プロローグ
王都の発着場に着陸した飛空艇から降りた僕達はポール以外その口をポカンと開けて驚いていた。
なにせ見たこともないような施設や建物で周囲がいっぱいだったからだ。
「ようやく地に足が着いて生きた心地がしますよ」
「確かに二度も飛竜が襲って来る空の旅なんて二度と御免ね」
ミーティアとポールが思わぬところで意気投合していると、そこにユーティリアも船から降りてきた。そしてそのまま笑顔で僕の元に駆け寄ってくる。
ちなみに甲板でされた案内の申し出は降りる準備があると言って答えずに逃げてある。
「それでは王城へ案内しますね。そこで私の父、即ちこの国の王と謁見していただくことになります」
「それは構わないのですが、僕はこの国の礼儀作法とかわからないのでまずはそれを教えて貰うところからでもいいですか?」
気付かぬ内に無礼な行いをして心象を悪くしたくないのだ。
「わかりました。と言ってもそう難しい事は何もないですから安心してください」
そこまで会話したところでふとメルがユーティリアの事をジッと見つめている事に気が付いた。
そしてその様子を見ている周りの騎士や侍女達の表情がどこか強張っているように見える。
そう、まるでメルの事を怖がっているように。
(やっぱり飛竜を倒したのが影響しているのかな?)
忌避されている感じはしないので、あくまで力に対する反応だと思う。
確かに飛竜に対して圧勝すれば、その力の大きさを嫌でも実感させられるだろうし気持ちは分からなくもない。
そこで僕がその頭に手を置いて撫でると、メルはすぐにこちらを見上げてきてニッコリを気持ちよさそうに笑顔になる。すると周りの緊張も少し和らいだ。
もしかしたら僕の好感度が帰ってきてから上がったのは迷宮から王女達を無事に連れ帰っただけでなく、こうしてメルを制御できる事が理解された事もあるのかもしれない。
そうでないとこの反応はおかしいし。
はしゃぐオルトをミーティアが抑えて、そこでレイナさんやユーティリアの案内に付いて行こうとしたその時だった。
急に高級そうな服に身を包んだ身分の高そうな三十代前半くらいの男がその場に駆け込んできたのは。
「た、大変です姫様!」
「ヒューリック、そんなに慌ててどうしたのですか?」
その発言の後にユーティリアは彼がこの国の宰相の側近だと教えてくれる。
という事はかなりえらい人物だということだ。その人物がここまで焦って大変だと発言する事に嫌な予感を覚えると、
「だ、第三王子が、ハーネスト王子が王都へ帰還中に何者かに襲撃され、現在意識不明の重体となっているのです!」
案の定、とんでもない発言がその口から飛び出て来た。周囲の騎士や侍女達も血相を変えてざわめきだす。
「ぶ、無事なのですか? お兄様は大丈夫なのですよね?」
「現在医師達が中心となって治療を施しておりますが、非常に危険な状態だそうです」
「そんな……す、すぐにお兄様の元に向かいます! 案内してください!」
兄妹の危篤の報に焦っているのか僕に回復能力がある事や案内する事など完全に忘れてそう言ったユーティリア。てっきり助けを求められるかと思っていたのだが。
(ヒューリックって人まで焦っているところを見ると、僕達を試す為の演技ってわけじゃなさそうだな)
そんなある意味で不謹慎な事を考えていると、
「どうせだから付いて行きましょうよ」
珍しい事にミーティアがそうやって提案してきた。
「理由は?」
「別にあなたの事だからこれもどうにか出来るんじゃないかって思っただけよ。それに王族に恩を売る絶好の機会だし」
他の仲間を見るとオルトとメルも何か言いたそうな目でこちらを見上げている。
回復能力がある事は伝えてあるし回復薬があることも教えてあるからそれでどうにかしてくれないかと思っているのが言わなくてもわかった。
(確かに恩を売るのに丁度いい機会ではあるんだけど、これを治すと更に好感度が上がりそうなんだよなあ)
かと言って助けられる命を助けないのは寝覚めが悪くなるので助けないという選択肢はない。
(なんにせよ、とりあえず向かってみるしかないか)
レイナさんもユーティリアに付いて行ってしまったので、僕は近くにいたもう一人の回復能力を知っている王国側に人物に声を掛ける。
「ホロス、その王子の元までの案内を頼めるかな?」
「そ、その言葉はつまり……わ、わかった! 付いて来てくれ!」
何か言おうとしたホロスの口を笑顔で塞ぐと、僕達はホロスの案内で第三王子とやらがいる場所まで案内されていった。