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第八話 休息 その1

 第二階層に辿り着いた僕達だったけどすぐに足止めを食う事となる。そこでユーティリアに限界が訪れたからだ。


「すみません。私の所為で」


 魔物という自らの命を狙い相手がいる空間に居続ける事は思った以上に体力や精神力を消費する。例え実際に戦う事はなかったとしてもだ。


 ある程度は慣れているレイナさんやホロス、または命の危険などまったくないと言い切れる僕はそれでもまだ大丈夫だったが、王女であるユーティリアではそう上手くは行かないのが当たり前だった。


 むしろよく一つの階層を踏破するまで持ったと言えるだろう。


「……私は何もしていないどころか足を引っ張ってばかりですね」


 その言葉にホロスとレイナさんは返答出来なかった。

 仕える者として肯定は絶対に出来ないだろうし、かと言って否定してもそれが嘘である事をユーティリアが分からない訳ない。


 戦いながら未だに限界が来ない二人では、何を言っても逆効果になるだけだった。


「そこまで気に病む必要はないと思いますよ」


 その分、今のところ索敵以外は何もやっていない、ほとんどユーティリアと同じような立場の僕は比較的気軽にその言葉を言うことが出来た。


「僕としてもここに飛ばされてからずっと動きっぱなしでお腹も減ってましたから、むしろ休憩が出来て丁度良かったくらいです。僕が休憩したいとか言い出すと怒り出しそうな人もいる事ですし」


 そう言って横の人物をチラッと見る。すると目が合った。


「おい、それは誰の事を言っているんだ?」

「まあ私ではないでしょうから、必然的に答えは出たも同然ですね」

レイナさんも乗っかったところでユーティリアは耐え切れないといった様子で吹き出した。

「あはは、ごめんなさい。でも、おかしくって」

「その様子だと姫も同じ人物を思い浮かべたみたいですね」


 そう言いながら僕はホロスに目線でここは我慢しろと訴えた。


 向こうもこれでユーティリアが暗くなって自分を責めるのを一先ず止めたことがわかっているのか、憮然としながらもこちらに食って掛かってくるような真似はしない。


「ところで、食事にするにしても食糧はどうするのですか?」


 レイナさんの疑問はもっともなものだった。食べる物がなければどうやったって食事にありつける訳がないのだから。


「何の用意も出来ずに飛ばされた以上、現地調達するしかないでしょう。ただ第一階層にはクレイゴーレムしか現れなかったし、あれでは食糧にはならない。となれば先に進んで、そこで食糧になる獲物が見つかることに期待するしか」

「ああ、それなら大丈夫ですよ」


 その言葉を遮って僕はボックス内から適当な果物を取り出すと、それをホロスに向かって放り投げる。それをキャッチした時の驚いた表情は中々に面白かった。


「……まさか、衣服だけでなく食糧まで貯えておけるというのか?」

「生物以外なら大体しまえるみたいですよ。それに旅をする上で食糧とか衣服は結構な量を買い込んでありますから、攻略に一ヶ月掛かったとしてもそういった事で不便する事はないはずです」

「……すみません、生物以外とおっしゃいましたが、それではどれぐらいの量までなら貯蔵できるのかお教え願えますか?」


 固まってしまったホロスの代わりにレイナさんが尋ねて来る。


「制限は特にないはずです。ああそれと、食糧に関しては買った時の新鮮な状態のままなので腐るとかの心配もいらないですよ」


 そこまで答えたところで残る二人にも果実と水を手渡して僕も早速食べ始める。

 先程の会話はあえて狙った面もあったが、空腹だった事も嘘ではないので。


 そうして前の街で買っておいた林檎に似た果実をそのまま齧って食べたのだが、


「あれ? 食べないんですか?」


 何故か僕以外の三人は驚愕の表情のままに固まってしまっていた。


 衣服を出した時点で物を異空間にしまってく能力がある事は言ってあるし、実際にそこから衣服を取り出す現場も見せてある。

 だからこそ大丈夫だと思って言ったのだが、何か不味かっただろうか。


「えっと、何かおかしかったですかね?」

「い、いえ、おかしくはないですけど、その、余りに凄い能力だったので本当に驚いてしまって。やっぱりコノハ様も勇者の仲間なんですね」


 そのユーティリアの最後の言葉には若干の本音が出ている気もしたが、そこはスルーしてあげる事にした。

 見た目だけならただの子供なのだし仕方がないとして。


「とは言っても、僕の能力は戦闘ではあまり役に立たないものが多いんですけどね。まあ、それはともかく食事にしましょうよ。果物以外にも色々とありますから足りなかったらドンドン言ってください」


