表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
49/142

第六話 死の運命についての考察

 翌日、今後のことなどについて僕は一人になって考え込んでいた。


 目覚めたメルはあの獣状態からは戻っていて、僕を見ると真っ赤に赤面してオルトの背後に隠れてしまったのは言うまでもない事なのかもしれない。


 ただ、その様子から記憶はあることだけは窺えた。


 どうしてああなったのかについては僕もミーティアもそして双子の兄であるオルトも気になってはいたのだが、真っ赤に恥ずかしがりながら聞かないで欲しいと雰囲気だけでビシビシ発しているメルに免じてしばらくは触れないでおくことにした。


 迂闊に触れるとまた暴走しそうだったし、なにより可哀そうだった事もあって、せめて時間を置いてあげようと思ったのである。


 どうせクエストの事もあるので、これからどこに行くにしてもしばらくは一緒にいる事になるのだ。


 別に今すぐ知らなくては不味い事でもないし、それについては本人が話せる時が来るまで気長に待つ事にしよう。


 そしてオルトとメイについてだが、本人達に話を聞いた事もあって彼らの大まかな事情は理解できたのだった。


 なんでもこの辺りで最も大きいとされるリーバイスという都市で行われる武術大会に参加する為に近くの村からたった二人だけで旅に出たらしい。


 しかも両親など大人には黙って。


 いくら巷で噂になっている勇者の仲間がその大会に参加するらしくて、そいつに会ってみたいからだとしてもその行為は無謀と言わざるを得ない。


 それを聞いたミーティアは烈火の如く怒りを露わにして二人を叱りつけていたものだ。でもそれも当然の事だろう。


 十歳の子供二人が魔物の現れる街道や森の近くを旅するなんて明らかに無謀な行為だ。正直、よくこれまで無事でいられたものである。


 いや、決して平穏無事ではなかったのだ。

 現に魔物に襲われかけていたし、その後も村に入れないでいた。


 最悪の場合、僕達がいなければこの二人は既に死んでいた可能性だって十分にあり得ただろう。


 いくらメルがレベル30越えだからといって食料も休息もなしに動き続けられはしない。


 まともに眠れなければ体力だって低下するし疲労も溜まる。その状態で魔物に襲われればどうなるかなど判りきっていた。


(……やっぱり、何か変だ)


 実は僕には今回のクエストの事で気になる点があった。


 それはこのクエストにはタイムリミットが表示されていないこともそうなのだが、なにより神からの頼みでもあるクエストでわざわざ『死の運命から解放せよ』という仰々しい言葉を使っていることだ。


(それはつまり、今の二人はその死の運命とやらに既に囚われているということを意味しているはず。そうでなければ『解放せよ』なんて表現は使わないはずだ)


 それに前の『救え』という表現から変えてきているのも変と言えば変だ。


 別にそのままの意味でも十分に意図は通じるのに、何故かあえてその表現を変えてきた。


 そこにはこのクエストを送ってきた、どこかひねくれている神からの何らかのメッセージが込められている気がするのだ。単なる表現の違いでは収まらない何かが。


「何を考え込んでるの?」


 そんな時だった。二人を叱っていたはずのミーティアがそう言って洞窟の外にいる僕のところにやってきたのは。


「今後のことについて色々とね。それで二人は?」


 長いお叱りは済んだのだろうか。


「今は二人とも朝食に夢中よ。メルはともかくオルトまでもがっついてるわ」


 なんでも叱っている最中だったけど、二人のお腹が鳴ったのでとりあえず朝食を与えることにしたのだとか。


 そう言えばメルは暴走した所為もあって昨日何も食べていなかったはずである。空腹も限界に近かったことだろう。


「ってことはしばらくあの二人はこっちには来ないか。丁度よかった、少し二人だけで話したいことがあるんだ。今後のことについて、ね」

「まあ、そうよね。それにあの子達をどうするかについても決めないといけないもの」


 近くの適当な大きさの岩に腰かけたミーティアに僕はまずは現在の状況についての情報を開示することにした。


「まずあの二人なんだけど、どうやらまだ助けたとは言えないみたいなんだ。成功したらそれを知らせる連絡がくるんだけど、今のところそれはない。それから考えるに残念ながらまだ死の運命とやらから解放する指令はまだ達成できてないみたいだ」

「つまりその指令とやらを寄越している勇者様が言っていた死の運命はあの村でのことじゃないということなのかしらね。って、その前に一つだけ確認したいんだけど、その勇者様の指令は絶対信用できるものなの?」


