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第十二話 予選

 予選は約十人で行われるバトルロイヤルで、相手を殺さない限りは武器でも魔術でも何でもありの武術の大会というには何か間違っている気がするルールである。


 会場がコロッセオによく似た建物であることも影響してか、中世の世界で剣闘士にでもなった気分である。


(まあ、そのおかげでこっちも助かるからいいんだけど)


 既に予選の半分は終わり僕以外の全員が勝ち残って本戦出場が決定している。オルトもギリギリだったがどうにか最後まで生き残ったのだ。


「ここで僕だけ負ける訳にはいかないな。護衛としても年上としても」


 周りにいる敵を見回しながら僕はそう呟いた。僕以外の人達は始まるのを今か今かと待ち侘びているようですらある。正直勘弁してほしい。


 そしてほとんどの人が分厚い鎧などを着込んでその手に物騒な武器を持つ中、僕は普通の服に腰の辺りに大きめの中身の入った皮袋を下げただけの姿だった。


 装備をわざわざ買う意味を見いだせなかったからいつもの格好のままで来たのだが、何だか凄く場違いな気がしてならない。


 現にその格好のせいもあって周りにはカモだと思われているのがその目を見ればわかった。この分だと開始と同時に近くの何人かは襲い掛かって来そうである。


「さてと……そろそろ切り替えるとしますか」


 愚痴や文句を言っても何も変わらないのだ。それに勝つ以外にもやらなければならないことが出来たようだし、そろそろ気合をいれるとしよう。


 そう思ったところで周囲の観客達の声援が大きくなる。そしてそれが引き金になったかのように、


「もらったぁ!」


 開始の合図が鳴り響いた。



 若干のフライングがあった気もするのだが、それを指摘しても飛び掛かってくる彼は止まる様子ではないし、そもそもそんな細かいことは運営に言っても流されるだけだろう。


 前の時でも合図の前に軽い小競り合いが始まっていても止めなかったくらいだし。


 刃引きはされているが、それでも凶器には変わりのないその剣が迫って来たので僕はすぐさま背を向けて逃げた。脱兎の如く。


 バトルロイヤルなのだから全ての敵と戦う必要などない。


 適当に逃げ回って数が減ったところで本格的に動き出せばいいだけだ。この方が全員倒すよりも圧倒的に効率的だし、なにより他の試合でも行われていた事でもある。


「てめえ、逃げんな!」


 余程僕を倒したいらしくそう叫びながら追いかけてくるその男だったが、その所為で隙を突くようにその背後から迫っている奴に気付いていないようである。


 当然ながらそのまま背後から一撃で倒される結果に終わった。なんとも可哀そうな敗退の仕方である。


(おっと、僕もそんなこと言っている場合じゃないか)


 逃げた先には三人の男が待ち伏せていた。どうやら協力して倒しやすそうな僕をまず排除することにしたらしい。この場限りの共同戦線という奴だろうか。


 周囲の警戒を怠らずにジリジリと接近してくる彼ら三人。その上、背後からは先程の男を倒した奴もこっそりと近寄って来ているようだし完全に囲まれてしまったようだ。


(残るは僕を入れて七人か。まだ多いな)


