第十一話 悪魔のような
メニュー内で何かがあったのかを知らせる音と共にアイテムボックス内の交信石にビックリマークのアイコンが付く。取り出してみると交信石が振動していたので出た。
「もしもし」
「あ、若旦那! 良かった、繋がって」
「その様子だと何か情報を掴めんだみたいだね」
ミーティアもこちらに身を寄せてきて会話に聞き耳を立てていた。
「それなんですが、どうもかなりきな臭い情報を手に入れまして……」
そう前置きして語られた内容はナバリ男爵が最近、裏ルートを使って魔術兵器を購入したらしいというものだった。
「ごめん。魔術兵器って何かな?」
「その名の通り、魔術を使った兵器の事よ。種類は色々あるらしいけど、作るのにはかなり高度で複雑な技術を必要とするらしくて、一般人が目にすることは滅多にないわ」
「普通は大規模な戦場とかでしか使わないって話です。どれも威力がとんでもないから、かなりの距離がないと味方も巻き込んじまうんだそうで。ここ最近だとどこかの勇者様が万を超える大群の魔物とそれを率いる魔族を殲滅するために使ったとか」
勇者が自分の力以外にわざわざ魔王や魔族と戦う為に使うようなものか。絶対にヤバい物であるに決まっている。
そんなものを買ってナバリ男爵は一体何をする気なのだろうか。
「まさかと思うけど、僕ら予想が外れていて実はナバリ男爵は本気で魔族と戦う気、なんてことはないよね?」
「あり得ないわ」
ミーティアははっきりと断定する。
「魔術兵器は威力が高過ぎて味方を巻き込みかねないことからも防衛などにはまったく向かないわ。それに本気でこの街を魔族から守るつもりなら、もっといい方法は幾らでもあるもの。わざわざ高い金を掛けてそんな物を買う意味は、はっきり言って皆無ね」
「街を守るだけなら普通に結界装置でも買った方が断然お得で効果がありますからね。別の使い道があると見るべきです」
そんな、例えるなら劣化核爆弾みたいな物をわざわざ裏ルートまで使って買う理由。絶対に碌なもんじゃない。
「使う予定があるから買ったはず。だけど街で使えばどう考えてもこの辺り一帯が、下手すればこの街さえも消し飛ぶわ。いくら中央に進出するつもりだからって、ここでの評価は重要になるはずなのに……ってまさか」
そこまで言ってミーティアは顔面蒼白になる。
その気持ちはよく分かった。何故なら僕も恐らく同じ解答に辿り着いているからだ。
「……ナバリ男爵はその兵器をこの街に向かって放つつもりだ」
「な、何ですって!? 一体どうしてそんなことを? そ、そもそもそんなことしたらナバリ男爵もただじゃ済まないでしょう!?」
ポールが取り乱すのも当然だった。
そう、普通に考えればあり得ない。そもそも街を消し飛ばすということ自体がまともな神経を持っているのなら例え考えても実行に移すことを躊躇わせるだろう。
だがナバリ男爵はこう評価されていた。平民が死のうが関係ないというスタンスの人物だと。
現にこうして僕達のような逆らう奴は力ずくで始末しようとしているのが何よりの証拠だ。
「もちろん使うのはナバリ男爵が安全な場所まで退避してからだよ。その詳しい方法まではわからないけど、恐らく彼は自分とその取り巻き以外のこの街の全ての人を、その兵器を使って始末する気だ」
「だからって、そんなことしたらどう言い訳するんですか? そんなことしたら大罪人として極刑どころか一族郎党皆殺しの目にあってもおかしくないんですよ!?」
「バレれば、ね。でも、その言い訳になる格好のネタがあるじゃない。そして実際に男爵はそれを口実に労働力を収集しているわ」
「徴兵……ってまさか全部魔族の所為にする気ってことですか!?」
自身は中央へと行けるように交錯を進め、必要な資金を得て準備を終えた後に邪魔になる証拠や証人となるすべてを消し飛ばす。
更にその責任を魔王や魔族に押し付けて自分は無実を勝ち取る。
筋書きとしては悪質ではあるものの、あり得なくはないと思えるものだった。
「でも本当にそんなことが可能だと思う?」
「相当無理を通さなきゃならないだろうけど、絶対に不可能とは言い切れないわ。それにここまで条件が揃っているんだもの。むしろこれで何もない方があり得ないわ」
「だよね」
勘違いであって欲しいとい願望はミーティアもそう予想している時点でほぼなくなった。
となれば話し合いなどしている暇ではない。わざわざ話し合ってもらっているマックスさん達には悪いが、すぐにでも動いてもらわなければ。
とその時、またしても緑色の光点がマップ上に生まれる。しかも今度は一つではない。
「ウォーターシールド!」
「伏せろ!」
突然のその声に反応出来た人は多くなかった。
次の瞬間にやって来た爆発音と衝撃に木造の民家が軋む。今にも倒壊しそうなほどに。
「……何とか防いだけど長くはもたないわ」
それでもどうにか崩壊を免れたのはミーティアが瞬時に四方を水の壁で守ってくれたからだ。マップの緑のラインもそれを物語っている。
「ようやく敵の目的がわかったこのタイミングで襲って来るなんて、なんて間の悪い奴等なんだか」
「いいえ、逆よ。私達が男爵の目的に気付いたから敵はなりふり構わず襲い掛かって来たの。たぶんポールが情報を掴んだことが向こうには伝わっているわ」
「なるほどね。そういう事か」
街の外から自らに抵抗する奴がやって来て、それとほぼ同時期に秘密に繋がる情報を嗅ぎ回る輩が現れた。その関連性を疑うのが当然というものだろう。
そして僕達ごと今回の一件を消し去る事を決定したらしい。街の人まで襲っているし、最早言い訳などできはしない。このまま全てを闇に葬り去るつもりなのは明らかだった。
「とりあえずこっちのことはいいからポールも気を付けて……って切れてるし」
今の魔術の所為でこの場は安定しなくなったらしい。どうやらここで僕らがポールの為にできる事はその無事を祈ることくらいしかなさそうだ。
悲鳴を上げて伏せている他の人には悪いが構っている余裕はない。
恐怖で混乱している人達のフォローはどうにか平静を保っているロイゼさんやマックスさんに任せることにして、
「ミーティアはここで次の攻撃に備えて。その間に僕が外に出て魔術師を倒してくる」
「……いけるのね?」
「楽勝だよ」
無駄話をしている暇はないとわかっているからか、ミーティアはその短い会話で納得してくれた。この状況で全ての人を守り切るにはそれしかないとわかっているのだろう。
「行ってくる」
先程と同じ失敗をしないようにレベルはかなり高めに設定しておき、扉を開けて外へと飛び出した。