第十一話 武術大会
それから一週間後、僕達は武術大会当日を迎えていた。
「で、なんで僕とティアまで出場することになってるのかな? 荒事は勘弁してほしいんだけど」
「仕方ないでしょ。そろそろ旅の資金も稼がないといけなくなってたし、丁度いい機会だと思いましょう」
そうやってミーティアは表向きの理由を口にする。近くにいるオルトとメルに聞こえるように。
この一週間で僕だけでなくオルトもメルもミーティアによって鍛えられた。
短い間ではあったもののその効果はかなりのもので、現にオルトなどはレベルが20に上がったばかりか初めてのスキルである『基礎体術・初級』を習得するに至っている。
この分なら運さえ良ければいい所まで勝ち進めるかもしれない。
メルの方はステータス上では特に変化はなかったが、それでも一週間前よりも動きが素早くそして鋭くなっているような気がする。
素人の僕からでもわかるのだから、きっとそれなりの効果はあったのだろう。
それ以前にメルに関してはレベルが十分でも性格的に戦えるのか心配な面もあったのだが、いざ訓練を始めるとそれは杞憂だったことを思い知らされた形だ。
戦い始めると意外にメルは容赦なかったのである。そう、オルトなんかよりも全然。
それどころかあのミーティアが手加減したら訓練にならないという程の力と技量を有していたくらいだ。あるいはそういう面こそが獣の本能を持つ者の証なのだろうか。
二人とも両親と兄から戦い方は同じように教わったとのことだが、僕から見てもその差は歴然としている。双子でこれだけ違うのは恐らく才能の差というよりは種族の差なのだろう。
(オルトは偉いな)
甘いところはまだまだ変わらないとは言え、メルとの力の差をわかっているはずなのに拗ねたりもせず強くなる為に努力している。
そして今もメルが寂しがらないように兄として傍で色々と世話をしているのだ。そこは素直に尊敬できた。
なんと言うべきか、僕とは違って性根が真っ直ぐな少年である。もっともそれ故に危ない所もあるのが悩ましいところなのだが。
(それにしてもこうまで揃うとはね)
武術大会の参加者の中にはあのコーライルという男に加えて例のオルトを襲った二人組の男までいたのだ。その上、二人組の関係者と思われる奴ら数名も参加もしくは観客席に来ている。
選手しか控室には入れない以上、オルトとメルだけをそこに行かせるのは余りに危険過ぎた。
だからこうして僕とミーティアも参加して護衛しようという訳である。もちろん本人達には内緒で。
「改めて確認しておくけど、オルト達が勝ち抜いている間は出来る限りはあなたも勝つのよ。そうじゃなきゃわざわざ参加する意味がないんだから」
「あ、あはは、最善を尽くします」
小声で前もって決めておいた事を再度確認してくるミーティアに僕は引き攣った笑いを浮かべるしかなかった。
実は未だにオルトが手にした『基礎体術・初級』のスキルさえ習得できていないこの状態の僕にはそれは中々の難題なのだ。
実は普段のミーティアと同じぐらいのレベルで普通に戦うと、素人で技量がなさ過ぎることもあって敵に攻撃を当てるのも結構大変なのである。
もちろんレベルを上げれば勝つのは簡単である。勝つだけなら。
だがそれだと目立ってしまう上にミーティア達に怪しまれかねない。それは出来れば避けたい自体だ。
(うまい塩梅を見極めなきゃいけないな)
「頑張ろうな、兄ちゃん!」
「が、頑張ってください」
半分は演技、もう半分は本心から気乗りしない様子をしている僕に対してメルとオルトがそう励ましの言葉を掛けてくれる。
「……そうだね。今更文句を言っても仕方がないんだし頑張って予選を勝ち抜いて、そして明日の本戦に皆で進もう」
(できればそれで何も起きないでくれると嬉しいんだけどなぁ)
きっとそうならないという予感がしている自分が恨めしかった。こういう悪い予感の時に限って当たるものなのである。
「その意気だぜ!」
興奮して無邪気にはしゃぐオルトを見ながら、可能ならそんな風に何も考えずに観客席でのんびりしていたいとも思ってしまう僕なのだった。