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第十三話 大剣使いVS代理勇者

 弾かれたように飛び出した相手がこちらにかなりの速度で接近してくる。

 それでも僕はロックオン機能を駆使し正確に狙いを付けて袋の中で指と指の間に挟んだ石を投げた。


 だが当たらない。


 二つは躱され、残る二つも剣によって叩き落される。ロックオンはできてもホーミングまでは付いていないからそれはある意味当然の結果だった。


 すぐに次の石を放とうとするが、その前に接近を許してしまい


「は!」


 振り降ろされた大剣を全力で後ろに跳ぶことで回避する。思った以上の速度であることもあって反撃する余裕がない。


 しかも全力で跳んで逃げたというのにコーライルはまたしても大きく足を踏み出して瞬く間に接近を果たすと、


「ぐふ!?」


 完全に剣に意識がいっていた僕の腹に容赦なく蹴りを叩き込んできた。完全に急所である鳩尾に入っている。


 それでもどうにか痛みを堪えて蹴りの勢いを利用して大きく距離を取る。なまじ威力が強かったこともあり、かなりの距離を取る事に成功した。


(あるいは吹き飛ばされたと言うんだけどね)


 呼吸ができなくて悶絶してしまいたい状態でも倒れている訳にはいかない。


 追撃に備えて歯を食いしばってすぐに起き上がるが、意外な事に相手は近くまで来ていたのに何故か攻めて来ないでいた。


 しかも悠然と佇みながらもこちらの事をじっと見つめてくる。まるで観察するかのように。


 今の攻防で何か気になる事でも生まれたのだろうか。


(何にせよ好都合だ。時間をくれればそれだけ回復する)


 ダメージが完全に抜けきる事はないが呼吸が復活するだけでもありがたい。そう思って相手から注意は外さず回復に努めていると、


「その顔、どこかで見たような……そうか、思い出しだぞ。お前、門で見た半人半獣(ハーフビースト)の娘を連れていたあの男か」


 ハッとした様子でそう言ってきた。


(思い出した? って、事は今までは分かってなかったのか?)

「だとしたら、何だと言うんですか?」


 てっきり承知の上だったと思っていたのだが、この様子では違うのだろうか。もしくはこちらを騙すべく気付いていない振りをしているのか。


 それを確かめるべく僕は呼吸するのも辛かったけど、必死になって質問を重ねた。


「……それに門で敵意を向けてきたのに覚えていないなんて、よく言えますね。こちらが気付いていないとでも思ったんですか?」


 とは言え戦闘中なのだ。話せる時間はそう長くはない。


 だから僕はこちらの情報を渡すことになると判っていたもののそう言って揺さぶりを掛けに行く。そこでの反応を見る為に。


「気付かれていたのか……だとしたらいきなり敵意を向けた俺はそちらからすれば警戒の対象だった訳か。どうやらお前にもあの子にも申し訳ない事をしてしまったらしいな」


 気まずそうな表情を浮かべながらコーライルは話を続ける。


「あえて言っておくが俺はお前達に害を加えるつもりなど毛頭ない。だが訳があったとは言え、いきなり殺気を向けたことについては謝ろう。申し訳なかった」


 意外なほどにあっさりとした謝罪にこちらも困惑する。もしかしたら本当にこの人は害意などないのではないかと。


「それじゃあその訳って言うのを教えて貰えませんか?」

「悪いがそこまで赤の他人であるお前に教えるつもりはない。それにこの場で何を言おうがそちらはそれを信じたりはしないだろう?」

「……そうですね。それにそうでなかったとしてもこちらには負けられない理由がありますし、あなたにはここで敗退してもらいます。本戦でメルに近付かせないためにもね」


 仮に彼の言う事がすべて真実だとしても関係ないのだ。

 メルを狙っているのはコーライルだけではないのだから。結局のところ彼がどんな奴であろうと僕は勝利しなければならないのである。


 もちろんここで彼の目的がわかるに越したことはないが、こんな短い会話だけではそれも難しい。まあ、手がかりらしき発言は聞けたので無駄ではなかったと思うことにしよう。


 呼吸も回復してきたので僕はそこで会話を終わらせることにした。あまり長話をしていて八百長を疑われても困るし。


 現に観客席からは急に動きを止めた僕達に対してざわめきや中には野次のようなものまで飛び始めているのだから。


(今のまま普通にロックオンした投石じゃ当たらない。かと言って接近戦を挑んでもそれは同じ。いや、その方が危険か)


