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第三話 来客

 それから約二週間が経過し、僕達は次の街を目指して歩いていた。


 何故そんなに時間が経ったのかと言えば、一旦メルとオルトの故郷の村に向ったからだ。

 しばらく家族に会えなくなるだろうし、別れの挨拶ぐらいはさせてあげることにしたのである。


 また、これからどうするのかを考える時間が必要だったことも時間を要した理由だ。


 これまでと違って明確な敵と言える存在が出来た以上、今までのようにクエストに従うだけでは駄目だろうから。


 そうして皆と話し合って出した結論は、


「それにしても正式に風の勇者の一派を作ることをコノハが言い出すなんて意外だったわね。本当にいいの? 今まであれだけ正体を隠したがってたのに」

「僕だけならともかく、雷の一派から狙われている二人がいるからね。向こうが巨大な組織を形成していることを考えれば、個人でそれに対抗するのは余りに無謀だよ」


 組織には組織で、それが僕の決断だ。


 もちろん風の勇者の一派として正式に活動すると決めたのはいいが、ただそう決めただけではあまり意味はない。


 リーバイスを出る時にメルの紋章を門番に見せればあっさり通してくれるなどの恩恵はあるが、メル達を狙っている相手はそんなものだけでどうにかなる相手ではないのだから。


 だから僕達がこれからやるべきことは大きく別けて二つ。


 一つは僕達が風の勇者の仲間であることを世に知らしめること。


 そうしておかないといざという時に、雷の一派に魔王や魔族の関係者だとか難癖を付けられた時などに窮地に立たされる可能性が出て来るからだ。


(大衆が勇者と一般人のどちらの言葉を信じるかなんて考えるまでもないしね)


 そうならない為にも僕達が風の勇者の仲間であることをしっかりと大勢に証明しておく必要がある。


 可能なら雷の一派のようにどこかの国を後ろ盾にしてでも。

 もっともそれについては既に布石は打ってあるので心配ないと思うが。


 残るもう一つは風の勇者の一派の規模を大きくする、つまりは仲間集めだ。


 その理由は単純に流石に僕達四人だけでは組織というにはあまりにも少なすぎる。


 それに加えてメルのような体に紋章を持つ存在が他にもいるかもしれないからだ。


 メルの一件から体に風の神の紋章を持つ存在が狙われている可能性も考えられるし、姉が来るまでの間はその代理である僕がどうにかするしかないだろう。


 他の勇者が彼らを守ってくれるとは思えないし。


(今のところ僕達四人にポールを加えて五人、か)


 雷の一派のように百人規模でやるつもりはないが、やはりある程度の人数は確保しておくべきだと思う。


 そうしておけば、例え僕が死んで紅葉が組織を引き継ぐまでの間があっても持ちこたえられるだろうから。


 ちなみにポールには次に行く街で合流する予定であり、既に交信石で大体の事情は説明してある。


 もちろんしっかりとばらさないように脅し、もとい注意した上で。


「あ、あの」


 そこでメルが口を開くが、


「言っておくけど。また謝るつもりならいらないよ。もう何度も聞いたし、それに別にメル達だけの為って訳じゃないからね。僕にもそうするだけの理由があるからこそ、そう決断したんだから必要以上にメル達が気にしなくていいんだよ」

「……はい!」


 頭を撫でながら謝罪の言葉を封じると、その代わりに笑った顔で返事が返ってきたのでよしとした。


 メルは色々と気を遣い過ぎなのだ。これまでの経緯から考えると仕方のないことなのかもしれないが、少しはオルトのように能天気になってもいいと思う。


(あるいはこれはこれでバランスが取れているのかな?)


 足して二で割れば丁度良くなりそうな二人だが、そうはいかないのが人生というものなのかもしれない。


 そんな事を考えながら歩いている時、僕はふとそれに気付いた。


「皆、止まって」


 三人ともこちらの指示に素早く従っており、メルとミーティアは周囲を注意深く警戒している。


「何かあったのか?」


 二人と違って周囲の探査能力が低いオルトは武器を構えてこちらに問うてきた。


 ミーティアの教えのおかげか、段々と自らの力量や、やるべき事を素早く導き出せるようになっているようだった。


 ただ今回は敵襲でもなんでもないので、そこまで警戒する意味はなかったが。それを残念と言うべきか微妙なところだろう。


「警戒しなくていいよ。どうやら待っていたお客さんがやって来ただけみたいだからね」


 遥か遠くから近づいて来るその人物はどうやら馬車に乗っているようだった。


 更に周囲には護衛らしき人物も多数いるが、その身分を考えればある意味では当然のことなのかもしれない。


(まさかここまでの大物が迎えに来るとはな……)


