第一話 ただ一人だけがすべてを知る救出劇
マップ上にそれを見つけたのは夕暮れ時だった。
(逃げているのは二人でその背後に迫る魔物が五体か)
ここからそれなりに距離が離れた山の中での事である。その為ミーティアもまだそれには気付いていないようだし、僕はこっそりと助ける事にした。
この二週間の間にも同じような事が何度かあったのでそのやり方はわかっているのである。
(っと、思った以上に時間がないな)
既にその二人は崖を背にして追い詰められていた。このままでは逃げられないだろうし、下手をすれば崖から真っ逆さまだろう。そうなればまず命はない。
僕は不自然にならないように気を付けながら、靴を履き直す振りをしてその場に立ち止まる。当然、横で歩いていたミーティアはそのまま進む訳で、僕の姿は彼女の視界から一瞬の間だが完全に消えていた。
レベル調整とロックオンは既に終わらせてあるので、残るは五つの石をボックス内から取り出して、それらを両手の指の間に挟み、
(よっと!)
そして手首のスナップだけで投擲する。普通ならこんな投げ方では届かないどころか、まともに飛びさえしないだろう。
だが僕には非常識なレベルとロックオン機能というものがあるのだった。
風を斬り裂いてあっという間に目の前に生い茂る林の向こうへと石は飛んでいき、それが舞い起こした風に気付いたミーティアが振り返る頃には既にそこには何もない。
そう、ただ靴を履き直す僕がいるだけだった。
「足がどうかしたの?」
「いや、ちょっと靴を履き直していただけだよ。靴の中に何か入ったみたいだったから」
そう言って何事もなかったように歩くのを再開して僕はミーティアの隣に戻る。視界の隅では魔物が石によって瞬く間に倒されていくのを確認しながら。
別にミーティアになら隠す必要はないのかもしれないのだが、わざわざほんの一瞬で済む事を伝える必要もあるまい。別に誉められたくてやっている訳でもないのだから。
向こうの二人は突然の事態にどうしていのかわからないのか崖の傍から動けていないようだったが、それも時間の問題だろう。
そしてそこから先まで面倒を見る気までは僕には更々ない。
向こうからしたら意味の分からない事態を不気味に感じるかもしれないが、無償で魔物という危機を排除してあげたのだ。感謝されこそすれ恨まれる筋合いはないはずである。
「今日は何だか風が強いわね。雨が降ってきたら面倒だし、少し早いけど休めるところを探しましょう」
「そうだね、雨に当たりながらの野宿は流石に御免だよ」
そんなことを言いながら僕とミーティアはその二人を置いて進んで行く。
僕だけしかその全容を知らない救出劇があったことなど誰も気付かぬままに。