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第四話 好感度

 新たな重要クエストが現れると同時に僕は新たな能力を獲得しており、そしてそれは今回の重要クエストを行う上で大変役立つものだった。


(好感度ってまさにゲームみたいだな……)


 ハートの形のゲージと中に書かれた数字で好感度を表現するそれはステータスのところに表示されていた。

 これでそれぞれの僕に対する好感度がわかるらしい。


 好感度の最大値は正負でそれぞれ100あり、その数値が高ければ高いほどプラスなら赤、マイナスなら青のハートがゲージ内に現れて大きくなるようだ。


 試しにミーティアで確認してみるとその数字は64で赤いハートの大きさも容量の半分より上くらいだった。


 ちなみにオルトが53で、メルに至っては92でほぼ最大と言っていい状態である。


 それにしても好感度を表すゲージとしてある意味ではそのハート型は正しいのかもしれないが、僕にしてみれば無の神にバカにされているようにしか思えない。


(いや、間違いなくこっちをからかって楽しんでいるに違いないな)


 そんなことはこれまでのことでほとんどわかっていたけれど、今回の事で確定だ。誰が何と言おうと無の神は間違いなく捻くれ者で間違いない。


「はー」

「どうしたの? そんなところで溜息なんて吐いて」


 振り返るとミーティアがそこに立っていた。


「もしかして高いところが怖いとか?」

「いいや、別に好きではないけど高所恐怖症って訳じゃないさ」


 でないと飛び跳ねたりなんて出来やしないし、そもそもこんな場所に来れるわけがないのだから。


 ミーティアも前の経験からそれはわかっているはずだし、その表情から冗談で言っているのが読み取れた。


「むしろその心配はポールにしてあげた方がいいかもね。彼、飛び立った時に顔を真っ青にしてたし」

「それはあなたが勇者の仲間だってことやユーティリアが第五王女だって聞いたからでしょ。そっちの方がよっぽど精神的ダメージを与えてたわよ、あれは」


 ポールに関してはその場で有無を言わせずに風の一派に引き入れることを一方的に伝えたのもその原因の一つだろう。


 むしろよくこれだけの驚愕の事実が続いて卒倒しなかったものだと言えるかもしれない。


 今の僕達は馬車に乗せてもらって次の街に移動してポールと合流し、その後は空を飛んで王都まで移動することとなった。


 そう、王女であるユーティリアが用意していた飛空艇とやらで。


 最初にこれを見たときは驚いたものだ。

 なにせ僕の目から見れば船のような翼もなにもない外見をしたものが空を飛ぶというのだから。


 現に飛行している以上はそのことに疑いようはないのだが、一体どういう仕組みなのだろうか。


(飛行船のように水素やヘリウムみたいなガスを使っている訳でもないみたいだし、そもそも周りが開け放たれているもんな)


 船の甲板でその縁に腕を掛けながら僕はそんなことを考えていた。


 晴天で雲がないことから遥か下の大地を見下ろせるし、上を見上げればいつもより太陽が近い気がする。


 国家機密でなければ詳しく仕組みについて尋ねたものの、勇者の仲間であっても流石にそれは教えられないらしい。非常に残念だ。


「それにしてもこんな船に乗るどころか、まさか盗賊で奴隷だった私が王族からの招待を受けることになるなんてね。まあ、あくまで私は偶然一緒にいた脇役に過ぎないけど、それでも驚きだわ」

「招待されるまでは半ば予想してたけど、わざわざ王女様を迎えに寄越すくらいだから向こうにもよっぽどの理由があるのかもしれないね。それに招待されたからと言って大歓迎という訳ではないみたいだよ」


 周囲の騎士などの好感度を確認してみたが、その割合は半々といったところだった。


 僕達の事を勇者の仲間として尊敬または好意的に捉えているある程度以上の好感度があるグループと、何故か初対面なのに好感度がマイナスの値になっているグループが存在するのだ。


 彼らの様子から推察するにマイナス側の人間はどうやら僕達の事を本当に勇者の仲間なのかと疑っている、もしくは信じていてもたいしたことないだろうと思っているようだった。


 確かに普通に考えれば子供ばかりの集団が勇者の仲間です、なんてことをいきなり聞かされて信じられる方がおかしいだろう。


 むしろ半数も好意的に見ている人達がいる方が驚くべき事なのだ。


「これでメルの体に紋章がなかったらどうなっていただろうね?」

「その場合はそもそもこんな事にはなってなかったわよ。でもまあ、言いたい事はなんとなくわかるわ。たぶん針のむしろがいいところだったんじゃない?」

「だよね。って、そう言えば他の三人は?」

「ポールとメルは緊張しっ放しで、オルトははしゃぎ過ぎで疲れたらしくて今は用意された部屋のベッドで休んでいるはずよ。正直に言うと私も気疲れしたし、仕方ない事だと思うわ」


