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第十七話 目覚めし風

お待たせしてすみません

 次の瞬間、僕は途轍もない衝撃を全身に受けたと認識した時には景色が急速に流れていっていた。


(何が……!?)


 そう思ったのも僅かな間だけで僕はすぐに自分がどうなっているかを理解した。即ち、どういう理由かまでは分からないが自分は今、とんでもない速度で森の中を吹っ飛ばされていると。


 勿論僕としても幾つも木の枝を折りながら飛ばされているこの状況をどうにかしたかったが、いくら高レベルで力があろうと空中では身動きの取りようもない。


 あるいは魔法をうまく使えばどうにかできたのかもしれないが、それを試す前に僕は地面に叩き付けられて止まることに成功していた。もっとも叩き付けられたので成功とは言い難いかもしれないが。


「一体何がどうなってるんだ?」


 それでもほとんどダメージがないところから自分のレベルがいかにおかしいのか再認識させられる。


どれだけ飛ばされたのかわからないが、高速で地面に叩き付けられておいて被害は服だけである。狂っていると言っていいかもしれない。


 その破れて汚れた服を魔法で直しながら僕は状況を確認する為にマップを見て自分の居場所などを確認してみたが、そこでとんでもない物がマップ上に表示されていることに気付いた。


 そこにあったのは緑の光点……ではない。


 それはもはや点とは言えない、緑色に塗り潰された円形の領域が、ある場所に現れていたのだ。そしてその中心だけが何の光点も存在していない。まるでそこだけ台風の目であるかのように。


「嘘、でしょ」


 そうしてマップから顔を離してその方向を見た僕は唖然とする。なにせそこにあった光景が俄かには信じられなかったからだ。いっそのこと夢と言われた方が信じられたかもしれない。


 それほどまで、僕はその光景に驚愕させられていたのだ。


「これをあのメルが作り出したって言うのか?」


 あの時の状況から考えるとそれ以外にあり得ないだろう。


 クリッジとミリアがこんな魔術を発動する様子がないことは見ていたし、意識を失っていたオルトでは無理であることから彼女しかいないのだから。


 そしてその中心点が先ほどまで僕やミリア達がいた場所であることからも間違いない。


(これがクリッジ達の言っていた混乱っていう奴なのか?)


 そこにあったのは巨大な風の渦だ。竜巻という表現では収まりきらないような、吹き荒れる風が渦となって空高く立ち昇っている。それこそ頂上が見えないほど高くに。


 映画の中でしか見た事のない超巨大な竜巻、あるいは台風やハリケーンと言うべきか。それがその場から僅かたりとも動くことなく存在しているのである。


 この状況から考えて僕は突如として発生したあれによって吹き飛ばされてしまったようである。よく無事でいられたものだ。


「この分だとクリッジやミリアも巻き込まれているだろうな」


 敵対していた彼らは心配するつもりはほとんどない。


 だけどこの状況で彼らに妙な行動に移られると厄介なのでその動向ぐらいは把握しておきたいのが正直などころだ。あるいはその生死だけでも分かればいいのだが。


 そう思ってダメ元で周囲をマップで確認して彼らを探してみると、


「あれ、ステータスが見えてる?」


 ここからそう遠くない地点に二つの青い光点が存在しているのだ。その名前はクリッジとミリアでこれまで見えなかったはずのステータスまで確認できる。


 それからするとクリッジのレベルが68でミリアは65と思った以上の低さだった。


 でもこれで制限なしの攻撃でペナルティが発生したのにも納得がいく。軽い一撃だろうと何百ものレベル差があれば多少の手加減など意味がないということだろう。


 現状の二人のHPは半分以上減っており、『出血』などのいくつかの状態異常を抱えている。どうやら僕と違ってか吹き飛ばされる過程でなりのダメージを受けてしまったようだ。


 この分ならメルとオルトを助けに行っても邪魔が入ることはなさそうだ。そう判断した僕は風の渦に向けて狙いを定めて魔法を発動する。


「……そう簡単にはいかないって事かな」


 はずだったそれは呆気なく弾かれて不発に終わる。


 MPが足りないのでも狙いが正確でなかった訳ではない。それらすべての発動条件満たしていたのに魔法が発動しなかった、こんなこと初めてである。


 改めてもう一度試してみても結果は同じ。どうやらあれには魔法が通用しないようだ。


 そもそも考えてみればマップの中心点に光点がないのもおかしい。


 僕の予想が正しいのならオルトとメルの光点がそこになければいけないのだ。だけど実際のマップ上には何も存在していない。


 あるいはメル達も吹き飛ばされたのかと考えてサーチも併用して周囲を探ってみたが反応はなし。少なくともこの地域とリーバイスにはメルとオルトが存在しないと出ている。


 そしてクエストが継続中なことから死んだ可能性も排除できる。


「だとすればやっぱりあの渦の中にいる以外に考えられないか」


 魔法が効かなかったことから推測するに、あの風の渦は何らかの方法でこちらの干渉を防いでいると思われた。


 その所為でサーチやその他のメニューでも二人のことを捉えられないではないだろうか。


 だが、だとすれば一体どうやってこちらの万能ゲームメニューという神から与えられたチート能力からの干渉をメル達が防いでいるか。


 少なくともほんの僅か前までのメルとオルトにそんなスキルも称号などもなかったのは既に確認済みである。


(新たな力に目覚めた。そう考えるしかないだろうな)


 そして恐らくはその力こそがクリッジ達が言っていた世界に混乱を齎す力とやらなのだろう。


 だとすればクリッジ達なら何か知っているかもしれないし、そうでなかったとしてもそれが目覚めたことで新たな神託とやらが下っているかもしれない。


そう考えた僕はクリッジ達の元までやってきた、のだが、


「うわ、ひどいな」


 意識もなく地面に倒れ伏す二人の状態はかなりのものだった。全身に細かい切り傷がついており、そこからの出血で服が所々赤く汚れている。


 ただそれでも不思議なことに死ぬほどのダメージは負っていないようだ。クリッジ達のレベルからすると、あの風の渦に飲まれてこの程度で済むとは思えないのだが。


「……まあいいや」


 どんな理由があったとしても襲撃してきた彼らを助ける義理などこちらにはない。だが今は聞きたいことがある以上放置しておく訳にもいかない。


 そうして僕は最低限の治療を彼らに施していった。

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