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僕は姉の代理で勇者――異世界は半ばゲームと化して――  作者: 黒頭白尾@書籍化作業中
第二章 チュートリアルの続き編

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第八話 食糧調達

 そのままの格好で外を出歩いたらバレバレなので僕はマックスさん達に用意してもらった別の服に着替えていた。街の人と同じ格好をすることで少しでも溶け込もうと考えた訳である。


 そしてそこで思わぬ収穫もあった。


(まさかこんな形でレシピが手に入るとは思っても見なかったな)


 ついでという訳ではないが、ダメもとで魔術書はないかと尋ねてみたのだ。


案の定ないとの答えだったが、その代わりと言って色々と見せてくれた本の中に合成のレシピが書いてあるものがあったのだ。


 それはどうやら古代語という特殊な文字で書かれていたらしくミーティアを含めて周囲の誰も読めなかったのだが、翻訳のスキルを持っているおかげか僕には読めた。


そしてそれを読んだ瞬間にレシピを手に入れたという訳である。


 手に入れたレシピは闇狐(やみぎつね)の仮面というものだ。


 その名称やレシピ本の名前が『隠れ身シリーズその1』だったことからもその効果がどんな物かは簡単に予想が付くというものだろう。


 幸運にも材料は揃っていたのでこっそりと合成してみたのだが、実物を見た僕の反応は微妙の一言。


 なにせ縁日で売られているような白くて細い目をした狐のお面、そんな感じの仮面だったのだ。


 お面よりも作りはしっかりしていたものの、何だか拍子抜けした感は否めない。


 初めて合成した装備品だったので無意識の内に凄い物が出来ることを期待していたのだろう。


 試しに誰にも見られないように隠れて装着してみたが、やっぱり微妙だった。


 見た目的にお祭りなどでテンションが上がって、いい齢なのにお面を着けてしまった男って感じ。

 要するに痛いことしている感じしかしないのだ。


(……これは誰にも見つからないようにしよう)


 もっともこれには装備している間は気配を消す『隠形』や相手の認識を阻害してこちらの正体を悟らせなくする『隠蔽』などスキルが付与されており、とても役に立ちそうではるのだ。


 まったく使わないのはもったいないので、隠れて行動する時にでも使う事にしよう。


 そうして準備を終えた僕は一人で悠々と人気の少ない街の中を歩いていた。


 これからやることはミーティアにも見せたくないことだったので半ば強引に一人で行くと言い張ったのだ。


(って、やっぱり監視は付けられてるか)


 あの酒場から出る時にはいなかったのだが、街の中を歩いている内に明らかにこちらの跡をつけて来ている人達が現れ始めたのがマップで確認できた。どうやら僕はあの兵士とのやりとりで最低でも監視対象として男爵側に認識されたらしい。


 ただ尾行されているのは間違いないのだが、だからと言って手出しはできない。先程から襲うには絶好の場所である薄暗い路地裏などを通るなどして誘っているのだが乗って来ないからだ。


 こちらから下手に手を出せば向こうにこちらを捕縛する名目を与えてしまうことになりかねないし、今は放置しておくしかないだろう。


 でもこんなに早く僕に対して監視の目を光らせるところを見ると、やはり男爵には余程自分の邪魔となり得る人物を警戒する理由があるらしい。


(それは後で調べるとして、そろそろ本題に移ろうか)


 ボックス内にある食糧を与えるだけでもある程度の問題の解消には繋がっただろう。だがそれは決して解決とは言えない。


 何故ならそれらはここに来る前に結構な量を盗賊に渡したこともあって残り少なくなって来ているからだ。このまま食糧を調達できる手段がなければ、いずれは同じ問題に直面することになってしまうのは目に見えていた。


 監視の目がないようなら夜にでもこっそり城壁を飛び越えようと思っていたのだが、それは無理なようなので次善の策を取る。


 街の片隅にある厠、今で言う公園にあるような公共のトイレに当たるそこの中に入って扉を閉める。監視者達に透視のようなスキルがない事は確認済みであり、これで準備は整った。


 僕はメニューでマップを開くと街の外、ここに来るまでに通った街道の適当な座標を選択する。そして魔法を使って、その座標と今の自分の居る場所との距離を消すことを選択した。


 流石に即時発動とはいかずに五秒程の準備時間を必要としたものの問題なく魔法が発動。


 周囲の景色が歪んだと思った次の瞬間には視界に映る光景も違うし、草花の匂いが鼻にやってくる。転移成功だ。


 街の方をマップでみたが監視者達は動いていない。きっと僕が厠の中で用を足しているとしか思っていない事だろう。


「と言ってもあまり時間はないな」


 この辺りで食料になりそうなものは前もって聞いてあるし、それらが近くに有る座標を選んで転移したのだ。


 すぐさま手早く食料となる果実などをある程度回収してまた同じ方法で元の場所に戻る。そしてそのまま何事もなかったかのように外に出た。


(元の世界でこの力があれば完全犯罪し放題だろうな)


