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第十五話 運命を決める者

 マップで部屋にミーティアしかいないことを確認した上で僕はその空いた大穴から部屋の中に入った。そしてそこでコーライルは投げ捨てる。


「無事か!?」


 そしてステータスが示す通り負傷した状態で床に倒れているミーティアのそばに駆け寄るとすぐさまボックス内にあった回復薬を取り出して飲ませる。


 詳しく確認してみたところ、かなりのダメージを負ってはいるものの意識はあるようだし部位欠損などはしていないのは幸いだった。


 いや、あるいは敵がそうなるように気を使ってミーティアを倒したのだろう。そうでなければもっと大怪我していてもおかしくはないはずである。


 ほんの数秒でミーティアを倒してメルとオルトを攫えるだけの実力があるようだし、殺すことも簡単だったに違いないのにあえてそうしなかったのだから。


「コノハから連絡があって助けに来た。何があった?」

「ごめん、なさい。コノハに連絡する間もなく、やられてしまったわ」


 体力が回復したことで息を切らせながらではあるが話せるようになったミーティアは僕がそのコノハが目の前にいることに気付かずにそう言う。


「気にするな。それで二人は?」

「わからないわ。急に何者かが襲撃してきて、私は敵の姿を確認する間もなくやられてしまったから。ただ抵抗しようとした二人を誰かが攫っていったのだけは間違いないわ」


 予期せぬダメージによって意識が朦朧としているほんの僅かな間に二人を攫って逃げた上、気配に敏感なミーティアに気取られることなくこれだけの事をやってのける相手。


 相当な実力者であることは間違いない。


「二人に関しては俺とコノハでどうにかする。お前はここで休んでいろ。コーライル、お前は彼女の護衛を頼む」


 HPは全快しているし状態異常もないのだが、まだ万全の状態とは言い難い様子のミーティアを一人で放置していくのは躊躇われる。


 この状況を好機と見て襲ってくる輩が出ないとも限らないのだから。


 だからと言って連れて行くのも無理なので、こうして護衛になる人物を連れてきたという訳である。


「その為に俺をあの場から連行した訳か……いいだろう。ただしそれなりの報酬は払ってもらうぞ」

「わかった、後でコノハに支払わせることを約束しよう。それとあえて言っておくが、裏切ればただでは済まさないことだけは覚えておけ」

「言われないでもわかっているし、そもそもそんなつもりは毛頭ない」


 コーライルを全面的に信頼している訳ではないが他に方法もない。それに圧倒的なまでの力の差は見せつけてあるので裏切る可能性は低いことから僕はこの決断を下したのだった。


 そうして僕は宿でやるべきことを終えたらすぐにマップを開くとメルを選択してサーチを開始する。襲撃者の居場所今でもマップに映らないが連れ去られた二人は別だから。


 そうして見つけた二人の居場所はリーバイスの中ではなかった。


(既に外の森にまで出ているのか。思った以上に速いな)


 未だに移動し続けるその二つの光点を見ながら僕はすぐさま移動を開始した。


 今のところ二人のステータスなどに異常は見られないが、それもいつまで続くかわからない。


 わざわざ連れ去って移動しているところを見るとすぐに始末されることはないだろうが、だからと言ってのんびりしている余裕など皆無。


 それに僕の予想が正しければ相手はある意味で魔族以上にやりにくい相手のはずだった。


(手加減とか考えている余裕はないかもしれないな)


 だから僕は都市の壁を飛び越えて外に出た時点でレベルの制限を完全に解き、そしてその有り余る力で一気に加速する。二人がいる方向に向かって全力で。


 あまりの速度故に巻きこった風で後ろに過ぎ去っていく木々が激しく軋むようにして揺れたり、あるいは倒れたりしているような音もしたが気にしない。


 その甲斐あって離れていた距離はあっという間に縮んでいき、すぐのその襲撃者の背中を視界に捉えることに成功する。


 もっともそれだけ派手に動いたこともあって敵に気付かれてしまったようだが。


 意識を失っている二人を両腕に抱えたまま振り返ったそいつが何かを呟くと同時に、大地が形を変えて巨大な土でできた杭のようなものが何本も僕に向かって放たれる。


 そしてそのまま襲撃者はそれで足止めしている間に逃げようとしていたが、


「逃がすと思うか?」


 その前に僕は視界に収めていたそいつのすぐ横の空間に転移してそれを阻んだ。


 敵の力量がわからない以上はMPをなるべく温存しておきたいところなのだが、足止めをいちいち拳などで破壊しながら進むのでは効率が悪い。


 それにこうすれば敵に逃げられないと思わせることにもなるだろう。


 驚いた様子でいきなり現れた僕の方に勢いよく顔を向ける敵だったが冷静さを失うことはなかった。すぐに真下から土の杭を放ってきて僕を近づかせないように牽制しながら距離をとる。


