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第一章 密やかに

本日二度目の更新です。

 王子が危篤という状況のせいで情報が行き届いていないらしく僕達は何度か騎士などに何者かと誰何(すいか)されたが、その度にメルの紋章とホロスの説明によってあっさりと通過が許された。


 改めてその紋章の効果を思い知らされるというものだ。


 そうしてどれだけ大きいのかと思うほど歩くことしばらく、ようやく僕達はその部屋の前まで辿り着く。


 そこには先に行った二人もおり、ユーティリアは一心に神に祈りを捧げていた。その様子を見る限り良い状態とは言い難いようだ。


「王子の状態はどうですか?」

「……かなり危険な状態のようです」


 ユーティリアに代わってレイナさんが答える。その時、回復薬を運んできたらしき侍女の人達が部屋の中に入っていく。

 その過程で扉が開き中の様子を伺えたが、確かにかなり危ないのが見るだけでもわかった。


 数人の魔術師らしき人物がベッドに横たわる王子らしき人物に回復魔術らしきものを必死の形相で掛け続けているが、その王子の顔色は真っ青だった。


 高位体力回復薬という僕の合成した回復薬よりも効果が高いと思われるそれを傷に掛けたり口に流し込んでいたりするようだが、それでも足りないようだ。


「残念ですけどここで僕に出来る事はないみたいですね」


 そうやって暗に自分が万能ではない事をアピールしておく。

 実際あの高位回復薬があればここで僕が回復薬を提供したところで意味はない訳だし、ここでユーティリア達に頼られても面倒なので。


 そこで王子のステータスを確認してみたが予想通りかなり悪い。

 ただでさえ少なくなっているHPが減少し続けている上に幾つもの状態異常を抱えている。

 回復魔術などでHPは回復しているから一見大丈夫そうに思えなくもないが、状態異常のせいで最大HPの値も徐々に減ってきている。


 これではいくら回復させようがいずれHPは零になるだろう。


(ステータスを見る限りだとやっぱり問題は状態異常の方か)


 『貧血』や『疲労』などの状態異常がある限り体力の上限が減り続け、『毒』や『出血』、『内臓損傷』などによってHPも同じく減っていく。


 つまりまずはそれらをどうにかしないことにはいくらHPを回復させても意味がないということだ。

 もっともそれは治療を施している人たちもわかっているようだが。


 部屋の中から聞こえてくる声から察するや毒の種類の特定などを急ぐように指示が出されている。


 僕のチートは例外として、普通はそういった原因の特定にも時間がかかって当然なのだろう。


(ただこのペースだと間に合いそうにないな)


 既にHPの上限が半分くらいになっているのに未だに毒の種類の特定ができていないようでは手遅れになる可能性が高そうだ。


 そう思って僕がどうしたものかと悩んでいると、


「どけ! 俺に診させろ!」


 遠くの方からそう叫びながら凄い勢いでこちらに走ってくる初老の老人が視界に入る。


 そしてその老人は一切こちらに目をくれることもなく部屋の中に飛び込むと、すぐさま王子の体に手をかざして何らかの魔術を使い出した。


「あの人は?」

「勇者の関係者ではありませんが、コノハ様と同じように王族に招かれたお客様だそうです。高位の魔術師の方だと聞いていますが、詳しくは私も知りません。名前は確かジュール様だったかと」


 ジュールのステータスを確認すると確かに幾つかの魔術のスキルがあるし、称号にもそれらしきものが存在した。

 しかもその他に『高位治療師』というこの場で役に立ちそうな称号まである。


「そこのボンクラ二人は俺の指示した通りに解毒剤を調合しろ!」


 その称号は伊達ではないらしく王族を治療する役割を与えられる相手に向かってボンクラ呼ばわりしたどころか、それまで誰も特定できなかった毒の種類をあっさりと特定してしまったらしい。


 それどころか解毒剤に必要なものまで指示を出しているのだから恐ろしい。


 もっともそれを見て僕が一番恐ろしいと感じたのは、毒の種類なんて関係なく消し去れてしまう魔法やそれに類するメニュー能力だったけれど。

 改めてこれらの力がどれだけふざけているのか実感させられるというものだ。


 そのジュールという人物のおかげで治療は先程とは比べ物にならない程の速度で施されていく。


 その証拠にステータスにあった幾つかの状態異常は見事に治療されてなくなっていった。


 ただ腕の良い人物が一人加わっただけでどうにかなるほどこの状況は甘くはないようだ。


「くそ! 増血効果のある薬を片っ端から投与しろ!」

「よ、用意していた分は既に使い切っています!」

「使い切っています、じゃねえよボケが! てめえの頭は空っぽか! んなこと言ってる暇があるなら他のとこからかっぱらってでも持って来い!」


 更に口が悪くなった彼の額にも汗が浮いている。王子のHPの上限も四分の一まで来ているし、かなり危険な状態なのだろう。


(僕が手を出さないで済むのが理想だったんだけどな)


 それが無理なら仕方がない。

 手を出すが、それは誰にも気づかれずにこっそりと。そしてその功績は他人に譲ることにする。


 それに適した丁度いい人物もこの場に現れてくれたことだし。


(これぐらいでいいかな?)


 僕は王子のステータスの中から幾つかの状態異常を選択し、それらを魔法で消す。


 すると掛けられていた回復魔術がその効果をいかんなく発揮して王子のHPはあっという間に満タンになる。


「な、なんだ? どうなってやがる?」


 その異常な事態にこの場で気が付いたのはジュールだけだった。周りの人達は王子の内部で何が起こったのかも気付かずに只管治療を続けている。


 そして一瞬疑念を抱いたジュールも今はそんな場合じゃないと判断したのか、すぐに治療に没頭していった。


「増血剤も解毒剤ももういらん! お前らは只管回復薬と魔術で体力を維持してろ!」


 僕が毒などの状態異常を消し去ったのを正確に読み取っているらしいその腕前と観察眼はさすがの一言。伊達にレベルも98と三桁に近いだけはある。


 これで今回の功績は彼のものになるはず。そして僕は何も出来ずにいたという評価になることだろう。


 上手くいけばユーティリア達の好感度も下がるかもしれない。


(全て狙い通りだね)


 そこから嘘のように回復していく王子のステータスを眺めながら、僕は内心でガッツポーズを取るのだった。

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