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第四話 警戒心

本日二度目の更新です。ご注意ください。

 足早に進んで野宿ができそうな洞窟に辿り着いた時には既に日が完全に沈んでいた。


 ただ、運が悪かったのは雨が降って来たことだろう。

 ようやく見つけた洞窟に駆け込む頃には、全員の服はずぶ濡れになってしまっていたのである。


「ほら、あなた達も服を脱いで着替えなさい。替えの服は買ってあるから」


 ミーティアがそうやって促すものの洞窟の入り口付近で警戒してばかりでそこから動こうとはせず、二人はただこちらを睨むように見るばかりだった。


 仕方ないので僕とミーティアは先に着替える。当然ミーティアの時には僕は目隠しを厳重に施されたことは言うまでもない事だろう。別に覗く気などないのに。


 そんな少しバカな事を経てこちらが着替え終えた後でも彼らは何も言わぬまま動こうとしない。流石に困っていたのだが、


「着替えないと食糧はあげないわよ」

「「え!?」」


 その言葉にはあっさり反応を示した。しかもかなり素直な感じで。


 ステータスにある『状態・空腹』が示すようにどうやらお腹はペコペコのようだ。かなりショックを受けた表情である。


 それにしてもミーティアはこういった相手の対応にも慣れているようである。


「何だか少し母親みたいだね」


 何気なくそう言ったのだが。


「それだとあなたが父親役なのかしら。随分と若い夫婦ね」

「あ、いや、すみませんでした」


 それを聞いた時の彼女の視線がとても恐ろしかったので素直に謝っておく。


 僕としては頼りになるという意味で言ったのだが、どうやら相手にとってはそう取られなかったようだ。


 女性が怒っている時には何が有ろうと逆らってはいけないのは姉で学習済みなので流石にそれ以上の地雷を踏みぬくような真似は控えておく。


 それをやると今は良くても後々響いて来るからだ。


(って、そんなことはどうでもいいんだった)


 少年と少女は食事を餌にされてかなり迷っているようだったが、それでも決心には至らなかったらしい。


 少女に至ってはどうしたらいいのかわからないといった様子で僕とミーティアの交互に見ていた。顔を見ても答えなんて書いてないだろうに。


「お、お前……あなた達は、その、何者なんですか?」


 わざわざ言い直して敬語を使う辺り、ある程度はこちらに感謝はしているらしい。だがそれでもそれが罠ではないかという思いも捨てきれないのだろう。


 半人半獣(ハーフビースト)の少女を狙っている奴が甘い罠を仕掛けている、という可能性もないとは言い切れない以上その態度は間違ってはいなかった。


(まあでも、そう思うのならここに来るまでに逃げ出さなきゃいけないだろうけどね)


 僕達が悪人だったならここに来た時点で既に事を為している事だろう。


 はっきり言ってしまえば警戒するのが遅すぎるし考えも甘い。こんなことでよく今まで無事だったものである。


 同じような事をミーティアも考えているのか大きく溜め息を吐いていた。今更か、と言わんばかりに。


「その質問にも答えてあげるからまずは着替えなよ。風邪を引かれたこっちも困るしね」

「ど、どうする? とりあえず着替えだけもらってみるか?」

「え、どうするって言われても……」


 少年の方はかなり傾いてきたようだが、それでもまだ決心がつかない二人に対して、


「ああもう、自分でやらないなら私がやらせるわよ」


 その言葉通り、ミーティアは二人に接近すると問答無用と言わんばかりに、まずは少年の体を抱え上げた。


「な、何すんだよ! 放せ!」


 少年のレベルは年齢の割には高いのだろうがそれでも所詮18だ。倍近いミーティアに力で敵う訳もなく、抵抗むなしくあっという間に服が脱がされていく。


「下着は勘弁してあげるから、さっさこれを着替えなさいよ」


 そして下着一枚まで脱がされたところで元の服は取り上げられ、新しい服を頭に放り投げられていた。


 その表情は投げられた服に隠れていて見えないが、ノロノロとその言葉に従い始めたところを見ると遂に諦めたようである。


 そしてミーティアは次のターゲットに向おうとしたところで、僕は慌てて声を掛けた。


「ちょっと待って!」

「いいからコノハは後ろを向いてて。その間に済ませるから」


 少し慌てた僕の言葉を少女の服を剥くことに対しての静止だとミーティアは思ったらしくそう言った。


 だが僕が言いたかったのはそんな事ではない。いや、それもなくはないのだけれど。


 そうして慌てて回れ右しながら、


「その子には気を付けた方がいい……って遅かったか」


 既に手遅れである事は聞こえてきた音ですぐにわかった。


 少年の背後に隠れていたこともあって少女の方が弱いように思える。だけど現実には少女の方がレベルは高かったのだ。それを知った時は僕も驚いたものだ。


 なにせ少年と同じ十歳でありながらレベルは32だったのだから。人は見かけによらないものである。


「いやー! 放してー!」

「いった!? 何よこの子、滅茶苦茶力が強いじゃない!?」


 女性に二名の悲鳴が聞こえてくるが僕には何もできない。下手に振り迎えったら、それはそれで不味い事態になりかねないからだ。


「ね、ねえ。あれ、止めなくていい、んですか?」


 いつの間にか僕の横に来ていた少年は新しい服に身を包んでいそう問い掛けてきた。


「僕には無理だからね。だからできるなら君にあの子を止めて貰えれば嬉しんだけど」

「無理だって! じゃ、じゃなくて無理ですよ。普段のメルは臆病で大人しいけど、ああなったら誰の言う事も聞かないんです。それに俺よりもずっと力が強いし」

「それなら仕方ないな。まあ、ティアの方が力は上だし、きっと上手くやってくれるよ。という訳で、それまで僕達はご飯でも食べながら待っていることにしよう」


 そう言ってボックス内に用意しておいた今日の晩御飯をこっそりと取り出して少年に渡す。


「……兄ちゃんって変な人だな。あ、やべ!」

「そうかな? ああ、僕の名前は結城木葉だから木葉って呼んでくれるかな。それと年上だからって僕相手には別に無理して敬語を使わなくてもいいよ。話しやすいように話しな」

「……それじゃあ遠慮なく。俺の名前はオルトス。オルトって呼んでくれよ。で、後ろで暴れてるのが双子の妹のメルニスって言うんだ。よろしくな、コノハの兄ちゃん」

「よろしく、オルト」


 何だかよく分からない内に打ち解けてしまった僕とオルトはそうして二人だけで先に晩御飯にありつくのだった。

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