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エピローグ

本日三回目の更新ですのでご注意を。

なお、これにて第三章は終了となります。


次は第四章シミュレーション編の予定です。お楽しみに。

 翌日、僕は観客席で火の魔術によって闘技場が赤く染められるその派手な戦いを観戦していた。


「思ったより頑張ってるわね」

「まあ、そうするだけの理由がオルトにはあるからね」


 目の前で行われているのは闘技大会本戦だ。


 昨日にあれだけの騒動があったから闘技大会は中止になるかと思いきや、開始時間を少し遅らせるだけと朝早く宿に連絡が来たのには驚かされたものである。


 僕としてはもう出る意味もないので棄権したかったのだが、そうすると昨日の件もある為、逆に目立ちかねないので仕方なく出場した。


 そして当然のことながら一回戦敗退である。


 ただその戦いも楽ではなかった。

 なにせ僕の一回戦の相手はクリッジだったからだ。


 しかもクリッジは僕がコンではないかと疑っているようだったので、その対処にも苦労させられたものだ。


 まあ、クリッジ達からしてみれば襲撃の時からずっと姿が見えなかった僕が怪しいと思うのが当然なのだろう。


 もっともその疑いも、レベルを30台で制限した僕が全力でクリッジに戦いを挑み、そして最後は為す術なくやられた事で晴れたのでよかったが。


 現在、僕の両隣にはそれぞれミーティアとメルが座ってオルトの事を応援している。


 このことからもわかるだろうが、二人も勝つ理由がないので一回戦敗退。

 勝てた試合をわざと負けた訳だ。


 ただ唯一勝つ理由があるオルトだけは、こうして目の前で必死に勝つべく頑張っている。


「でも、例え勝っても認める気はないんでしょ?」

「その方がオルトの為だよ。それにこう言ってはなんだけど、今のオルトの力じゃ絶対に勝てないさ」


 メルが僕達の仲間になると決まった後、当然オルトも同じことを願ってきた。

 だけど僕はそれを認めなかったのである。


 理由は単純に危険なのとオルトを連れて行く意味も理由もないからだ。


 狙われなくなったオルトは村に戻った方が安全。そんな事は誰がどう見たって明らかだ。それにわざわざ連れて行く必要もないのである、


 それを説明しても一向に引かなかったオルトに対して出した条件が、闘技大会本戦で最低でも一回戦を突破する事という訳である。


 もちろんまずクリア出来ないとわかった上で。


(それに万が一、勝った時でも最終試験と称して僕が相手になるつもりだしね)


 そしてそこで合格にするつもりはない。


 つまりオルトはどうやっても僕達の仲間にはなれないと決まっているのである。


 別に悪意を持ってこんな事をしている訳ではない。

 むしろ理由もなく単なる仲間意識や同情から命の危険がある旅に連れていく事の方がよっぽど悪い事だと思うからこそ、僕は心を鬼にして、そう決断しているのだ。


 それを全く知らずにハラハラしながら応援しているメルにも悪いと思うが、こればかりは譲れない。


 そう思っている時だった。


「すまない、少しいいだろうか」


 誰かに声を掛けられたのでそちらを向くと、そこにはクリッジが立っていたのだ。


 その顔を見て反射的に威嚇しようとしたメルを僕は抱えて膝の上に置く。


 そしてその上で頭を撫でて落ち着くように言い聞かせた。周りに人が大勢いる観客席で暴れられては困るからだ。


「立ったままだとなんですし、そこに座ってください」


 メルがいた席に座るように勧めると、クリッジは少しだけ躊躇ったものの、やがてそこに腰を下ろす。


「それで少し前に負かしたばかりの相手に何の用ですか?」


 膝の上で猫のように丸くなっているメルの頭を撫でながら僕はクリッジに問いかけた。


「要件に入る前に一つだけ聞かせてもらいたい。ユウキコノハ、お前はあのコンという奴の仲間だと思って構わないな?」


 別に隠していないので当然なのだが、フルネームを知られているらしい。こちらの事はある程度調べてあるという事だろうか。


「そうですけど、そんなことそっちは聞くまでもなく分かっているでしょう」

「念の為という奴だ。それで要件だが、コンから話は聞いているか?」


 僕があの時の事はすべて聞いてあると答えるとクリッジはそれなら話が早いと言って話し出す。


「俺は上に確認を取った。本当にその子が世界に混乱を齎す存在なのかと。風の勇者の仲間をどうして攫わなければならないのかと。だがそれに対しての回答はなかった。それどころか下された任務を遂行するように改めて命じられたよ」

「だから気をつけろとでも? 仮にそれが事実だとして、何故雷の勇者の仲間であるあなたがどうしてそんな事を教えるんですか?」

「俺もミリアもその回答を聞いた時点で一派から抜けると決めたからだよ。既に上にもその事は告げてある」


 そう言うとクリッジは懐から例の勇者の仲間を示すネックレスを取り出し、それをこちらに投げて渡してくる。抜けたからもう必要ないということだろうか。


「信じられないのならそれでもいいさ。ただ警戒だけは怠るな。それが言いたかっただけだ」


 話は終わったと言わんばかりにクリッジは席を立つ。ただ歩き出す前にメルのことを見て、


「……すまなかった」


 謝罪の言葉を述べると今度こそ去って行った。


 その姿を見るとそちらの方が本題だったように見えたのは僕の気のせいだったのだろうか。


「あれ、本当の事だと思う?」


 そこでそれまでこちらの話を無言で聞いていたミーティアがそう尋ねてくる。


「たぶん本当の事だよ。こっちからすると残念な事にね」


 それに僕はそう答えたが、もちろんクリッジの様子だけでそう判断した訳ではない。


 クリッジの話を聞いた時、新たなクエストが現れていたからだ。それもまたしても厄介そうな。


 その名も『メルとオルトを死の運命から解放せよ その2(・・・)』だ。


 なんともふざけているにも程があるクエスト名である。人をおちょくるのもいい加減にしろと言いたい。


 でも、これはつまりまだ雷の勇者に二人が狙われているということなのだろう。


 ただ気になるのは、何故まだオルトまで狙われているのかだ。

 クリッジからメルが風の勇者の仲間だという事は伝わっているはずなのに、それでもまだオルトを狙う理由があるというのだろうか。


(いや、そうじゃなくても人質にするつもりか、あるいはクリッジの報告を信用していない可能性だってあり得るのか)


 とにかくこれで明らかなのは僕がオルトを置いておくわけにはいかなくなったという事だ。


(って、だとしたら僕はどんな形で前言撤回をすればいいんだろうか)


 試合に負けて本気でオルトが悔しがっているのがここからでも見える。

 これでオルトが勝ってくれれば特に問題もなかったのだが、人生そう甘くはないようだ。


 僕はまだまだ続く面倒事の予感に大きく溜め息を吐くのだった。

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