第十二話 対魔術師戦
扉から出たら、狙っていたかのように火の玉が放たれる。
それに向かって僕は何の変哲もないただの石を一つ投げつけ、その勢いだけでその火を掻き消した。
(よし、レベルは80もあれば十分だな)
後ろ手で扉をしっかりと閉めながら僕はそんな事を考えていた。
刺客の魔術師達のレベルやスキルなどはメニューでも表示されていない。
どうやら前の時と同じように何らかの手段を使って隠蔽しているようだ。それも一人ではなく全員である。
とは言え逆にそれで刺客だと判断できるし、居場所はわかるのでそれで十分。すぐさま一番近い相手をロックオンして、
「そら!」
容赦なく投石をかます。空気を斬り裂くようにして飛んで行った石は相手の腹部に直撃すると、そのまま相手を吹き飛ばした。
民家の屋根の上にいたこともあって、そこから転げ落ちていったが自業自得なので気にしない。光点は動かなくなったが消えてはいない事から死んではいないはずだし。
(あと四人か)
今の一人は隠れ家に侵入しようと企んでいたのか比較的近くにいたが、残る四人はかなり離れたところにいて隠れ家の四方を取り囲むように配置されている。
どうやら先程の魔術は四人同時の包囲攻撃だったようだ。
「ここからじゃ狙えないな」
既に何度も魔術の攻撃が放たれているのだ。街中でこんなことをやって騒ぎにならない筈がない。
中には家でじっとしていられなくなった人もいるらしく、外に出てきて逃げ出す人も次々に現れ始めていた。この分だと民間人が邪魔になって投石での攻撃は難しい。
下手にこのまま普通に投げればその人達に当たってしまうかもしれないからだ。
(だったら……)
直線の軌道が無理なら上からだ。
僕はまずは隠れ家の屋根の上に飛び乗ると、そこから更に上へと跳躍した。宙に浮きながら左右両手に握った石を同時に別方向へ投擲。それぞれがロックオンした対象へと上から斜めの軌道でもって襲い掛かる。
一人は火の玉を迎撃するが、それは跡形もなく消し去られて直撃。もう一人は異変を察知したのか、すぐに逃げ出していたので躱されてしまった。
残るは三人。
ただ敵もただやられてくれる訳がなく、反撃してきた。
宙を跳んでいる僕に重なるようにして緑の光点が生まれているが、周囲に変化はない。
(だとしたら……上か!)
そう思ってすぐに見上げると、
「これは、雲?」
小さな黒い雲が浮いていた。何かわからないがすぐさま破壊しようと石を取り出したところで、カッとその雲が輝く。
それと同時に一筋の閃光が僕に向かって襲い掛かって来たのが辛うじて目に映る。だが光の速さのそれを躱せる訳もなく、僕は為す術なく直撃。
「いった!」
全身に静電気が奔ったような痛みが襲い掛かってきた。地味に痛い。
すぐさま投石して雲を吹き飛ばすと雷もなくなった。
ログを見たところ雷属性の魔術で攻撃されたようだ。どうやら麻痺させる効果もあったらしいがレベルの差で抵抗したようである。
隠れ家の屋根に着地しながら残る三人の居場所を探ると、相変わらず距離を取ったままで近付いてくる様子はない。やはりゲームなどと同じように普通の魔術師は接近戦が苦手なのだろうか。
(このままじゃ負けはしないけど時間が掛かるな。……仕方ないか)
元々、いくらレベルの差があるとは言え投石だけでどうにかしようとしたのが間違いだった。既にパニックの規模は大きくなって来ているし、被害を出さない為にも一刻も早く事態を収束させる必要がある。
あまり目立ちたくないのだが、少しぐらいは我慢するとしよう。
(念のためレベルをもう10、いや20上げてっと)
そのままでも大丈夫だけど、一気に終わらせるためにもそうする。
そして100もあれば忍者の真似事をするのには十分過ぎた。
両足に力を込め、そして一気にその力を解放。僕の体は屋根の上から弾かれるように飛び出す。
そして適当な建物の屋根に着地してはまた跳ぶのを繰り返して、瞬く間に目標へと接近を果たした。
向こうもそれに気付いて逃げようとしているが遅い。結局それは間に合わずに、
「あと二人っと」
そしてその為に何も特別な事をする必要はない。同じこと繰り返せばいいだけだ。
反撃で火の玉を至近距離で放ってきたのを身体能力にあかせて回避してもう一人。そして最後の先程の攻撃を躱した奴は逃げようとしていたので、その背後から忍び寄って一撃で終了。
「これで全員かな?」
五人全員の無力化に成功した、と思ったのだが、一つの光点が未だに動いている。それは最初に無力化したはずの奴だ。
「あれをまともにくらってまだ意識があったのか。どうやら他の奴らとは随分と違うみたいだね」
すぐに捕えに行ってもよかったのだが、僕はその人物の行き先を察知してあえて見逃すことにする。
「こうなったら一網打尽にするのが一番手っ取り早いしね」
その前に残った魔術師の四人を隠れ家まで運んでおく。
今度は逃げられない様にMPを無くしてしっかりと拘束しておいた。これなら目覚めても魔法は使えないだろう。
「あんた、無事だったんだね!」
「一人でこれをやったってのか。何で奴だよ、まったく!」
僕の無事を知ったマックスさん達は賞賛の言葉で歓迎してくれたが、まだそれを受け取るには早い。まだ残っている奴らがいるのだから。
「お疲れさま。それでこれからどうするの?」
「実は一人だけ逃げられたんだ。まあ、正確には逃がしたんだけどね」
その言葉だけでミーティアはこちらの言いたいことをわかってくれたようだ。すぐに装備を確認し始めて、
「それなら私達だけで行くより証人となるこの街の人を一人か二人、連れて行った方がいいわ。もちろん絶対に何が有ろうと守るって条件が付くけどね」
そう言ってくる。
でも確かに安全を確保できるのならそうした方がいいのかもしれない。
余所者である僕らが後で真実を語るよりも、同じ街の仲間から話を聞いた方が街の人も信じられるだろうし、後々の為という奴だ。
そうしてミーティアの他に二人の同行者であるマックスさんとロイゼさんも連れて僕はすべてを終わらせに行くのだった。