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第二十二話 進むべき道

本日二度目の更新です。ご注意を。

 泣き止んだメルを連れて宿の部屋に戻ると、そこには目を覚ましたオルトや怒りを隠しもしないミーティアが待っていた。

 そしてその怒りの矛先が向けられていたのはメルである。


「狙われているあなたが勝手に出て行ってどうするのよ!」


 実にごもっともな意見で誰も反論できなかったし、しなかった。


 あの弾丸のようなメルの移動速度から察するにミーティア達では追うことは難しい。きっと宿でどうすることも出来ずにやきもきしていたに違いない。


 それを思えばこれは当然の反応だった。


 ちなみにこの時には既に本人の希望もあってコーライルは報酬を受け取ってこの場から立ち去っていた。こちらとしてもこのお叱りの後に勇者の件などの他人には聞かれたくない話をするはずだったのでそれを快く了承。


 それからしばらくして僕はまず今回の一件の詳しい内容を皆に説明した。これからの事を決めるのに黙っている訳にもいかないだろうから。


 襲撃者が雷の勇者だった事やメルが風の勇者として目覚め、そして暴走したことによって何が起きたのか。

 そしてそれを僕の仲間であるコンが止めた事などを僕は正直に話した。


 もちろんコンが僕であることまでは言わなかったし、メルにもしっかりと口止めしておいたが。


 ただメルはそれどころか、こちらが頼んでいないのに飛び出していった時に僕とコンに会って礼を言ったと、さりげなくフォローまで入れてくれたのだ。


 少なくともこれでミーティア達に限って言えば僕とコンが同一人物ではないか、という疑念は薄れたことだろう。


 仕方がなかったとは言え、今回の一件で疑われてもおかしくない要因を作ってしまったのでこれは非常に助かった。


「……要するにこれまであった問題は一先ず全部解決したってことね」


 それに僕は頷いた。クエストはクリアされているし、メル自身が勇者の仲間であることが判明したのだ。オルトとメルの目的も達成されている。


 ただし、それによって新たな問題が生まれてもいるのもまた事実なのだが。


「……あのさ、色々あり過ぎてまだよく分かんないんだけど、とりあえずコノハ兄ちゃんって一体何者なのさ? これだけの事をやれるコンって人が仲間にいるなんて、どう考えてもただ者じゃないよな?」


 そこでオルトが疑問に思って当然の質問を投げかけてくる。

 もちろん僕もそれに対する回答を用意しておいた。


「本当はあまり言いたくないんだけど、こうなったら仕方がないね。僕の姉、結城紅葉は風の勇者なんだ。そして僕はその姉に扱き使われる弟って訳さ」

「……って事は、メルと風の同じ勇者の仲間ってこと?」

「まあ身内だから少し違う面もあるけど、基本的にはそんなようなものだね」


 オルトはその答えを聞くと口をあんぐりと開けて思考停止に陥っているようだった。


 まあ、僕の事を抜きにした状態でもいっぱいいっぱいなようだったし、驚愕の事実の連発に処理能力の限界を超えてしまったのだろう。


「ただ、それは今となっては些細な事だよ。なにせメルという体に紋章が直接浮かんでいる、神から認められた勇者の仲間がいるんだからね。僕はメルに比べたらおまけのようなものさ」

「そう言うって事は、あなたの体には紋章はないのね」

「まあね。一緒に水浴びをしてオルトならわかると思うよ。とにかくメルは風の勇者の仲間、それも高位の存在として目覚めた。これで村に戻ったとしても迫害されることはもう無いだろうね」


 そこまで言ったところで僕はある考えを口にした。今後の行く末を左右するだろうその考えを。


「だけど僕は、メルはまだ村に戻るべきじゃないと思う」


 その言葉に一番早く反応したのはオルトだった。


 どうやらようやく元の世界に戻ってきたらしい。


「なんで? もうメルは迫害されないんだろ? だったら戻っても問題ないじゃん」

「いいや、問題はある。まだメルが雷の勇者に狙われた理由がはっきりしていない事だよ。普通に考えたら他の勇者の仲間に危害を加えようとするなんて明らかにおかしい。しかもその理由が世界に混乱を齎すから、だ。これが本当の目的を誤魔化す為の嘘ではなかった場合、メルは勇者の仲間として目覚めても狙われる可能性が捨てきれない」