 それは当然の質問だ。そこが間違っていたらそもそも話が成り立たないのだから。


 そしてそれに対して僕は自信を持って返答した。


「間違いないよ。少なくともこれに嘘や偽りは絶対にあり得ない。紛らわしかったりこっちを勘違いさせる表現だったりすることはあってもね」


 クエストは言わば神から僕に対しての指令。


 ここで理由もなく嘘をつく意味があるとは思えない。多少からかうつもりでややこしいことを載せることはあっても、だ。


 それに加えてクエストに明確な嘘偽りがあった時点で僕との信頼関係は完全に崩壊すると言っていい。


 少なくともこれを含めてメニューの能力に嘘偽りがないからこそ、僕は神の指示に対して素直に従っているという面が少なからず存在するのだから。


 無力な僕にとって異世界で数少ない拠り所となるチート能力。


 勇者として動くための最も大切な基礎であり大事な地盤ともいうべきそれにさえ意図的な偽りがあるのなら、もはや神の言うことなど何も信用できないということに他ならない。


 それはゲームのルールを無視するということだ。その時点でそのゲームはゲームとしての機能を失うに等しい。


 例えるなら、鬼ごっこでタッチされても鬼が変わらなければそれはもはや鬼ごっこではありえないということだろうか。


 最低限のルールがなくなってしまえばそれはもはやゲームとしては成り立たないのである。


 今までのクエストの出し方から考えても、この神は最低限のルールの部分だけは律儀なほどに守っているように感じられる。


 だからこそややこしい言い回しなどを使っているのではないだろうか。


(もしかしたら神は僕とゲームをしているつもりなんだろうか?)


 この関係はある見方をすれば謎解きの出題者と回答者に見えなくもない。


 出題者である神は回答者である僕が悩み、その答えを得るために奔走しているのを見て楽しんでいる。そう見えなくもないだろう。


 もっとも神様の考えることだ。ただの人間、それも凡人の僕程度で理解できるとは思えないとも思うのだが。


(まあ、今はそれを信じて行動するしかないってことか)

「それで僕は考えたんだけど、このまま二人をそのリーバイスに連れて行こうかと思う。もちろん彼らには本当の理由は教えずに」


 明確な証拠を提示できない以上、言っても怪しまれるのがオチだ。


 下手にそれで僕達の元から離れられても困るし、近くにいて守れるこの状況だけは何としてでも保持すべきである。


「一応聞いておくけど、二人の両親の元に連れて行くっていうのはダメなのね?」

「それも考えたんだけど、今回の一件はそんな単純なことではどうにもならないような気がするんだ」


 時間制限がない。それは時間でどうにかなる問題ではなく、その運命に繋がるだろう原因か要因をどうにかしないといけないことを意味しているのではないだろうか。


 これらはあくまで僕の推測だ。証拠などないし確実などとは口が裂けても言えない。


 でも運命を変えたいのなら何か行動を起こさなければならない気がしてならないのだ。例えそれが危険だとしても。


 別に努力すれば必ず運命は変えられる、などというポジティブな事を考えているわけではない。むしろその逆だ。


(何もしないで運命が勝手に変わるなんて、そんな都合のいいことがあるとも思えないしね)

「とまあ、僕はそのつもりなんだけどミーティアはどう思う?」

「……まあ、それしかないわよね。さっきまでの様子からしてまだリーバイスに行くのを諦めてはいないみたいだし、親元に届けてもまた勝手にいなくなるかもしれないわ。それなら私やコノハが一緒にいる方がまだ安全だもの」


 大きな溜め息を吐いて仕方ないといった様子だったが、それでもこちらの意見に賛成してくれた。


 こちらとしても全く不安がない訳ではないので、その態度は当然だと思う。


 僕だって理由があるとはいえ未成年の子供を親に無断で連れ回すだけでも気乗りはしない。


「まあでも、あまり深く考えたって仕方ないさ。今の状況じゃあ何を選んでも不安要素は残る訳だし」

「ふふ、確かにその通りかもしれないわね」


 前とは逆の立場になった形で僕の発言にミーティアは笑って頷く。


 運命なんて不確かで曖昧なものが相手なのだ。正しい解答なんてものはきっとないのだろう。少なくとも僕達にはわからない。


「なんにせよ、あの二人にも意見も聞いてみないとね。意見が変わって親元に帰るってなっていたらこの話し合いも意味がない訳だし」


 そうして確認しに行った結果、オルトはまったく気落ちした様子もなく堂々とリーバイスに向かうことを宣言したこともあって僕達もまたそれに付いていくことが決定したのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