 もっともこれにも幾つかの制限は存在する。


 まずマップの座標を頼りにして転移を行う場合はマップに情報が記録されている、つまり僕自身が行った事がある場所にしか行けない。


 例外は転移する地点が目視できる場合だ。その場合はマップの情報に頼らずに転移が出来る。


 それに加えて距離が遠くなれば遠くなるほど、そして運ぶ人や物が多くなればなるほどに消費するMPが増えるという条件もある。


 今こうして僕が街を巡っているのもマップに情報を記録する為である。そう、いざという時の為に、


 街の様子や地形などを覚えながらマップに情報を蓄積していく。当然それはナバリ男爵がいる邸宅の近くでも行った。


 豪勢な邸宅の周りには巨大な庭、そしてそれを囲むようにして張られた柵。どこの大金持ちの家だと言いたくなる。


 庭には金色に光る石像や銅像が幾つも置かれているのだが、僕からしたら悪趣味以外の何物でもなかった。これがこちらの世界の美的感覚なら絶対に合わないと言い切れるほどに。


(……今すぐ中に入るのは厳しそうだな)


 入り口のところには門番らしき兵士が立っていて、こちらのことを睨み付けている。


 そしてその手は腰の剣に添えられており、僅かでも変な真似をすれば斬りかかって来るだろうことが簡単にわかった。向こうも脅しを掛ける意味でもそうしているのだろう。


 ここで動くつもりはないので僕は周囲をグルリと周るだけで済ませて、そのままその場を立ち去る。既に目標は達しているのだ。無理をする必要はない。


 そうして邸宅以外の街の情報をマップに集め終えた後はミーティアが先に行っているはずの宿へと向かう。既に部屋も取られており、僕は監視者の視線を背中に感じながらその部屋に案内されていった。


「ただいま」

「どうだったの?」


 扉を閉めたところでミーティアがすぐに尋ねてくる。これの結果次第で僕達に残された時間が決まるかもしれないのだ。すぐにでも結果を聞きたいのは当たり前の話だった。


「成功したよ」


 そう言って僕は取って来た果実を取り出してその一つをミーティアに向かって放り投げる。


「今回は様子見も兼ねてたからあんまり取って来なかったけど、その気になればもっと大量に取ってくることも出来るよ。なんなら果実だけじゃなくて魚や肉でもね」

「それじゃあ食糧については」

「僕がいる限り張って条件は付くけど、解決したと言っていいだろうね。むしろどうやって上手い言い訳を考えるかの方が問題だよ」


 ミーティアはもはや気にしたら負けだと思っているのか何も聞いて来ないでいてくれている。


 だけどマックスさんやロイゼさんもそうだとは限らないだろう。というか、絶対聞いて来るに決まっている。


 向こうからしたらその方法を教えて貰って自分達でもそれが出来るようになればより安心だろうから。


「言い訳なら魔術って言っておくのが一番よ。大抵の事はそれでどうにかなるもの」


 全ての魔術を知っている人なんている訳がないので諦めて、そういうものかと納得してくれるだろうとのこと。


「それと成否の報告は明日以降にだって。ロイゼさんにも監視が付けられているみたいだから今、あの店に行って接触するのは避けた方がいいわ」

「わかった」


 そこで僕はある事に気付いた。


「あのさ」

「何?」

「この部屋には何故かベッドが二つあるんだけど」

「当たり前でしょ。二人いるんだから」


 いや、何が当たり前なのかさっぱりなのだが。


「監視が付けられていて、いつ襲われてもおかしくない状況なのよ。ここで寝る時に一人になるなんて出来る訳ないでしょ。なによりあなたが前にみたいに勝手に動かないように私もあなたを監視する為よ」

「……わかった。言う通りにするよ」


 内心でさっき一人行動した時に勝手な事をしないでよかったと思いながら僕はそう言った。これで独断専行していたらこっぴどく叱られたに違いないし。


「色々あったけど、私達は長旅をしてようやくこの街に着いたのよ。明日から動く為にも、今日はもうゆっくり休んで疲れを取りましょう?」


 僕としてはレベルのおかげで長旅の疲れなど全く気にならないのだが、ミーティアはそうはいかないし、ここで疲れを見せないとまた色々と怪しまれることにもなりかねない。


「そうだね。今日はもう休もう」


 そういう思惑もあって僕はその提案に頷くのだった。

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