第二章 謁見
あの後、第三王子は順調に回復して意識を取り戻したらしい。
一時は命さえ危ぶまれたことから考えれば奇跡的な回復である。そしてその奇跡を起こしたジュールは皆から称賛され、ユーティリアなどからお礼を言われていた。
もっともその礼を受けた当の本人は納得いかないのか釈然としない様子だったけれど。
ある意味でそれらの事を彼に全て押し付けた形だが、別に悪いことではないのだから勘弁してもらおう、と勝手に僕は納得していた。
そうして当初の予定通り僕達は簡単な礼儀作法を習った後に謁見の間でユーティリアの父親にしてこの国の王、バスティート・キルグラム・フォン・ベルゼハイムとの謁見に臨んだのだが、
「あっさりしていたと言うか、正直拍子抜けだったわね」
ミーティアのその言葉通り、その邂逅は実にあっさりとしていたのだ。と言うか所要時間はたった数分と顔合わせ程度しかしなかったのである。
そうして味気ない謁見が終わった後に案内された客間で今の僕達はゆっくりと寛いでいるという訳だ。
「あくまであれは顔見せの為だけだろうし、流石に後でまた呼び出されることになると思うよ」
「まあ、そうよね。いくらなんでもこれで終わりはあり得ないでしょうし」
ちなみに他のメンバーが何をしているかと言えば、メルは僕の膝の上でゴロゴロとして寛いでいるし、オルトは窓の外の景色に興奮して夢中になっている。
ポールに至っては謁見で緊張し過ぎたのかベッドの上で横になって休んでいた。
飛竜襲撃で痛くなった胃が更に悪化したと言っていたし、今はそっとしておいてあげよう。
(あの様子だと、その内ストレスで胃に穴が開くかもしれないな)
顔色の悪さだけを見れば死にかけていた第三王子に勝るとも劣らない。
自分で巻き込んでおいてなんだがポールの奇妙な境遇に同情していると、そこで扉がノックされる。
「コノハ様、入ってもよろしいでしょうか?」
その声はユーティリアだったので特に確認もせずに了承の意を返す。
すると扉が開いてユーティリアとレイナさん、そして王が部屋の中に入ってきた。「では失礼するぞ」と実に気軽に言いながら。
「「「「「……は?」」」」」
その言葉を聞いて部屋の中にいた全員の声がハモる。
何か今、ちゃっかりおかしな人がいた気がするのだが気のせいだろうと僕は改めてマップで確認してみると、部屋の中にバスティートという人物は確かにいる。
どうやら幻覚や幻聴でもないみたいだ。
そう僕が認識していると、周りの仲間も同じように段々とこの状況を理解しだしたらしい。
ミーティアは口をポカンと開けたままその場で固まって動けなくなり、オルトは興奮して騒いでいる。
メルも緊張したようで緊張に顔が強ばり耳もピンと立っていたが、暴走されは困ると思った僕が落ち着かせるように頭を撫でるとすぐに表情を緩めてリラックスする。
最後のポールに至ってはついに限界を迎えたのか泡を吹いて倒れベッドの上で気絶していた。それを見たバスティート王は、
「うむ、どうやら刺激的過ぎるサプライズだったかの?」
なんて呑気に笑っていた。泡を吹いて気絶している人がいるのにこの態度、器が大きいと見るべきか、はたまた能天気と見るべきだろうか。
「……ティアはこれをポールに飲ませて、彼を別の部屋に運んでおいて。ここに置いておくとまた泡吹いて倒れそうだし」
僕は大きく溜め息を吐くと、取り出した回復薬をミーティアに向かって放り投げる。
普段ならそれを見なくとも難なくキャッチするだろうミーティアが慌てた様子でいることからも、その動揺は明らかだった。
オルトとレイナさんの協力の元に部屋の外に運ばれていったポールを見届けると、改めて僕は王に向き直る。
「流石は風の勇者の弟殿と言うべきか驚いたのは僅か一瞬。しかも冷静になるのも早いとな」
「まさかそれを試したくてこんなことをしたんですか?」
「うむ、その通りじゃ」
それに笑顔であっさりと頷く王を見て僕は思わず額に手を当てる。どうもこの人はかなり剽軽で変わった人のようだ。
「すみません、コノハ様。父がどうしてもと言って聞かなくて……」
「いえ、構いませんよ。いずれは話をすることになるだろうとは思ってましたから。まあ、まさかこんな形でとは思いませんでしたけど」
「なんと、勇者の弟殿の意表をつけたのならサプライズをした甲斐があったというものじゃな」
そうやって笑う王を見ながら僕は、
(色々と食えない人みたいだな)
これからの話し合いが一筋縄ではいかないだろう事を予感していた。