その3
飛竜を倒した代償は手首を少し捻った程度のものだった。
(これぐらいなら放っておいても治るよね)
そこで着地した飛空艇から何人もの騎士や侍女の人が降りてきた。
そして私が倒した飛竜と周囲の惨状を見て驚いた表情で周囲の人と話している。その会話の大半を聞き取りながら、私はその人達に向けて一言だけ言う。
思わず言わずにはいられなかったのだ。
勝手な事にこれが勇者の仲間の力とか、どうして私ではなくコノハさんがリーダーなのかとか言っているのが聞こえて来たから。
「この飛竜には触らないでください」
「え、いや、しかし」
「この飛竜は私が倒したんですから私の主であるコノハさんがどうするのかを決めるのが当然の事ですよね?」
何か言おうとした人はその私の発言を聞いて真っ青になって押し黙る。
別に脅すつもりはないのだけれど、感情の所為か口調が冷たくなってしまった所為だろうか。
「それとさっきも騎士の人に言っておきましたけど、私が聞こえる範囲でこれ以上コノハさんの事を侮辱するのは止めてください。お願いします」
いい加減我慢の限界なので、という言葉はどうにか理性を働かせて付け加えなかった。
だけど言葉のニュアンスでその思い自体は伝わったのか、多くの人が青い顔をして頷いていた。中には震えている人も。
そこで風の神が私にそれを知らせてくれると、思わず頬が緩んでしまう。そして目の前の人達の事など一瞬にしてどうでもよくなってしまった。
すぐに私は飛空艇の中に走ると、その部屋を目指す。背後でコノハさんは一体何者なのかという話が出ているようだが、それもどうでもいい。
そうしてこの四日間ずっと待っていたその部屋に駆け込むと、オルトとティアさんがそこにはいた。
「おかえり! 凄かったな!」
「色々言いたい事はあるけど、とりあえずその様子だとこれが何だかわかっているのかしら?」
「はい!」
目の前の陣が光り出している。この四日、ずっと待っていた反応がそこにはあった。
「もうすぐコノハさんが戻って来るんです!」
その言葉にティアさんも無茶した事を叱るのは後にしてくれて、やがてその扉は開いて行く。迷宮に向かうための扉が。
そしてその光が安定した瞬間、
「って、こら! メル!」
私はティアさんの制止も聞かずにその光の中へと飛び込んで行く。
するとすぐに懐かしい、ずっと会いたかった人の匂いが鼻に届く。ほんの僅かだが血の臭いも感じる。
きっと王女様達を守る為に傷を負ったのだろう。コノハさんはそういう人だ。
「コノハさん!」
あの人には回復能力があるし、そもそもやられる訳がない。
そうわかっていても逸る心を抑えられずに私は光の先に見つけたその人の胸に向かって飛び込んで行った。
次回から第五章王都編が始まる予定です。