 移動する馬車の中で僕がこちらの素性やリーバイスであった出来事について話している間もメルとミーティアはずっと緊張していたようだったし、ここでユーティリアと一旦別れたのでようやく気を休めるといったところだろうか。


 オルトを除くと僕を含めて誰もが色々と気持ち的に疲れているのが何だか笑えた。


「失礼します」


 そこに騎士がやってきた。


「コノハ殿、ユーティリア様がお呼びです」

「僕だけですか?」

「本来ならばメル殿をお呼びするべきなのでしょうが、彼女はまだ幼い上にあなた方のリーダーはコノハ殿のようなので致し方ありません」


 最低限の敬語を使って取り繕っているもののそこに込められた感情は誰がどう見てもいいとは言えないだろう。


 現に最後の言葉を言う時にこちらをバカにするような笑みをこっそりと浮かべているし。


 その様子やこの口ぶりからして大方、勇者の証を持たない僕に対しての当てつけなのはまず間違いなかった。


 僕が風の勇者の弟である証拠などない訳で、彼らからしたら胡散臭い餓鬼に見えているのだろう。その気持ちはわかるとは言え気分のいいものではない。


 それにしてもこのホロスという人物の好感度は-36なのも頷けるというものだ。


 どうやら街の関わったことのない住人の好感度が0だった事から察するに、プラスが好感情でマイナスが悪感情なのはやはり間違いないらしい。


(好きの反対は無関心じゃなかったっけな)


 残念なことにマイナスのホロスはこちらを明確に嫌っているようなので、それは少なくともステータスの表記の上では間違いのようだ。


 もっともこの方がわかりやすいのでこちらとしてはそれでまったく構わないが。


「わかりました」


 特に注意したりはせず、僕は何も気付いていないふりをして答える。


 騎士に嫌わられていることなど、はっきり言ってどうでもいいことだ。なにせ僕が好かれなければならない相手は別にいるのだから。


(そっちも気乗りはしないんだけどね)


 そうしてホロスに案内されるままに付いて行き、通された部屋はかなり豪華なものだった。


 流石は王女様と言うべきか、使う部屋もVIP用のものらしい。僕達の部屋だって相当なものだったが、それでもこの部屋とは比較にもならない。


「お待ちしていました。どうぞこちらへ」


 その部屋に見とれていた僕を馬車の中で紹介された王女付きの侍女のレイナさんという人物が案内してくれる。


 ホロスが中に部屋の外で待機していることから察するに騎士は理由もなく中に入れないらしい。


 今のここは王女の部屋な訳だしそれも当然の事かもしれないが、防犯上どうなのだろうかとも思ってしまう。


「失礼ですけど、護衛はいなくて大丈夫なんですか?」

「ここやあなた方の部屋は特殊な結界で外部からの干渉を防ぐようになっています。それに王女付きの侍女は皆が護衛としての役割も兼ねている場合がほとんどですから大丈夫ですよ」


 そんな思いから発したこちらの疑問に簡潔に笑顔で答えてくれるレイナさんは22歳なのに随分とその態度からして大人びているように見えた。


 王女付きの侍女ともなれば、やはり礼儀作法などもしっかりと叩き込まれているようだ。そしてそれ以外にも色々と。


(でも道理でレベルも41と高いし、戦闘系のスキルも幾つかある訳だな)


 てっきりステータスが高かったのは単なる偶然かと考えていたが、常に傍で世話をする人物が護衛も兼ねた方が守り易いのは言われれば納得だった。


 その後に幾つかの部屋と扉を通過したその先にある最奥の部屋に辿り着いた僕を迎えたのは当然の事ながらベルゼハイム王国第五王女のユーティリアだ。


「突然お呼び立てしてすみません」

「大丈夫ですよ」


 公の場など、どうしてもという場合でなければ仰々しい挨拶や言葉使いは止めてほしいとお願いしてあったこともあって前よりは砕けた口調だったが、それでもお嬢様という雰囲気には些かの曇りもなかった。


(いや、この場合はお嬢様じゃなくてお姫様なのか)


 そうして僕は勧められるままに席に着いて、レイナさんが出してくれた紅茶を一口頂いてから切り出した。


「それで僕だけを呼び出して何の用でしょうか?」


 この質問にユーティリアは不安な表情で傍に立っていたレイナさんに視線を向ける。


 そしてレイナさんが頷いたのを見て決心したのか、その口を開いた。


「私が聞きしたいのはコノハ様のご家族についてです」

(なるほどね)


