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第九話 三者凡退

 夜、街は静寂に包まれていた。


 元々活気がなかったのだ。日が暮れて夜になればそれはより一層顕著になる。明かりもほとんどなく、まるでゴーストタウンなのではないかと思う程だった。


 もっとも寝る分にはそれは好都合ではあったのだけれど。大して疲れていなかった僕だったが、そのおかげもあってしばらく目を瞑っていると次第にウトウトして来ていた。


 そしてあと少しで完全に眠りの世界に落ちる、はずだったのだ。


「コノハ、起きてる?」


 さっき確認した時には睡眠状態だったはずのミーティアがそう小声で問いかけてくる。その声に反応して僕はうっすらと目を見開いた。


(……何でここで動くかなぁ)


 そして思った事はこれだった。折角あと少しで眠れそうだったのに。


「起きてるよ」

「じゃあ、そっち側は任せるわ」

「了解」


 その短く二人にしか聞こえない声でのやり取りが終わってすぐに扉と窓がぶち破られた。


 そして部屋の中に何者かが転がり込んでくる。


 こんな乱暴な来訪者に心当たりはないし、そもそもこの状況では侵入者以外の何者でもないだろう。という訳で容赦なく排除の一択である。


「ぐえ!?」

「ストライク。いやどちらかと言えばデットボールかな?」


 扉から入って来て一直線に僕の居るベッドに向かってきた先頭の男の顔面に石が容赦なく着弾し、そいつはそのまま仰け反るようにして倒れていく。


 完全に意識を失っているらしく後頭部から床に落ちて行った。


(うわ、痛そう)


 ゴツンという鈍い音を聞きながら、僕は続いて前の男とほぼ同時に部屋に侵入しながらも比較的遠くにいるミーティアに向かっていた男にも石を投げる。もちろん殺さないようにレベルは調節してある。


 第二投もロックオンのおかげで狙い過たずに今度はその腹に石が直撃。気絶はしなかったものの、蹲って悶絶しており当分は動けそうもないのでこれでよし。


 最後に部屋に入って来たところで倒された二人を見て呆然としている奴の腹部目掛けて投石して、


「こん、のぉ!?」

「う、うわ」


 僕は見たくないものを見る羽目になった。


 最後の奴は腹部に投げられた石をジャンプして躱そうとしたらしい。だがその跳躍が足りず、着弾地点が変わるだけでしかなかったのだ。


「ば、バッターアウト……って、そんなこと言ってる場合じゃないな」


 ある意味でドストライクなのだが、当たったところが急所は急所でも男の急所である。


 僕も男だ。その痛みが嫌でも分かってしまう。声も上げられずに二人目の男以上に苦しんでいるその人物に敵だとわかっていても同情せざるを得なかった。


「だ、大丈夫ですか?」


 思わず声を掛けてしまうが真っ白い顔をしながら鼻息を荒くするだけで返答はない。ステータスで状態を確認することもできなくはないのだが、それは何となく嫌だ。


 仮に損傷とか出たらそれを想像しただけで痛いし。


「何やってるの、コノハ。終わったなら早く拘束して」

「……うん、わかった」


 ミーティアはそれ見ていたのかいなかったのかはわからないが、そんな彼を一瞥しただけでそう言い切った。いつの間にか窓からの二人も床でのびている。


(ごめんなさい)


 心の中で謝りながら渡されたロープで動きを封じさせてもらう。この時点で眠気なんてどこかに行ってしまっていた。


「装備品は兵士のものでもなくそこら辺の武器屋にあるような安物。って、ことはナバリ男爵お抱えの私兵でも精鋭って線はなさそうね。それならもっといい装備を与えられているでしょうし。傭兵あるいは傭兵崩れのゴロツキか。要するに私兵は私兵でも使い捨ての駒ってところね」


 襲撃者達の装備や所有物を剥ぎ取りながらミーティアは冷静に分析を進めて行った。その手際は実に素早い。


(それにしても流石だな)


 ミーティアの予想通り彼らの職業は傭兵である。


 レベルは平均で20前後とは言え数秒で二人も無効化するその腕前やその後の分析力などは素直に尊敬できるというものだ。僕から見たら武器や防具の質や善し悪しなどさっぱりわからないし。


「そう言えば結構大きな音がしたはずなのに誰もやって来ないね」

「他の客はいないから当然として、宿の主人はグルよ。でなきゃ夜中とは言え二階にあるこの一室にこうも簡単に侵入出来る訳がないわ。まあ、それが本人の意思か脅されたのかまでは分からないけど」


 それについては宿の主人とこの襲撃者達に教えて貰えばいいだけの話である。折角の情報源なので有効利用しない訳がない。存分に利用させてもらわなければ。


 その時だった。マップ上に今まで見たことのない緑の光点が生まれたのは。


「ミーティア!」

「わかってる!」


 僕達はほぼ同時にそれに気が付いた。


 窓の外を見ると巨大な火の玉がこの部屋目掛けて突っ込んできている。その速度はかなり速い。


(間に合わない!)


 どう考えても五人の襲撃者を部屋の外に退避させている時間はない。そう判断した僕は逃げることを諦めて、すぐさまその火の玉目掛けて投石を試みた。


 攻撃によってその魔術を吹き飛ばそうと考えたのだ。


 だがそこでレベルを制限していたことが仇となった。


 風を斬り裂いて進んで行った何の変哲もないただ石は火の玉を貫いてその半分程を吹き飛ばしたけれど、完全には消えていない。


 すぐさま第二投を行おうとしたところで。ミーティアの方が先に動く。


「ウォーターシールド!」


 その声と同時に透明な水の膜のようなものが窓の外に現れて火の玉と衝突。それによって火の玉は今度こそ完全に消え去っていった。


「……追撃はないみたいね」


 その言葉が発せられる前から僕はマップで周囲を探っていた。そしてこの攻撃を放ったと思われる光点を発見する。だがその光点は青いので人を表していたものの、他のものと違って色が薄いと言うか、半透明だった上に名前の表示もない。


 しかもステータスを開こうとしても反応がなかった。


(スキルか何かでステータスを隠蔽しているのか?)


 そしてその光点はある程度の距離まで離れるとパッとマップ上から消えてしまう。どうやら捕捉できる距離から逃れられてしまったようだ。


 今すぐに奴がいた方向へ僕も移動すればまた捕捉する事も可能だろう。だがそれは止めておいた。


 この街でこんなことを仕掛けてくる人物は一人しかいないのは判りきっているし、まだ監視の目は完全に消えた訳ではない。ここで動けば相手に情報を与えることにもなってしまうだろう。


 それになにより、この使い捨てにされた襲撃者達五人をこのまま放置しておく訳にもいかない。情報を引き出す為にもどこか安全な場所に匿わなければならないだろう。


「私達も移動しましょう。夜とは言え街中であんなことを堂々とやって来る連中だもの。こんな宿にいたら的になるだけだわ」

「それは良いけど、監視はどうする?」


 ロイゼさん達の元に行くにしても監視の目をどうにかしなければならないはずだ。


「大丈夫、それは任せておいて」


 だがミーティアはそう言い切った。


「こうなった以上は多少手荒な事になっても仕方がないわ。それに誰にも気付かれず、そして証拠も残さずに眠らせればいいだけだもの。この程度の監視なら余裕だわ」


 その宣言通り、ミーティアは短時間で全ての監視者に何の抵抗も許さず、また何も気付かせずに無力化という難題を簡単に成し遂げるのだった。

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