 周囲の様子を確認するが、やはり他の選手は十秒以上立ち上がれなかった事で既に失格になっている。これでは他者の力を利用する事も不可能だ。


「……やるしかないか」


 覚悟を決めて僕はこんな時の為に用意しておいた作戦を出すことにした。


 そうして腰に下げていた大量の石の入った袋を逆さまにしてその中身を出す。ガラガラと音を立てて多数の石は僕の足元に積み重なり小さな山を作り出す。


 その様子を見てコーライルもようやく我に返る。そして戦闘モードに意識を切り替えたようだ。


「長話が過ぎたようだな。ここからは剣で語ることにしよう」


 そう言ってこちらに向かって先程と同じように真正面から突っ込んでくる。投石などしても無駄だと言わんばかりに。


 確かに一つや二つ、いや両手のすべての指の間で石を挟んで投げたとしてもコーライルなら躱すか防ぎ切る事だろう。


 そう、多少の増減ではあまり意味がないのはわかっている。


「だったらこれならどうですかっと!」


 そう相手に向かって告げながら僕は全力でその足を振り抜いた。その足元に出来た小さな石の山を蹴り飛ばすように。


 ロックオンというチート機能が発揮された結果、その蹴り出された大量の石はまるで散弾銃のようにコーライルに向かって飛んでいく。


 流石にこれだけ数が多いと外れるものも多いが、それでも弾幕としては充分過ぎる。


「く!?」


 正面から避けきれない範囲と密度を伴ったこの攻撃に対してコーライルの判断は素早かった。


 即ちすぐに回避を諦めてダメージを最小限に抑えに来たのである。その大剣を地面に突き立ててまるで楯にするかのようにして。


 多数の石が突き立てられた剣にぶつかり弾かれる。そして数秒後にはその弾幕も終わりを迎えて、


「だがこれでそちらは弾切れのはず!?」


 大剣の陰から顔を覗かせたコーライルはそこまで言ったところで驚きに言葉を止める。何故なら既にそこに僕はいなかったから。


 そしてその時点で僕は次の攻撃を放っていたのだ。


「が!?」


 そう、コーライルの真上から。


 脳天に向かって容赦なく全力で叩き付けられたその二つの石は相手が意識を向けていない方向からの攻撃だったこともあってかなりのダメージを与えていた。


 だが驚くべきことにそれでもコーライルの意識は奪えなかったのである。


(嘘でしょ!?)


 こちらはあの散弾攻撃の後、すぐに上へと跳んだ。


 だから上という完全な死角から攻撃出来たのだがそれ故に宙に浮いている間は動きが取れない。着地まで完全に無防備なのだ。


 まさか二発も頭部に直撃を受けてもまだ意識を保っているなど予定外である。


 こちらとしては一発で十分だと思っているところを保険の意味も込めてもう一発追加したというのにそれでもまだ足りないなんて。


 すぐさま予備の石を取り出して投げつけようとしたのだが、


「う、おおおおおおおおお!」


 その前にコーライルが動いてくる。地面に突き立てていた大剣を抜くと同時に、なんと宙に浮いているこちらに向かって跳び上がってきたのである。


 それどころかそれに対してこちらが迎撃として投じた石さえも斬り払って防がれる。そして一気にこちらに肉薄すると、


「これで、終わりだ!」


 その剣を振り抜いてくる。刃引きされている剣で、なおかつ力の入りにくい空中での攻撃とは言えその直撃を受ければ戦闘不能は免れないだろう。


 かと言って普通の方法では防ぎ切れるとも思えないし躱すのなんてもっと無理だ。


「ぐっ!?」


 そうして僕はその剣を防げずに生身で受けた。その代わりにカウンターでその額に全力投球をかましながら。


 僕の胴体に、そして彼の額にそれぞれの攻撃がほぼ同時に炸裂して鈍い音を立てる。


 そうして地面に落ちて叩き付けられた僕とコーライルはどちらも倒れたままだ。このまま相打ちで終わる、そう多くの人が思っているところで、


「……すみません、僕の勝ちですね」


 ゆっくりと僕は攻撃を受けた胴体を抑えながら立ち上がる。歯を食いしばってその痛みに耐えて。


(危なかった。魔法がなければ勝てなかったな)


 今回僕が魔法で消した物、それは威力だ。そう、あの剣の最後の一撃の威力、要するに攻撃力を無くしたのである。


 もっとも咄嗟の事で完全には間に合わず、攻撃が体に半ば当たっているところで消すことに成功したのである程度のダメージはこうして受ける事になってしまったのだが。


 まあ、後一秒でも遅ければもっとダメージが通っていた事だろうし、そうなればこうしてすぐに起き上れたかわからない。


 それで考えればこれはギリギリ間に合ったと言っていい状況だろう。


(まあでも、結果的にはこれでよかったのかもな)


 辛勝なのは誰に目にも明らかだし、目立ってもこれなら圧倒的強者だと思われることはないだろう。魔法についても誰にも分からない形でしか使わなかったので問題ないはず。


「とりあえず目標は達成できたかな」


 そうして十秒が経過して僕の勝利が確定するのだった。

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