 気まずい流れになりそうだったので僕はやや強引に話を終わらせると、そうやって食事をする流れに持っていく。


 皆もそんな雰囲気を察してくれたのか、その話がこの場で再燃する事はなかった。





 その後の女性陣が着替えをしている間、見張りのホロスを置いて僕は一人で小部屋を出て通路を歩いていた。

 皆にはトイレに行ってくると言ってある。


「やっぱりこの階層でもやっぱり黒い壁が周囲に敷き詰められているんだな」


 離れた場所で前と同じように試してみたが結果は変わらない。


 この分だと他の階層でも同じであることが窺えた。やはり正攻法で攻略する以外に脱出する以外に方法はないらしい。


「それじゃあ改めて無の神に質問するけど、三人を強引に抱えて迷宮を強行突破。その後に記憶を消す、っていうのはダメかな?」


 これが出来ればあっという間にこの迷宮も攻略できるのだ。やっていいのならば迷わず実行するに決まっている。


 その様子は傍から見れば独り言だったろうが、その答えはメニュー内で返ってきた。


「『勇者の力を用いた罪なき者への悪意ある精神干渉は禁止』ね」

(前の時にやれたのはそいつが罪なき者ではなかったからってことかな)


 これのペナルティはメニューの項目の内の一つがランダムで使用禁止とかなり重いものだった。


 考えてみれば人類を魔王から守る勇者がその守るべき対象に危害を加えることをよしとするはずがない。


 力を与えられた勇者が暴走した時のことを考えれば、こうやって何らかの予防策を取っておくのが当然の対策というものだろう。


 勇者やその仲間を殺すのが禁止なのもその一環だと思われる。


 ただ、それもそれぞれの神によって程度に差があるのはまず間違いなかった。


 でなければオルトとメルが雷の一派から未だに狙われている訳がないのだから。


「これは完全に勘だけど、無の神は他の神より制限が多い気がしてならないんだよなあ」


 嘆くように呟くがそれに対して返答はない。


 どうやら無の神は必要以上の情報を与えるつもりはないらしい。

 風の神はこちらが困れば連絡やフォローまでしてくれたというのに、それと比べると随分な差だ。


 この分だと、他の裏ワザに近い方法も何だかんだ理由をつけて却下されるような気がする。


「地道にRPGのようにダンジョンを攻略するしかないのかな。それも恋愛シミュレーションもこなしながら」


 言うなればこの状況はゲームジャンルで言えば恋愛シミュレーションRPGという奴だろうか。


「絶対違うな。少なくとも何かが決定的に間違ってる」


 自分で自分の考えを否定しながら歩き続けいると、通路の曲がり角の死角から魔物が飛び出してくる。スケルトンナイトというレベル24の魔物が。


 そのスケルトンナイトは全身が骨の体にしてはかなりの素早さと力強さを持っているらしく、その手に持った剣を鋭くこちらに向けて振り下ろしてきた。

 あるいはスキルに『剣術・初級』を持っている影響もあるのかもしれない。


 ただ、その程度のものが勇者の僕に効く筈もなく、


「悪いけど、こっちには来ないでもらえるかな。皆がゆっくり休憩する為にもね」


 次の瞬間には発動した無の魔法によってその振り下ろされようとしていた剣ごとスケルトンナイトは跡形もなく消え去っていた。


 するとまた別の間場所に赤い光点が生まれるが、その発生場所は遠いので問題ない。


「って、しまった。全部消したら素材が回収できないや」


 こうしてわざわざ出向いている理由の一つがそれだ。


 スケルトンでは食糧にはならないだろうが、それ以外でも今の剣などは持って帰って売ればお金になる。


 そうじゃなくてもこの先に合成の素材として使えるかもしれないのだ。回収しておいて損はない。


「あとはアンデット系の魔物の倒し方も学んでおかないとね」


 その背後にはまだ五体のスケルトンナイトやアーチャーが待ち構えており、仲間を殺したせいか僕に対して敵意を剥き出しにしていた。スケルトンでも感情があるらしい。


 その中の一体の頭目掛けて取り出した石を指で弾いて投擲すると、首から上が粉々になって吹き飛ぶ。


 そしてそいつは死んだのか体の骨がバラバラになって、身に着けていた装備と共に地面に崩れ落ちていった。HPも零になっている。


「スケルトンは物理でも倒せるのかな。ならよかった」


 同じくヘッドショットを繰り返し、あっという間に殲滅し終えた僕は地面に散らばっている素材や装備を触らずに手早くボックス内に回収する。


 新たに現れた光点はどれも離れた地点だし、これでしばらくの間は魔物が僕達に接近してくることもないだろう。


 残念ながら迷宮内ではマップを用いた転移はできないようなので僕は少し早足で移動し、何をしていたのか悟らせないよういつもの調子で三人が待っている小部屋へと戻って行った。

現在の三人のステータスなどです。好感度に多少の変化があります。


[ホロス]

 レベル39

 スキル 基礎体術・中級 剣術・中級 格闘術・中級

 称号 王国騎士

 好感度 -28


[ユーティリア]

 レベル5

 スキル なし

 称号 ベルゼハイム王国第五王女 柔順な乙女

 好感度 22


[レイナ]

 レベル41

 スキル 基礎体術・初級 火属性魔術・中級 水属性魔術・中級 風属性魔術・中級 土属性魔術・中級 投剣術・中級

 称号 忠臣 魔術師

 好感度 16

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