 それに風の神も言っていた。その時が来るまで彼女の事を頼むと。


 意味深なその言葉からしてまだ何か起こると思っていいだろう。そうでなければあんな発言はしないだろうし。


「それに今回の襲ってきた奴らは勇者の仲間の中でも末端だったから後手に回ったけど、ギリギリでどうにかなった。けど、だからこそ今度はもっと強い奴ら、それこそメルと同じ体に紋章を持つ奴らが来たらどうなると思う?」


 そうなった時、メル一人ではどうしようもないかもしれない。


 ましてや強者が複数名でやって来たらほぼ確実にメルは負けるだろう。巻き込まれる人が出てもおかしくはない。


 その時だった。それまで黙って聞いていたメルが口を開いたのは。


「あの、もし迷惑でないのなら、コノハさんと一緒に行かせてもらえませんか?」

「メル!?」

「勝手なこと言ってごめんね、オルト。でも私、決めたの。コノハさんに恩返しをするって」


 驚きの声を上げたオルトにメルははっきりと言う。その姿はいつものメルからは想像できない程に凛としていた。


「……実を言うと、僕の方から一緒に来ないか提案しようと思っていたんだ。まさかメルの方からそう言ってくるとは思わなかったよ」


 これはメルを守るという意思表示だが、別にそう決めたのは単なる自分の気持ちからだけではない。そうする事が僕にとって最も良い選択だと思ったからだ。


 メルは風の勇者の仲間だ。それも神に認められるだけ高位の。

 それはつまり僕が死んだ後にやって来る紅葉の片腕的存在になる可能性を大いに秘めているという事に他ならない。


 あの姉に僕が手助けする必要などないのはわかっているが、それでも姉が、本物の勇者がこちらの世界にやって来た時に少しでも動きやすいようにしておくのが代理勇者としての僕の役目というものだろう。


 そういった意味でメルには無事でいて貰わなければならないのだ。


 それにメルという無の神以外の力を持った存在を近くに置いておくことにも色々な面で意味がある。


 まず言えるのが戦力だ。僕は今回の一件で雷の勇者の一派に敵として認識されたかもしれないし、それに対抗できる戦力は可能な限り有しておきたい。


 それに神々にもそれぞれの思惑がある事もわかった。

 時に強引な手段に訴えてくる神がいるかもしれないことも。


 そして僕に力を与えた無の神がそうではないなんて誰にも言い切れない。


 もしかしたらこの先、僕が絶対に受け入れられないクエストを出してくることだって考えられる。その時に対抗出来る手段があるのと無いのでは大違いだ。


(神の力に対抗するのには、やっぱり神の力が一番だろうしね)


 そもそもの話、僕に力を与えて異世界に送り出したのが無の神だという時点で色々と前提条件が崩れているのだ。


 風の神の目的は魔王退治ではなく、それによって被害を受ける多くの人々を救う事と言っていた。

 だが無の神まで同じ目的だとは限らない。むしろ完全に一緒である事の方が稀だろう。


 無の神の目的が何なのか。そもそも無の神は何故、他の神と違ってこの世界ではその存在を知られていないのか。


 わからないこと、知らなければならない事は山ほどある。


 風の勇者の仲間であるメルはその為に役に立つかもしれない。そういう打算もあって僕はメルを連れていこうと思ったのだった。


 もちろん純粋にメルを守りたいという気持ちもあるのだけれど。


「そ、それじゃあ!」

「ああ、メルさえよければ宜しくお願いするよ」


 嬉しそうにするメルに僕は改めてそうお願いした。それにメルは頷き以外の選択肢がある訳がない。


 こうして僕は新たな仲間を迎え入れる事となったのだった。


 でもこの時の僕はもっと深く考えるべきだったのだ。前提条件が崩れているということの意味を。


 風の神が言っていたその時という言葉の意味を。


 その所為で僕が途轍もない後悔を迎える日が来ることになるなんて、この時の僕は全く気付いていなかったのだった。

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