第十話 チートの本領発揮
「うおお!」
曲がり角からゆっくりと歩いて現れたダークスケルトンナイトに向かってホロスが雄叫びと共にその剣を振り降ろす。
だがその奇襲に対しても向こうは素早く反応し、その手に持っていた楯でその攻撃を受け止めていた。
「ちっ!」
そして向こうも持っていた剣をホロスに対して突き出して来て、お互いが相手の剣を楯で防ぐという攻防が続いていく。
だがその拮抗も第三者の介入によって崩れることとなる。その介入とは僕の投石による援護攻撃の事だ。
狙い澄ませて剣を振り降ろそうとした時のその手首辺りに石を叩き込むことで破砕、支えを失った剣は当然の事ながら振り降ろされることはなく、
「そこだ!」
隙を作ったダークスケルトンナイトはホロスの袈裟斬りの一撃を受けて骨の体を破壊され、戦闘不能に陥っていた。
まだHPはあったが自らの体を支えていられない状態になってはその意味もなく、続く止めの斬撃で終わる。
ただそこである問題が浮上した。
いや、前々からその時が来ることは予想していのだが、それが遂に来てしまったと言うべきだろう。
「くそ、もうこの剣はダメだな」
この第七階層まで活躍を続けていたホロスの騎士剣の刃が大きく欠けていた。
まだ折れるには至っていないが、これではもう使い物にならないだろう。
こうなっては代わりの剣を使うしかないのだが、ホロス曰く僕が持っている物もスケルトンなどが持っている物も軽過ぎるらしい。
なんでもホロスの所持する騎士剣は両手剣並の重量を誇り、その頑丈さと重さを利用して敵に自らの体重も乗せた強烈な一撃を食らわせるのがホロスの戦い方なのだとか。
だから軽い剣だといつもと勝手が違う上に攻撃時の威力も落ちてしまうのを避けられない。それに少なからずバランスも狂うと言っていた。
(それにしても両手剣を片手で軽々と振り回すって、ホロスも色々と人間離れしているんだな)
レベル的にはレイナさんの方が上だけど、その騎士剣をレイナさんが持てないことからも単純な筋力ではホロスが勝っているしHPもホロスの方が多い。
そしてその分レイナさんのMPがホロスの倍近いことから戦い方、あるいは鍛え方によって伸びる能力に差が表れるようだ。
「これが一番マシかな。欲を言えばもう少し重さあるといいんだが」
近くにあった小部屋で休憩をしながら、これまで回収してきた装備の中から代わりになりそうな剣を選んでいくホロス。
だがその表情を見るに、やはり満足できる物はないようだ。
(特殊な装備でもないし、レシピさえあれば普通の剣ぐらいメニュー能力で簡単に作れそうなんだけどな)
素材に関してはこれまで手に入れてきた装備を分解すればいいだろう。
どれも品質がいいとは言い難いが、それでも必要とする金属としての役割ぐらいならこなせるはずだ。
そう思って試しに倒す時に少し失敗して半壊寸前となってしまった一本の剣を選んで分解の機能を使ってみる。
するとほんの少しだけMPが消費されて鉄や銅などの素材が生み出された。もっともやはりどれも品質はよくなかったが。
そしてダメ元で分解によって生み出された素材を使って合成してみる。
これで剣が構成されていたんだし、合成したらレシピがなくても作れるんじゃないかという淡い期待を抱いて。
だけど、
(まあ、そうなるよね)
現実はそんな甘くはなくあえなく失敗に終わる。だけど可能性に掛ける意味を込めて僕はその行為を何度か繰り返してみた。
休憩中に動いていたこともあって、この迷宮で回収した武器の数は百を超えている。
これまでものと合わせて腐るほどあるその内の十本や二十本くらい使ってどうってことはない。MPに至っては言うまでもないだろう。
そう思って分解すること五回目、思わぬ事態が発生した。
「……うわー、そういう事だったのか」
分解には成功した。いや、むしろそれ以上の成功をしてしまったのだ。
なにせ分解に成功したと同時に新たなレシピを入手したとログに書かれており、そのレシピにはたった今分解したばかりのロングソードという名の武器を合成するのに必要な素材が書かれていたからだ。
(レシピを入手するには基本的に分解をする必要があったのか。道理でこれまでほとんどレシピが手に入らなかった訳だよ)
それに加えて五本目でようやく成功したことから考えて、ある程度の数を分解する必要もあると思われる。
これまで全く気付けなかった新事実に発見という訳だ。
(ったく、これぐらい初めから教えてくれてもいいものを。そうじゃなくともチート能力説明書なんて用意したんだから、そこに載せてもおいてもいいだろうに)
合成と分解が同じ括りで説明されていたのも二つの能力が似ていたからだけでなく、この二つはうまく組み合わせて使う必要があったからだったのかもしれない。
とにかくレシピも手に入ったので問題はなくなったのだ。だから後は素材を使って合成するだけである。
必要とされた金属系の素材を二つとMPを使って合成は見事成功。
ただ出来上がった剣は何故か使った材料の割に出来がよく、品質なども格段に向上している。
新品だからだとしても少し変に思うほどに。
(ま、まさか)
僕はもう一度出来上がったそのロングソードを分解してみる。すると素材の品質なども先ほどよりも僅かにだが、確実に良くなっていた。
