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閑話 絶望した少女の願い

 幼い頃からずっとそうだった。嫌われ、疎ましがられ、迫害される。私のこれまでの人生の多くは、ほんの僅かな家族などの優しさを除けばそれらでほとんどを占められているのだ。


 だから自分がそう扱われるのにも慣れている。自分だけならきっといつまでも耐えられる。


 だってそれが私にとっての普通だったから。


 でも、そんな私にも譲れないものはあるのだ。


(どうして私以外の人まで傷つけるの?)


 両親や兄妹には身内に半人半獣(ハーフビースト)がいる所為で普通なら背負い込む必要のない苦労を強いてきた。


 でも、それでも家族は誰も私を責めず、ずっと庇ってくれた。優しかった。


 だからこそそんな家族にこれ以上の迷惑を掛けない為に私は双子の兄と共に村を出たのだ。少なくとも私があの村からいなくなれば盗賊達が襲ってくる回数は減るはずだから。


 もちろん私だってすべてを諦めていた訳じゃない。だから最後の希望として勇者様に縋ってみることにしたのだ。


 もちろんそんな可能性はごく僅か、奇蹟でも怒らなければあり得ないことぐらいわかっていた。


(ううん、間違いなく失敗に終わると思ってた)


 そう思いながらもそれに縋ってしまったのは私が弱かったからだ。嘘でもいいから希望がないと怖くて怖くて仕方なかったからだ。


 だけどそんな私に奇蹟は舞い降りた。


 最初は信じられなかった。家族以外で自分を助けてくれる人がいるなんて。何を企んでいるのかと疑う気持ちでいっぱいだった。


 だけどその人達は半人半獣(ハーフビースト)であることなど全く気にせず、温かいご飯や新しい服を与えてくれた。まるで私が普通の人族の女の子であるかのように普通に接してくれた。


 なにより命を救ってくれた。それ以外にも本当に多くの事をしてもらった。


 あの人達は私にとって感謝してもしきれない恩人だ。もし叶うのならこの人達に恩返しがしたい。


 そう願い、もしかしたらそれが叶うかもしれないと夢を見た。


 だけどそれが間違いだったのだ。そんな風に自分がどういう存在なのかを忘れて気を抜いた結果があの状況を呼んだのだ。


(もう、いい)


 もう何も望まない。自分がどういう存在なのか忘れたりもしない。


(もう、いいの)


 ボンヤリとした意識の中で私はそう思い続ける。これ以上は何も見たくない。何も聞きたくない。


 このままだとゆっくりと覚めない眠りに着く。それがわかっていても私は何も抵抗しなかった。


 感情の爆発と共に自分の体の中から何かが溢れ出た気もしたけど、それももうどうでもいい。後は力尽きて眠るだけだ。


「安心なさい」


 そんな時だった。その眠りを邪魔するように話し掛けてくる女性の声が聞こえたのは。


「彼がすぐに助けに来るわ。それまでの辛抱よ」

(彼……?)


 それが誰なのか問い掛ける前にその声の気配は消えてしまった。どうやら一方的に言いたいことだけ告げて去って行ったようだ。


 でもその後すぐにそれが嘘ではなかった事は判明した。


「見つけたよ、メル」


 聞いたことのあるその声。だけど靄が掛かった意識では思い出すことが出来ない。


(来ないで)


 反射的に思った事はそれだった。もうこれ以上、誰も私に関わらないで欲しい。あと少しで私は無事に消えてなくなるのだから。


 でもそれと同時に心の隅で気付いていた。私はその人に会った事がある。目の前に現れたその人のことを知っている。それだけはわかるのだ。


「もう大丈夫。だから一緒に帰ろう」


 何故だろう。そんな優しい声を聞いて私は何故かこのまま眠りたくないと、ほんの少しだけ思って泣きそうになるのだった。

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