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僕は姉の代理で勇者――異世界は半ばゲームと化して――  作者: 黒頭白尾@書籍化作業中
第一章 異世界への旅立ち チュートリアル編
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第八話 未知の恐怖

 ダイアウルフの肉、骨、毛皮に牙などがアイテムの一覧に表示されている。たぶんだけど、こういった素材を使うことで合成をすることができるのだろう。今のところレシピがないので出来ないけど。


 そう思って試しにメニュー内で適当に合成してみたけど失敗してアイテムの数が減るだけだった。


 どうやらレシピなしでも合成自体は可能なようだが、必ずしもうまくいく訳ではないらしい。材料を無駄にしないためにも無謀な合成は控えるとしよう。


「それであなたは一体何者なのか、いい加減教えてもらえるかしら?」


 目の前に突き付けられたナイフの先を見ながら僕はそんなことを考えて現実逃避を図っていだが、何時までもそうやっている訳にもいかない。何故ならいつその切っ先が突き立てられるかわからないからだ。


 あの後、ミーティアは水瓶を探すのをひとまず諦めてトジェス村へと戻った。もちろんその後を付いて行ったので僕も同じである。


 そうして村に戻ったのだが、そのまま有無を言わせずミーティアの家に連れ込まれてこの状況に至るという訳だ。扉に押さえつけられているこの状態は端から見れば色々と誤解を招きかねないものである。


 もっとも今のこの場には僕とミーティアしかいないし、そもそもナイフがある時点でそんな色気は吹き飛んでしまっているのだけれど。


 話せないならせめて紙に書くなどで教えることはできないかと思ったが、その考えが頭に浮かんだ時点で警告音が鳴ったので止めておいた。またペナルティを食らうのは御免である。


 このチート能力こそが僕の生命線と言っていいのだ。わざわざ好き好んでそれを削るような真似をするなんて馬鹿以外の何物でもないだろう。


(さて、どうしよう)


 逃げようと思えば逃げられた。だけどそれはあまり意味のない行為だ。


 とりあえず僕の目的はこの村にいるスパイを見つけ出すこと。そして今の状況でそれについて情報を持っていそうなのはミーティアだけ。


 となれば彼女から話を聞くという選択肢は揺るがない。この時点で逃げるという選択肢はあり得ないのだった。


「……僕はある目的のためにここに来た」


 少し考えた結果、僕は図ることにした。


 そう、限界はどこなのかを。


「目的?」

「この村にいるある人物を見つけ出さなければならないんだ」


 少しずつ歩みを進める。どこまでが安全で、どこからが危険なのかを見極める為に。


「このトジェス村にはスパイ、内通者がいる」

「待って。内通者云々の前に、そもそもなんであなたがそんなことを知っているの?」


 異世界からやって来た勇者と言えないことは先程のことで確認済み。だから今度はもう少し曖昧に言ってみることにした。


「……僕はある人からの依頼で動いているんだ」


 今のところ警告音もペナルティもない。どうやらこれぐらいならセーフなようだ。


 もう一歩踏み込むべくその依頼主は神であることを口にしようとしたら流石に警告音が鳴った。どうやら勇者や異世界、神などのある一定のことを他者に教えることはダメなようだ。


(それにしてもなんで最初だけ警告なしでいきなりペナルティだったんだろう?)


 少し考えて恐らく罰があることを教えるためだと結論付けた。実際に経験させることでよりわかりやすく僕にペナルティの意味を教えようとしたのだろう。


 現にもう一度、勇者のことについて話そうとしたら警告音で済んだし。


 探り探りに話している僕の態度にミーティアは少し苛立っているようだが、僕は自分のペースを崩すことはしなかった。


 これは万が一、向こうが痺れを切らして襲いかかって来ても傷一つ負うことはないという確信があるからこそ出来ることだ。


「依頼主との契約などがあるから、悪いけど僕が何者なのかとか詳しいことを教えることはできない。でもこちらが色々と情報を持っていることを証明することはできるよ」


 どうせこのままでは何もわからないのだ。


 だから僕はリスクを承知で手札を切った。


「例えば君が元盗賊であることとか、ね」


 この発言にミーティアの持つナイフの先が揺れる。それは明らかに動揺を指し示すものだった。


「……何を言ってるの?」


 その視線はこれまでと違って揺れているのが見て取れた。


 残念ながら神から授かったチートと言う訳にもいかないので、


「それは言えない。だけど詳しいことを知ってはいないよ。僕が知っていることは君が元盗賊であり、そして奴隷であることくらいさ」


 更に畳み掛けるこの発言で彼女の動揺はピークに達したのか、ナイフを取りこぼし、目に見えるほどその手が震えていた。


 それどころか恐れを表すかのように一歩後ずさりをする。


「ど、どうしてそれを……。あなたは、一体何者なの?」


 その言葉は先程とはまったく違う感情と意味が込められていた。


 得体の知れないものを見る目で恐怖に震える彼女。どうやら想像以上に衝撃的な発言だったらしい。最悪の予想としては口封じの為に襲いかかってくる、だったのだがどうやらまったく別の方向に話は進んだらしい。


 正直、この反応はまさかである。あれだけ強気だったのが嘘みたいだった。


 このまま情報を聞き出すのが正解なのだろうが、女の子相手にそれは躊躇われた。こちとら少し前までただの高校生だったのだ。いきなり非情になれと言われても無理だ。


「今の僕の目的はあくまで内通者を見つけることだけ。このことを口外するつもりはないし、君に会いに来たのも情報を知ってないかと思っただけだよ」

「……本当にそれだけ? 奴隷のことも知ってるってことは団から指令でここに来たんじゃないの? 私を連れ戻すか始末する為に」


 どうやら僕が彼女の秘密を知っていたことで差し向けられた刺客みたいに思われているようだった。だからこその怖がりようだったということか。


「それは勘違いだから安心していいよ。と言うかそんな強くないし」


 安心させるために僕はあえて弱い振りをすることにした。両手を開いたまま肩の高さまで上げて降参のポーズをとり、肩を竦めて見せる。


 この対応は甘いのかもしれないが、これで調子に乗った相手が襲ってきても撃退は可能だから別に構わないだろう。こちらにはチートという名の圧倒的武力もある訳だし。


「僕はただ君に協力を頼みに来ただけ。出来る限りでいいから僕にこの村のことについて教えてほしいんだ。代わりと言ってはなんだけど手伝えることがあれば力を貸すよ」


 降参のポーズのままそう言うと、しばらく考えていたミーティアだったがやがて頷いてくれた。どうやら一先ず交渉成立だ。


「それじゃあ改めてよろしく、ミーティア」

「……名前を教えた覚えもないんだけどね。本当にあなたは何者なの?」


 これについてはグッチさんから話を聞いていたので説明することもできたのだが、


「まあ、それは秘密ってことで」


 ハッタリを利かせる意味も込めて僕はそれを黙っておくことにした。


 もしくは格好つけたとも言うけど、これぐらいなら別にいいだろう。代理で誰にも教えられないとはとは言え、これでも勇者なのだから。

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