だとすればやることは一つだろう。僕は更にその工程を繰り返し、その度にロングソードは名称が同じでもドンドンと質の良い物へと変化していった。
(これ、下手すれば無限に強化し続けられるんじゃ……)
そうやってチートの恐ろしさを再認識しながら五十回目の合成を行うとした時、これまでにない画面が新たに表示される。
それによれば最高品質の物の合成に成功したとのことで、これ以上の強化は不可能のようだ。
これは残念な事のはずなのに何故か少しだけホッとする自分がそこにはいた。
ただその代わりに今のところはロングソードに限ってのみだが、合成でエディット機能が使えるようになっていたが。
通常の合成で作り出せるアイテムではその効果を僕が調整することはできない。
ロングソードで言えば攻撃力や強度、はたまたサイズや重量などを自動的に平均的か、あるいはそのアイテムに沿ったように設定がなされて合成されるといった風に。
だがそれで最高品質の物を作り出せるようになると、こうしてエディット機能が表れる通り、僕の好きなように攻撃力や強度などやそれ以外にも色々といじれるようになるようだ。
これがあれば一撃の為に攻撃力だけを特化した物や、超巨大なロングソードだって作れるだろう。
もっともあくまでそれらにも限界はあり、それは使われる材質によって決められるようだが。
だから無限の攻撃力とかは絶対に不可能だし、攻撃力だけを特化すると強度が足りなくて一撃で自壊してしまう事だろう。
大きさであれば構造上の限界もある上に消費する素材の量に依存することになる。
(それにしたってこれは明らかに僕が考えていたチート能力を超えた性能だよな)
サービスで与えたというには余りにもチート過ぎる能力だ。
なにせ試しにエディット機能を駆使して合成してみたら、重さやサイズは半壊した騎士剣と全く同じでありながら攻撃力や強度などは段違いに強いロングソードを作れてしまったのだから。
この分だと他の装備でもとんでもない物が作れそうだった。
(さてと、凄い物が作れたのは良かったけど、これをどうやってホロスに渡そうか。凄過ぎる能力だし、合成で作れるって正直に言うのは流石に不味いよな)
だとすればそんな時の為に人身御供として用意した奴を使うに限るだろう。
「すみません、これなんかどうですか?」
アイテムボックスの件や百発百中の投擲能力で既に色々と呆れられている。だから今更少しぐらいそれが増したところでどうということはないだろう。
その度に約一名の視線の熱が高まっていることだけは深刻な問題だが。
これでも可能な限り目立たないよう先程の戦闘時のように援護するだけに留めているのだが、残念ながらその効果は余りないと言っていい。
だからと言って援護しないと戦う二人が危険に晒されるし、自分だけでやるともっと悪化することだろう。
八方塞がり、その言葉の意味を僕はしみじみと体感させられているのだった。
「こ、これは!? 重さや大きさ、それにバランスと言い、まるで図ったかのようにあの剣とそっくりじゃないか!?」
「そうですか? それならよかったです」
(と言うか、そこは完全に一緒だからね)
そんな風に逸れかけた思考はそのホロスの驚愕の言葉で戻ってくる。
「見たところこれは新品のようだが、どうやって手に入れたんだ? これまで出さなかったところを見ると最初からボックス内とやらに入っていた訳ではないんだろう?」
「実は僕このアイテムボックスという機能を仲間の一人と少しだけ共有しているんです。これはあくまで僕の予想ですけど、その仲間がどこかに飛ばされた僕達に必要になりそうな物をこのボックス内に送ってくれているんだと思います。もっともこの場所が特殊なせいか、あまり多くの物は来ていないみたいですけど」
「そ、そうなのか。まあ、コノハ殿なら何でもありみたいなものだからな」
説明を聞き終えたホロスは素振りをして剣の感触を確かめる。
「……うん、これならば問題ないどころか前以上に戦えるだろう。本当に貰っていいのか?」
「ええ、こんな時ですからね」
そうして案に食糧などが無限に供給される訳ではない事も告げながら僕は本当のことを誤魔化した。
僕が勇者であることを知られない為に用意したのがコンという人物なのだから今回も、そして今後も面倒なことは彼に押し付けることにしよう。
その方が色々と楽だし。
ここまでの迷宮探索での援護とそのプレゼントのおかげで、遂にホロスの好感度が4とマイナスではなくなったのを見ながら僕がそんなことを考えていると、
「コノハ様。よろしければ少しお話をしませんか?」
「……もちろんいいですよ」
休憩中にユーティリアがわざわざ僕の隣に座って来て話し掛けてくる。好感度の方も45とドンドン高くなってきていた。
その後はユーティリアからこれまでの休憩と同じように色々と質問をされ、それに答え続ける。
故郷はどういったところなのか、姉はどんな人物なのかなどの答えられない点は誤魔化しながらだが。
(残る階層も三つになるところまで来たし、このまま何事も起らずに終わればいいんだけどな)
話を途切れさせない為にこちらから質問すると嬉しそうに話し出すユーティリアの顔を見ながら、僕は恐らく叶わないであろう願いをこっそりと抱くのだった。