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エピローグ

本日三度目の更新です。ご注意ください。

 その日の夜は野宿となった。適当な場所で火を焚いて僕は見張りに立つ。もちろん立つと言っても実際に直立不動になる訳ではなく起きているだけだが。


 そして僕のすぐ隣ではミーティアが用意した毛布に包まってぐっすりと寝ていた。


 その寝顔にはうっすらと涙の痕が出来ている。なんだかんだ言って、あれからほぼずっと泣きっぱなしだったので明日は目が大変な事になっていそうだった。


(でもそのおかげか、ぐっすり眠れているみたいだ)


 これだけ見ると気配に敏感なんて思えない程に完全に寝入っている。


 現に僕がこの近さに居ようが魔物が接近して来ようが、これまでなら気付く距離だというのに起きる気配がまったくない。


 たぶんだがもっと近づいて来てもその結果は変わらないだろう。


 既に見張りを交代する時刻は過ぎている。でも僕はこのまま何も言わずにいることにした。


(こんな安心しきった寝顔を見せられたら起こせないって)


 その邪魔をする魔物には音も無く消えてもらう。


 魔法で消すと素材が取れないのが難点なのだが、今日に限っては仕方がない。そんなことより音を立ててしまう事の方が絶対に避けなければならない事だろう。


(まったく、僕も大概だな)


 実に適当なあの時の発言を思い出して僕は苦笑いを浮かべていた。


 もちろん嘘は言っていない。実際、捉え方によってはそう捉えることも出来るとは本心から思っている。


 ただ慰める為の方便がなかったと言われると、それを否定する事は出来なかった。


 僕はミーティアをクズだなんて思わない。ああいった事は人間なら当たり前のことだと思うし、余程特別な存在でもない限り誰もが通る道だと思う。


 あるいは超えるべき壁だと言っていいのかもしれない。


(でもあの状態のミーティアに、君はクズなんかじゃない、なんて言ったところで信じてもらえなかっただろうな)


 僕の考えとしては、奴隷紋と盗賊の証が消えるまでのミーティアは基本的な考え方や感じ方が盗賊に近かったのだと思う。それが良いか悪いかは別にして、だ。


 そしてそれと同時に自分はそういった存在だから、というような言い訳を無意識の内に使っていたのだろう。だからその間は秘密を抱えていても罪悪感に苛まれることはなかったのだ。


 だけど僕がその二つを消し去った事でミーティアは形の上では自由になった。


 それ自体は歓迎すべきことなのだが、それと同時にその言い訳が使えなくなってしまった事に他ならない。


 その上、ミーティアは単純に言えば盗賊達に捕まる前の状態に戻ったと言えなくもない。


 少なくとも奴隷紋も盗賊の証も消え去ったので、その気になれば自分の故郷に戻ることも出来るのだ。


 だがそこでこう思うはず。自分はあの頃とは変わってしまったと。

 ひどい場合には自分はどうしようもなく汚れてしまったと思ってもおかしくはない。


 これは単なる僕の予想に過ぎないが、大筋は外れていないと思う。


(少なくともミーティアは自分が人を騙していたことに罪悪感を覚えていた。それはつまりその事に罪の意識が生まれたって事のはず)


 それはきっとミーティアの心が一般的には善と言われている方向に戻っている証拠だと僕は信じたい。


 悲惨な経験から、救いのない考え方をしていたのが改善されたと思いたいのだ。それが偽善的で身勝手な僕の独りよがりだとしても。


 そもそも本当のクズは罪悪感なんて持たないのだ。だからミーティアは決してクズなどではない。


 それをあんな形ではなくちゃんとした言葉で伝えられたらいいのだが、生憎僕にはそんな話術も正面からぶつかる度胸もなかった。


(だから僕は凡人なんだろうな)


 それは要するにその他大勢のことである。むしろそこに位置する割合は人類規模で見ても過半数は占めることだろう。


 それが当たり前。それが普通。それが通常。それが常識。そういうものだ。


 そこに位置していない方が少数で選ばれているからこそ特別であり、だからこその秀才であり、なにより天才なのだ。


(……いっそのこと、ここで紅葉と入れ替わるのもありなのかもしれないな)


 紅葉なら僕よりもっとうまくすべての事を為す。ミーティアの説得だってもっといい方法で完璧にこなすことだろう。


 そんなバカな事を考えていた時だった。


「……ミーティア?」


 呼びかけるが寝ているため返事はない。


 だけど彼女はその手で僕の服を掴んできていたのだ。


 そう、それはまるで縋り付くように。行かないでというように。


 そう見えたのは間違いなく僕がバカな事を考えて感傷的になっていたからだ。

 だけど何故かそれでも僕はその行為にホッとして、同時に胸が温かくなっていた。


「……まあ、今交代したって文句を付けられるのは目に見えてているし、もう少しは頑張らなきゃね」


 そんな言い訳を口にしながら僕は夜を越していく。


 ミーティアという仲間の存在を隣に感じながら。

これにて第二章は終了となります。


ミーティアに関しては前回の話と合わせて印象が変わった方も多いかもしれませんね。もしかしたらイメージを崩してしまった方もいるかもしれません。


ですが作者としてはずっと考えていたところだったのでこのような形にさせてもらいました。


それと次の第三章のタイトルは双子の兄妹編です。

楽しみにしていただけると嬉しいです。

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