 リーバイスで衛兵にメルの紋章を見せた時点でいずれはこうなる事はわかっていた。


 そもそもの話、勇者の仲間をこの国が何の干渉もせずに放置する、なんて事があり得ないのだから。


 そうして僕達の近くまでやって来たその集団の先頭にいる騎士らしき二人の内の片方が、


「馬上から失礼。あなた方は風の勇者の御一行の方々ですね」


 丁寧だが、ほぼ断定するような口調で尋ねてきた。その様子からしてどうやらこちらの容姿などの情報も伝わっているようだ。


「そうですけど、そう言うあなた方はどなたでしょうか?」


 メルに手の甲の紋章を向こうに見せてその身分を証明してもらいながら僕は答える。相手が誰かなどステータスで既に確認済みの状態で。


 ただその問いに答えはすぐに返って来なかった。


 馬車を守るようにしていた騎士達が全員馬の上から降り、二列になって整列する。そしてその列に挟まれるようにして存在する馬車の扉が開き、


「大変失礼しました」


 そこからゆっくりと現れたその女性が綺麗なソプラノの声でようやく僕の問いに対する答えを口にした。


(わたくし)はベルゼハイム王国の第五王女、ユーティリア・フォン・ベルゼハイムと申します。今回は風の勇者の仲間であるあなた方をお迎えするべく、この場にやって参りました」

「……」


 そこにいたのはまさに絶世の美少女と言うべき存在だった。


 高級そうな髪飾りよりも艶やかに光る薄い青色の長髪やそれと同じ色をした綺麗な瞳。


 幻想的とも言うべきその容姿には同性であるミーティアやメルでさえ息を呑んで見惚れているようだった。


 それに加えてドレスの裾を少しつまんで一礼するその姿にも気品が感じられ、それだけでも僕のような庶民とは全く違う世界の人なのだと判るというものだ。


 だけど僕が驚いて咄嗟に言葉を発せなかった理由はそれらの事は関係ないし、無論の事彼女が王女だったからでもない。


「本物の騎士だぜ、兄ちゃん! うわーマジでカッコいいのな!」


 そこでフリーズする僕達のことなど気にすることなくはしゃいでいるオルトのその姿を見て、僕はどうにか我に返る。


 この状況でそこを一番に気にするところがオルトらしいと言うべきなのだろう。そのいつもと変わらぬ能天気さに僕は思わず苦笑いを浮かべていた。


「初めまして。僕は結城木葉と言います」


 そうして意識を切り替えて改めてこちらからも挨拶と簡単な自己紹介をする。


 これが正しい礼儀作法なのかはわからないが、ずっと黙っているよりは失礼ではないだろう。


「でしたらコノハ様とお呼びさせていただきますね。あと私の事はユーティリアと呼んでください」


 先程の挨拶よりは少し砕けた態度と笑顔でそう答えるユーティリアだったが、それでもその美貌に変わりはない。


 そして年齢は18とあまり変わらないのに僕より大人びて見える。


(もはや芸術の域だな)


 何と言うか、ここまでの美人だともはや緊張もしない。自分とは完全に別の領域にいる存在だと思えるくらいだった。


 だと言うのに、


(夢でもなんでもない、か)


 僕は改めて確認したその重要クエストに頭を抱えたくなる、


 そしてそれと同時にこんなふざけたクエストを出してきた神に対して思いつく限りの恨み言と罵詈雑言を内心で言い放つ。


 何故なら、そのクエストは『ユーティリアをオトせ』という、思わず二度見してしまうようなふざけきったものだったから。


(オトせって、この場合だとそういう意味しかないよなぁ)


 最後の抵抗として魔法でクエストを消せないかとやけくそ気味に試してみたが、結果は無残にも弾かれてこちらの敗北。


(……くたばれ、無の神)


 自分らしくない言葉を内心で吐き捨てながら僕はミーティア達に何と言うかとか、どうすればいいのかとか、半ば絶望しながら頭を悩ませるのだった。

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