 視界に捉えた敵の容姿はフード付きのローブで顔を隠していることもあって認識できない。


 それに恐らくはあのローブに『隠蔽』系の効果があるのだろう。靄が掛かっている訳でもないのに敵の事を見るとぼんやりと視界を何かが遮るような感じがするのだ。


「お前、何者だ?」


 それどころか声までボイスチェンジャーでも使っているようなものだった。


 自分では普通の声に聞こえているのだが、コンの状態の僕も周りにはこんな感じに見られているのだろうか。


「お前の同類、こう言えば俺の正体も予想が付くんじゃないか?」

「……」


 そうして無言を貫く相手に僕は告げた。


「雷の勇者の仲間であるお前がどうしてメルを狙う? 理由は何だ?」

「……どうやら当てずっぽうで言っている訳ではなさそうだな」


 そう言いながらあっさりと被っていたフードをとって素顔を露わにする敵。


 言い逃れをするつもりはないのか、それともこちらを確実に始末すると決めたのか。


 茶色の短髪で二十代半ばくらいの男。正直、どこにでも居そうな人物だった。


「同類と言う事はお前も勇者の仲間か。どの勇者だ?」


 ステータスはまだ見られないのに靄らしきものも消えたし声も地声になっている。どうやらフードを被ることで発揮される効果と、それ以外のものがあるようだ。


「悪いがそれは教えられない」

「まあそうだろうな。その外見からして大方裏で動く側の人間だろうし素直に教えてくれるとはこちらも思っていないさ」


 普通に会話をしているようで相手に隙はない。常にこちらの様子を観察しているのがその目を見るだけでもわかる。


「話をする前にまずはその二人を解放してもらおうか」

「安心しろ、すぐに済むさ……ガイアプリズン!」


 話の流れを無視したいきなりの魔術の攻撃だったが、僕はそれを見切っていた。


 こちらの四方を囲むように盛り上がってきた大地が牢獄として完成するよりも前にその場から相手に向かって突撃する形で退避する。


 そして両手が塞がっているその男の目の前にボックス内から取り出した剣を突きつける。次に余計な事をしたら容赦はしないという意味を込めて。


 まったくそれに反応できていないところを見るとレベルは僕の方が断然有利なようだ。遅れて背後で完成した大地の牢獄が崩れていくのをチラッと見ながら僕はその事実を確かめる。


「言っておくが妙な動きをすれば斬る。さて、まずは二人を放してもらおうか」

「……わかった」


 意識のない二人を地面に降ろさせた後、ゆっくりと剣を突きつけた状態のまま後ろに下がらせて適当な木に体を押し付ける。


「次はお前が何故二人を狙ったかについて話してもらおう。安心しろ、俺はお前のようにすぐに済ませずじっくりとお前のペースに付き合ってやる。ここなら誰も見ていないし悲鳴を上げても聞こえないからな」


 一本の剣を首の横に来るように木に突き刺して更に脅しを掛ける。


 だが相手は黙ったままで口を割ろうとはしなかった。流石は勇者の仲間と言っておくべきところだろうか。


「話す気がないのならまずは俺の予想を聞いてもらう事にしよう。お前がメルとオルトを狙う理由は神、もしくはその意向を受けた勇者によって指示されたからだろう?」


 運命というものを作れる者がいるとするならばまず真っ先に思い浮かぶのは神だ。


 創世というこの世界を作った神ならそういった神秘的な現象を作れたとしても何らおかしい話ではない。


 原因や理由まではわからないが神がメルとオルトを始末するように指示を出していたと仮定すれば死の運命に付いても説明がつく。


 他の勇者も神からの指令を受けていてそれに逆らえないような状況なら指示を無視する事はまずあり得ない。その理由は僕を見れば明らかだろう。


 勇者やその仲間に狙われればまず助からないのは既に周知の事実。


 だからこそオルトはその庇護の元に入ろうとしたというのに、まさか頼ろうとしていた相手から狙われることになっていようとは。


 そう考えるとメルとオルトはどこにも逃げ場がなかったに等しいだろう。


 仮に村に留まっていたとしても盗賊などの危険なのはそのままだし、いずれはこいつらに見つかっていたことだろう。


 ただの村にいて勇者達の目から逃れ続けられる訳がない。敵には神という超常の存在が味方なのだから。


 ましてやオルト達は知らなかったとは言え自らを狙っている到底敵わない敵にのこのこ会いに行こうとしていたのだ。


 普通なら何をしても助かる可能性など皆無だったに違いない。


 だからこそ僕にそれを変えるように神は指示を出してきたのだ。恐らくは他の勇者の仲間と争う事になる事も分かっていた上で。


「全ての事実を知りたいとまでは思っていないが、狙われた理由がわからないままで済ませておく訳にはいかない。何故二人を狙ったのか、それをお前が知らされていないのなら勇者に連絡を取ってでも教えてもらうぞ」

「……為だ」


 ようやく口を開いたその男の声は最後の方しか言葉になっていなかった。だがすぐに同じセリフを繰り返したことでその内容が発覚する。


「すべては魔王討伐の為だ! サンダー」

(バカだな)


 この状態なら魔術を発動すべく言葉を紡ぐよりも早く僕の攻撃が当たるのは誰の目にも明らかだ。


 それなのに魔術で抵抗するとは、これが体術などであればまだ可能性があっただろうに。


 回復薬もある事だし多少痛めつけても問題ないと判断した僕はその手に握る剣の柄で一撃をくらわせようとした。

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