第六話 怪しい人物
グッチさんの家を出た僕はすぐさまメニューを開いてアーカイブの人物図鑑を開く。そこには案の定、グッチさんやキールさんを初めてとした面々が追加されていた。
その他の話したこともない村人らしき人物たちの名前も載っていることからすると話さなくても登録されるようだ。前のダミアンという人物が接触していないのに載っていることから考えて、ある程度近付くとかが登録の条件なのだろうか。
(追々確認していくしかないだろうな)
注意事項やらにも載っていない事は多いし、そう言ったことは自分で調べろという事だろう。何とも不親切な神である。
とりあえず人物図鑑でトジェス村の区分に載っている人達のステータスを一つずつ確認していく。称号などで何かがわかることはないかと思ったからだ。
年齢などのプライベートを勝手に覗くようで若干気が引けたが、これもスパイとやらを見つける為ということで。
こうして見ていると確かに若い男がいない。十歳くらいまでの幼いと言える子ならいるが十代後半から三十代近くまでの男性が全くと言っていいほど載っていなかった。
「戦争って大変なんだな」
もっとも、だからこそ僕がこうしてここにいる訳なのだが。肝心の魔王は他の勇者に任せておいていいらしいので、僕はそれによって起こるであろう被害を最大限少なくする。それこそが代理でも勇者として選ばれた自分の役目だった。
幸い何をやればいいのかはクエストで大体のことがわかる。これをクリアしていけばいいという正解の道がわかっているだけでも充分助かるというものだ。一介の高校生にこんな大きな事で臨機応変な対応を求められても困るので。
そんなことを考えて人物図鑑を眺めていると、とある人物の番がやって来た。それはあの水瓶を投げつけてきたミーティアという少女だ。
性別は当然女性で年齢は17で自分と同い年。レベルは、
「36?」
その数字は他の村人と違って余りにも高い。そして何より、そこに書かれていた称号が明らかに他とは違っていた。
他の人が称号なしだったり『村人』だけだったりする中、彼女だけが複数の称号を持っていた。個人的な予想として怪しんでいたダミアンという、これに最初に載った人物も残念ながらステータス上は他の村人と同じような感じである。
「それにこれも怪しいな」
その他に『奴隷』と『元盗賊』という実に物騒な称号もあったのだ。どう見ても怪しいと言わざるを得ないだろう。
「……やっぱりレベルが30を超えているのは彼女しかいないな」
それどころか彼女以外で20を超えている人は数えるほどしかいない。そしてその超えている人達でさえ高くて23、彼女と10レベル以上違うのだ。
まだ17歳と若い彼女が何故ここまで高いレベルを有しているのだろうか。非常に怪しいと言わざるを得ない。
もっと詳しい情報が見られないかと色々いじっている内に表示されている彼女の名前に触れてしまう。すると新しい画面が開いてそこに書かれていたのは身長や体重。
それに加えてスリーサイズ。上から八十……
「よし、僕は何も見ていない。全くもって見ていないぞ」
つい、誰に言い訳しているのかわからない発言をしてしまう。
他の書かれていそうな事はなかったので、すぐさまその画面は消した。
これまでのことからこの画面が見えるのは僕だけだという事はわかっているのに何故か動揺を隠せない。いや、いきなりあんなものを見てしまったら仕方ないだろう。
それにしてもこの能力は凄いけど、プライバシーとか完全に無視しているな。いっそ清々しいと言える程の徹底的な情報収集能力である。
「……スリーサイズだけを非表示とかにできないのかな、これ?」
残念ながらこのメニューに設定という項目は存在していない。どうしてもその画面を開きたいときはそこのところだけ見ないようにするしかないようだ。
「……まあ、仕方ない。それより彼女に会いに行ってみた方がいいよな」
後は村人に聞き込みでもしよう。
そう思って彼女がどこにいるのか確認しようとマップを見たが、村の中に彼女の名前が存在していない。どこかに出かけているのだろうか。
次の手としてミーティアという単語サーチしてみると成功した。村ではなく少し前まで僕がいた川付近に彼女の反応があった。一体何をやっているのであろうか。
「って、水瓶を探しに行ってるに決まっているか」
彼女からしたら水瓶をあの場に置いて行ってしまったと思っているに違いない。僕もここに来た時は何も持っていないと言ってしまったし。
だが残念ながら水瓶はアイテムボックス内にしまってあるのでいくら彼女が探そうと見つかる訳がない。それをわかった上で放置し続けるのは気が引けた。
幾らレベルが高いとは言え、僕のようなチート能力がない彼女にしたらこの行為は絶対安全とは言えないだろうからだ。
だが、だからと言ってそれを教えに行くことに抵抗が全く無い訳じゃない。だってやっぱり魔物がたくさんいる森に行くのは恐いのだ。
ほんの少し前まで日本で高校生をしていたのに、今は下手すればアマゾンの大森林より危ないところに放り込まれたようなものである。いくらチートがあるとは言え怖くない訳がないではないか。
「……とりあえず武器くらいは欲しいよな」
すぐさまグッチさんの家に引き返して、家の壁に立て掛けてあった棍棒――正確には単なる木の棒と言うべきものだが――を勝手に拝借させてもらった。本来ならお願いするべきところなのだろうが、それをしてしまうと止められそうなので今回は黙って借りる。
(すみません。すぐに返します)
実際にはこれを使わない素手の方が強いだろうが、まあ武器がある安心感を得る為という事で。
そうこうしている内に彼女の方に変化が起こっていた。先程まではなかった赤い髑髏の光点が彼女の近くにやって来ている。このままでは下手をすれば遭遇する事にもなりかねない。
そんな時だった。新しいクエストが表示されたのは。
それは重要クエストで内容は『ミーティアの元へ急げ』。何とも分かりやすいクエストだ。他のもこれぐらい判りやすければいいのだけれど。
って、そんなこと考えている場合ではなかった。
「早く行かないと」
失敗してペナルティなんて貰いたくないし。
こうして僕は彼女、ミーティアの元に急いだ。