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第十八話 休息 その2

 戻ってきた僕はメルやオルトと共に元の部屋へ行くとそこでそちら側で何かあったのかを聞いた。そしてそれを聞き終えた後に僕は確認すべきことを確認していく。


 まず今回の重要クエスト達成で得られた報酬は二つある。


 一つは単純に好感度の機能が今後とも実装されるというもの。

 どうもクエスト時に新たに得られる機能は仮のもので、そのクエストをクリアすることで永久的な機能になるらしい。


 たぶんだが、クエストに失敗するとその機能は消えてしまうのではないだろうか。


 もう一つは迷宮を脱出したことによる報酬で、手に入れたのは『隠蔽』のスキルだ。そう、狐面に込められたスキルと全く同じものである。


 コンの時だけでなく通常時にもあっても困るスキルではないので嬉しくない訳ではないのだが、本音を言えば『心眼』とかの方がよかった。そうすれば敵の『隠蔽』などに対しても苦戦することもなくなるだろうし。


 でも今回で得たスキルから推察できることもある。


 それは重要クエストの報酬でスキルが与えられる場合とは魔族を倒した時で、更に手に入るスキルは魔族の能力が大きく関係しているのではないかということだ。


 前に『火属性魔術』のスキルを手に入れた時、相手は火の魔術を大技として使ってきた。そして今回のポルックスとカストルはどちらも『隠蔽』のスキルを持っていた。


 これらが偶然だと考えるのには少々出来過ぎだろう。


(つまり『心眼』のスキルを持った魔族を倒せばそれが手に入る可能性が高いって事だよな)


 もちろんその時には何らかのクエストが出ている状態ではないといけない訳で、よほどの運がなければそんな都合の良いことは起こらないだろうが。


 そんなことを考えながら僕は今回の迷宮で手に入った武器を分解してそれらのレシピを入手していく。


 その中でも最も際立っていたのはやはり飛竜の牙から作られたというあのナイフだ。その性能は材料の格が違うことからも他とは比較にもならないほどに高い。今回の迷宮探索での一番の報酬は間違いなくこれだろう。


 そのナイフは三本目を分解したところでレシピを入手。それによるとこのナイフの名称は『ドラゴンファング』とまさにそのままの名前だった。


 そしてレシピさえ手に入ればこっちのもの。すぐさま分解と合成を繰り返し、その性能をほんの僅かずつだが高めていく。


 価値が高い所為か、それとも材料が特殊な所為か合成でも分解でもロングソードとは比べ物にならないほどのMPが一度に消費される。


 しかも百回ほど繰り返してもまだ上限には達しなかった。迷宮探索や魔族との戦闘もあってかなりのMPが消費されていた状態とは言え、殆どのMPを使い切ったというのに。


 どうやらエディット機能が使えるようになるまでには根気のいる作業になりそうだ。

 とは言え必要な材料はメルのおかげで結構余裕があるので時間させあればかなりの数を作り出すことも可能になるだろう。


 現在、飛空艇はとある平原の開けた場所に着陸している。なんでも僕や王女がどこかに飛ばされたなった後すぐに王都へ早く辿り着くべく速度を上げたらしい。


 そこでVIPの部屋に現れた黒い泥やその痕跡の魔術陣とやらをいち早く解析して助けを送る為に。


 だけどある程度進んだところでまたしてもそれを邪魔するにように飛竜が襲来。しかも今度は急いでいたこともあって死角を突かれてしまったらしく兵装の準備も間に合わなかったのだとか。


 そしてここからはミーティア談だが、僕が当然いなくなって心配すると同時にイライラとストレスを限界まで溜めていたメルがうるさい飛竜にブチ切れたのか暴走してしまったらしい。


 あるいはもしかしたら本能的に飛竜が今回の一件に関わっていることを薄々察していたのかもしれない。


 そうしてキレてしまったメルは単身で飛空艇に迫り来る飛竜に向かって飛び掛かると、なんとその飛竜もろとも地面に落下していったのだとか。


 これは勝手な推測だが、その戦闘の中で新たな『飛空』というスキルを手に入れたのだろう。


 それを慌てて追った飛空艇がメルの元に着いた時にはまるで天変地異でも起こったかのように荒れた大地とボロボロになって息絶えた飛竜。

 そして掠り傷と服が多少破れただけでピンピンしているメルが出迎えてくれたのだとか。


 僕が言えることではないのかもしれないが尋常ではない。


 雲の上の高度から落ちてなお無事なのもおかしいし、飛竜相手に単身で圧勝とかもふざけている。つくづく勇者やその仲間とやらは常識外れな存在だ。


 そうしてメルを迎える為に着陸して、再出発の準備をしている時に迷宮への扉が開いたとのこと。つまりメルは飛竜を倒したその足で迷宮に飛び込んだ訳だ。


 現在、座った僕の太ももの辺りを枕にしてまるで猫のようにゴロゴロとしている姿からはまるで想像も出来ない力やスタミナだ。


 その頭を撫でると嬉しそうに喉を鳴らして頭を押し付けてくるし、尻尾も腕に絡ませてもっとと言うように引っ張ってくる。その甘えてくる姿を見れば好感度が90台なのも納得するしかない。


