終わったら故郷に帰るつもりですので、誰かと結婚などをするつもりはありません」
「そうか、それは残念じゃ。ユーティリアもコノハ殿と会うまでは余り乗り気ではないようだったが、今ではすっかり」
「お父様!!」
続く言葉をユーティリアが遮ってくれた本当に助かった。これ以上、この話を続けているとミーティアの怒りのボルテージが際限なく上昇していきそうだったし。
(って、何でミーティアが怒るんだ?)
嫉妬しているとかなら話は簡単だが、彼女はこれまでの僕に対する態度からしてもそういう感じは全くと言っていいほどなかったように思えるのだが。
「ふむ、まあ若人達をからかい過ぎると後の仕返し怖いのでな。ここら辺でこの話はやめておくとするかの」
「そ、そうですか」
仕返しなんてそう簡単に出来る訳がないと分かっている癖にこの言い様。
やはりこの人は中々に厄介な人のようだ。
「さて、コノハ殿。この場を借りて改めて礼を言わせてもらいたい。娘を魔族から救っていただいたことは一国の王としても一人の父としても感謝するしかない。本当にありがとう」
今度は急に真面目な話だ。先程自分でそう言った話はしない、みたいなことを言っていたのに。
「いえ、礼を言われるようなことは何も。これでも勇者の弟ですし、出来る事をやっただけです」
そのマイペーズな会話に完全に翻弄されていた事もあって僕は無難な返ししか出来なかった。それに対して王は、
「なるほどのう。その謙虚さがユーティリアの心を射止めたぐふ!?」
舌の根の乾かぬ内にまたしてもそちら方面の話をしようとしたが、今度のユーティリアは言葉で遮ったりせずに近くに有ったクッションらしき物を容赦なくその顔面に投げつける事で発現を中断させる。
その顔は倒れるのではないかと思うほどに耳まで真っ赤で息もかなり荒い。
「何をするのだ、ユーティリア。痛いではないか。それに別に照れることではなかろうて。これでも余は父として娘の初恋を応援しようと」
「お父様。次、余計な事を言ったらもっと固い物が飛んでいきますけどよろしいのですか? ちなみに中身は熱々ですよ」
「ふむ、今日も実にいい天気じゃのう」
満面の笑顔でレイナさんが注いでいた紅茶入りのポットらしきものを奪うようにして持ったユーティリアは眉間に青筋を立てていた。
その姿を見て流石に不味いと思ったのか、王はあからさまに話を逸らす。ただそれでもふざけるのを止めないところは何と言うか流石だった。
少なくとも僕には真似できないし、したくもない。
そこで扉がノックされて王の迎えがやって来た。なんでも次の仕事が来てしまったとの事らしい。
「楽しい時間だったし、もう少しコノハ殿とは話してみたかったのだがのう」
と言いながらバスティート王はまた会う約束をするとあっという間に去って行った。まるで嵐のような人だ。こちらはただ振り回されてばかりである。
(少しだけだけど紅葉に似てるかもな)
自分勝手で他人の事を振り回すところなどが特に。
「すみません、父は真剣な時や公務以外だといつもあんな感じなんです」
そう言って吐かれた溜め息がその心情を物語っているというものだ。なんだか少しだけユーティリアに同情と親近感が湧いてしまう。
その後はユーティリアとレイナさんに今後の予定についての説明をしてもらった。
とりあえず今は飛空艇の調査が終わるまでは自由にしていいとの事で、なんなら王都の観光をして貰っても構わないらしい。久しぶりの何もない自由の時間だ。
存分に羽を伸ばさせてもらう事にしよう。
その後は魔族に狙われたこともあってしばらくの間外出を禁止されてしまったというユーティリアが王都の案内が出来ない事を謝罪してきたり、僕達が王都についての質問をしたりしながら軽いお茶会をして楽しむのだった。