 家族について。

 オブラートに包んでいるが要するに風の勇者である姉、紅葉について聞きたいということだろう。


 確かに身内である僕がその情報を持っている可能性は高いし、聞きたくなる気持ちもわからなくない。


 本当はまだこの世界に来てはいないのだが、それを言う訳にはいかないのでうまく誤魔化さないといけないだろう。そう思いながら僕は答えを返した。


「家族、ですか?」


 まずはよくわからない振りをして相手の言葉を引き出しにかかる。


「コノハ様には二つ年上のお姉様のモミジ様がいらっしゃるのですよね? そしてその方が風の勇者であると」

「はい、その通りです」

「それでは他のご家族はどのような方なのでしょうか? 確かご両親は遠い異国の地にいるとのことですが」

「両親は姉と違って特別な存在ではないですよ。どこにでもいるごく普通の親といっていいと思います。少なくとも勇者とかそういった類の力は持っていませんし、こちらに来ることもないですね。ちなみに祖父母や親戚も同じようなものです」


 風の勇者の姉とその仲間である弟を生んだ両親。それに関心を寄せるのもわからなくもなかったが、残念な事にそれは全く意味がない行為だった。


 理由は単に両親はこちらに来ないのだから。


 そう、僕が死んだら現れる姉と違って。


「それではご家族の内ではモミジ様とコノハ様だけが特別である。そう思ってよろしいでしょうか?」

「基本的にはそうですね……あ」


 その答えて僕はふとある人物のことを思い出した。僕達の幼馴染にして紅葉と同学年の彼氏、九重(ここのえ)大樹(たいじゅ)の事を。


 紅葉が天才だとするならば彼は秀才と称するべき存在であり、紅葉と交際を続けていることからもわかる通り彼も色々な面で普通ではない。


 そして彼もまた僕と同じく紅葉に振り回される被害者の一人だ。


 もし仮に紅葉がこの世界に来るとしたら大樹を放っておくとは思えない。


 確実にどんな手を使ってでも連行することだろう。本人の意思はおろか、それこそ神を脅してでも。


(なんで今までそのことに気付かなかったかな)


 僕の死後に紅葉だけで好き勝手に行動させるのは色々と怖かったのだが、大樹がいるならば一安心。


 彼はある意味で姉のストッパー、本気になった紅葉を止められる数少ない一人だからだ。


「どうかしましたか?」

「いえ、姉には付き合っている人がいたので今の話でその人の事を少し思い出しただけです。結婚している訳ではないので身内ではないですけど、僕も幼い頃から親交があって半ば家族みたいなものですから」


 大樹ならば神から体に紋章を与えられてもおかしくない逸材だと思うが、それは黙っておいた。


 僕の中では確信を持って連れて来られると言い切れるが、それを他人に説明することができないので。


 姉ならやる、なんて客観的でなく突拍子もない根拠を何の迷いもなくすぐに信じてくれるのはそれこそ家族を除けば大樹くらいのものだろうから。


「幼馴染でお付き合いをしている方がいるなんてとっても素敵です!」

「そ、そうですか?」

「はい! 凄く素敵で憧れます!」


 思わぬところに反応したユーティリアは何故かテンションが高くなっていた。それこそ姉が風の勇者だと聞いた時以上に。


(お姫様でも女子には変わりはないってことなのかな?)


 どうやら異世界でも女子がそういった恋愛事に興味津々なのは同じなようだ。


 そこでレイナさんが咳払いをするとユーティリアは我に返って顔を少し赤らめる。自分のやるべきことを忘れ掛けていたことに気付いたようだ。


「と、ところでコノハ様にはそう言った方はいらっしゃらないのですか?」

「ええ、まあ。残念ながら幼馴染は彼一人だけなので僕は余りものなんです」


 冗談交じりで言ったその僕の発言に、


「そうですか、それはよかったです」

「はい?」


 ユーティリアはおかしな答え方をして来た。そしてそれについて僕が尋ねる前に彼女は続く言葉を口にする。


「単刀直入に言いますね。コノハ様、もしよろしければ私と婚約を結んでいただけないでしょうか?」

「……はい?」


 またしても同じ返事をした僕は頭の中でこの状況を必死に整理していた。


 目の前の彼女は冗談を言っている様子でもないし、レイナさんに顔を向けても訂正する様子もない。


 不味い発言なら先ほどのように諌めるくらいはするだろうし、つまりこれは間違いではないということだ。


「……すみません、何かの間違いだと思うのですが、僕と婚約したいと言いましたか?」

「はい。ただ魔王討伐が済むまでは結婚することは難しいかもしれないので、正式に婚姻を結ぶのはそれが終わってからになってしまうかもしれませんが」


 婚姻のその先のことまで言ってくるし、聞き間違えという訳でもないようだ。


 どうやら情報を引き出されていたのは僕の方だったとか、そんなことを言う為に僕だけを呼び出したのかとか、何故そんな結論が出てくるのかとか、様々な言葉が頭の中を駆け巡った結果、最終的に僕の頭に浮かんだのは、


(……もうオチてるってこと?)


 なんて自分でもバカじゃないかと思う考えだった。

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