 こういう言い方は失礼かもしれないが完全に僕を主人と認識しているペットのようだし、先祖返りで両親とは違った猫の半人半獣(ハーフビースト)でも親であるゲイルさんの犬の獣人の気質も受け継いでいるのだろうか。


 そんなことを考えているとミーティアも部屋に戻ってきたので、そこで迷宮内で起こった経緯について説明する。


 もちろん僕の活躍は控えめに、そしてポルックスは逃がしたことにしてだが。

 これで倒してきたというと更に目立つことになるし、その方が王国側も警戒を強めるだろうから。


(最後のポルックスの様子だと仲間がいてもおかしくないしね)


 そうして仲間内で情報交換を終えると、


「それで隠しておきたい能力を結構見られたみたいだけど、どうするつもり?」

「どうするって言われてもね。他言無用にするようにお願いはしてあるけど、まあそれは無理だろうからある程度漏れるのはしょうがないよ」


 それについては後ろ盾を得るためにはある程度は仕方のないことだと思っていたので構わない。もっともユーティリア達が回復したら説明を求められる気がするが。


 仕方がなかったとは言え、あの人達には色々と見られてしまった。ペナルティはないから決定的ではないだろうが、それでも何らかの形で誤魔化しておく必要はあるだろう。


 とは言えそれは後の話だ。


「悪いけど僕もそろそろ休むよ。流石に疲れたしね」


 情報交換は終えたし、それで新たな問題が生まれてもいない。


 つまりようやく休めるという事だ。なんだかんだ迷宮内では休憩中でもずっと起きて活動していたし、警戒を怠るわけにはいかないので寝ずにいたのだ。


 というわけで僕はベッドに横になる目を閉じる。数日ぶりの睡眠を取る為に。


 眠りゆく意識の中でちゃっかりメルがベッドに潜り込んでくる気配を感じながら、今回は大分心配をかけたこともあってそのままにしてあげて、僕は眠りの世界へと落ちて行った。



「で、またここですか」


 気付くと僕はまた例の風の神がいる場所にいた。


「やあ、お疲れ様」

「そっちに色々と手伝ってもらったおかげでもありますよ。それでこうしてまた呼び出したってことは前の話の続きですか?」


 気軽に挨拶してくる風の神に僕は礼を言いながらも単刀直入に本題に入るように促す。

 前の時に時間切れだったし、悠長にしてまた同じことになるのは御免だったから。


 だけど、


「それなんだが、申し訳ないが話の続きは出来なくなったんだ」


 困った表情で風の神はそう言った。それに僕は驚く。

 何となくその気になれば神にできないことはないと勝手ながら思っていたので。


「え、何故です?」

「余計なことをするな、と叱れてしまったからね。君に力を与えた彼女がそう言うのなら私はそれに従うしかない。残念ながら君は風ではなく無の勇者なのだからね」


 またしても無の神の仕業らしい。本当に何がしたいのやら。


(こっちに顔も見せずにやりたい放題ってひど過ぎないかな?)


 そう思った言葉を読み取ったのか、風の神はそこで続きの言葉を口にする。


「ただ彼女も近い内に君に会いに行くと言っていたよ。その時に話すから余計なことは言うな、とのことだ」

「ようやく、と言うか今更な感じですね。って、それを伝えるだけの為にわざわざここに呼び出したんですか?」

「それもあるが、本題は警告する為だよ」


 その言葉を口にした瞬間、風の神の雰囲気がガラリと変わって真剣な様子になる。


 こんな態度は初めてのことだ。

 これまではずっと余裕を感じさせる態度だったというのに。


「無の神が勇者を選んだ時点で今回の勇者と魔王の戦いはこれまでとは違ったものになるとは予想していた。だけど予測を超えて勇者と魔王、どちらの陣営もおかしくなってきている。恐らく今回の王女襲撃もその影響によるものだろう」


 そう言われても僕には何がおかしいのか見当がつく訳がない。何が普通の勇者と魔王の戦いなのかわからないのだから。


 とは言え、何か神がわざわざ呼び出して警告するのだから余程の事態と見るべきだろう。


「それで僕にどうしろと?」

「話が早くて助かるよ。君には一刻も早く無の神に会ってもらいたい。そして彼女から私では話せない話を聞いてほしい」

「……それだけですか?」

「私から言えるのはそれだけだ。後のことは君と無の神に任せるしかない」


 そこでタイムリミットを迎えたのか景色が薄れていく。まだまだ聞きたいことは山ほどあるというのに。


「やはりこの短期間で何度も繋がるのは無茶だったか。しばらくは君とは交信できなくなるかもしれないが、後のことは頼んだよ」

(ちょ、無責任な!?)


 その文句をいう事も出来ずに僕の意識は薄れていった。


 神という名を持つ奴はどいつもこいつもこちらの都合を考えないだな、という愚痴のような感情を持ちながら。

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