 とは言えこの場に五人はいる訳で、残る二人も既に別の場所で戦っている。この分では逃げてもあまり意味はなさそうだった。


「仕方ないか」


 僕は袋の中に手を入れて石を一つ取り出すと、背後を振り向くことなく石を投げる。


 それを予想できていなかった背後の敵は額にその一撃が直撃して呻き声を上げる。気絶していないようだがそれでいい。むしろそうでなくては困るのだから。


 僕はすぐさま反転するとその男に向かって突っ込んで行き、痛みと頭部への攻撃で苦しみながらも構えようとするその男に対して、


「さようなら」


 何もせずに跳躍する事でその上を通り過ぎた。


 ダメージもあって完全に僕だけしか目に入っていない彼はそのまま呆然と僕を見上げて、その隙を逃さなかった三人の内の二人にの攻撃によって倒される。


 彼も抵抗しようとしたものの数の前には無力だったようだ。

 これで残るは六人……いや、向こうでも勝者が決まったようなので五人となった。


 このまま三対一で相手をするのは避けたいので、着地すると同時に残った一人の元へと駆け寄る。


 そう、僕がこの予選で勝つ以外にやらなければならない事が出来た原因となった人物に。


 その人物とは、


「どうも、単刀直入に言いますが共同戦線を張りませんか?」

「向こうは三人。俺一人では些か不利か……いいだろう、ただし隙を見せればお前も斬るぞ」


 身の丈程もある巨大な剣を握った若い大男、その名はコーライル。


 そう、警戒すべき例の人物だ。


 運命の悪戯なのか、彼と僕はこうして予選が同じになってしまったのである。


「僕の名前はコノハです。ほんのひと時の間ですけど、よろしくお願いします」

「……コーライルだ。それと名乗るのは勝手だが、そんな余裕があるのなら戦いに集中しろ。これがもし実戦なら死を招くことになるぞ」


 そうは言いながらも律儀に名乗っているところや何気に忠告してくれるところだけを見ると悪人のようには見えない。


 印象としては無骨で不器用な男といった感じだろうか。


「俺が前に出る。援護しろ」


 しかもいつ裏切ってもおかしくない相手なのに、一方的にそう告げて実際に前に出る。無防備な背中を僕に見せることになるというのに。


(計算しているのだろうけど、それでもよく出来るな)


 ここで僕が彼を裏切って倒せたとしても状況は三対一となることを分かっているからだらこその行動ではあるのだろうけど、それでもなかなか出来る事ではないだろう。


 その度胸は素直に感心した。


 レベルだけならコーライルは42でこの中で一番高い。今の僕はミーティアと同じ36だし、他の奴らはそれ以下だ。


 理想としてはコーライルと三人のどちらが勝っても負けても疲弊しきってくれるのが望ましい。相手が疲れていたから勝てたという丁度いい言い訳にもなるだろうし。


 この分なら僕は誰にも止めを刺すことなく、つまりは目立たずに勝ち抜けそうだ。


 そんな事を思って今にもぶつかり合おうとしているコーライルと三人の動向を安全な後方で眺めていようとしたのだが、


「ちょ!?」


 コーライルは一番近くにいた奴と剣と剣で打ち合うと同時にその胴体を蹴り飛ばす。


 それもこちらの方に向かってだ。その顔に浮かぶ笑みからも明らかに狙ってやっているのが窺える。


 そうなると飛ばされた一人は近くにカモとなる獲物がいるのだからそちらを狙わない訳がない。


 今は蹴り飛ばされて倒れてはいるものの、ダメージはそこまでではないようだし、こちらを睨んできていることからも起き上がったら攻撃を仕掛けてくることだろう。


 そうなる前に仕留める以外の選択肢がこちらにある訳がなかった。僕はその人物に駆け寄ると、その倒れたままの無防備な彼の胴体に容赦なく蹴りを叩き込む。


 低く制限しているとは言えミーティアと同じレベルはあるのだ。技術はなくとも単純な力は中々のもので現に何本かの骨が折れる感触が足に伝わってくる。


(これでよし)


 悶絶していたかなり可哀そうだったが、起き上がれないようにしないといけないので仕方がない。うまく気絶させることなんて無理だし、下手にそれを狙って頭部に攻撃する方が危険だろうから。


 そこで顔を上げたのだが、


「ってまた!?」


 そこで僕が見たのは、またしても別の一人がこちらに吹き飛ばされてき手いる光景だった。どうやらコーライルは初めからこうやって敵を分断して各個撃破するつもりだったようだ。


 もはや条件反射の域でそいつも蹴りを叩き込むことで無効化すると、そのほぼ同時にむこうも終わっていた。


「思った以上にうまくいったようだな。さて、これで一対一だ」


 そう言って大剣を構えるコーライル。その姿に疲労は欠片も存在しない。


(どうやらかなり不味い状況に追い込まれてしまったみたいだ)


 今の僕よりレベルも技量も上な相手。普通なら万が一でも敵わないだろう、


 ここで勝つとミーティア達に怪しまれるうえに目立つ。だがだからといってこいつが勝てば本戦のトーナメントでメルと戦うことになるかもしれない。


(出来ればどちらも避けたいんだけどな)


 厄介な相手を前にして僕はそう考えながら袋の中に手を入れた。

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