第七話 男爵の目的とは
魔王の復活によって魔物が活性化したが、そのせいで影響を受けている物が存在する。
その一つに上げられるのが自然環境だ。
どういう訳か強い魔物が生息する場所は資源も豊富になる傾向があり、様々な素材が手に入るようになるらしい。それは草木であったり鉱石であったりとその種類は千差万別。
そしてこの街の近くでもそれは起こっているのだとか。
「私がまだ十代の頃だったかね。何十年も前に鉱石が取れなくなった所為で閉鎖されたはずの鉱山。それがどういう訳か最近になって復活したんだよ」
「貴重な鉱石がゴロゴロ取れるようになったとかで、最初の内は俺達も喜んだものさ。閉鎖されたとは言え、人の手によって整備されていた場所だから比較的行きやすい環境だ。魔物についても前より手強くはなってはいたが、それでも俺達で倒せる程度だったしその時は、いつもはクソッタレな男爵も珍しく協力的だったしな」
普段は平民が死のうが関係ないというスタンスである癖に、その時だけは何故か通常よりも多い兵を派遣して魔物退治を行ってくれたらしい。
その変わりように何か企んでいるのではと町の人も怪しんだものの、それを拒否して負傷者を増やすのもバカらしいと思ったのだとか。実際その派兵おかげもあって死者を出すことなく鉱山を解放することに成功した。
そう、そこまではよかったのだ。
「その途端、奴は本性を出してきやがった。いや、元々そのつもりだったんだろうな。急に魔王が復活したから徴兵をするなんて言い出しやがったんだ」
しかも一度ではなくそれを何度も繰り返し、最終的には街のすべての若い男を半ば強引に連れて行ったのだとか。
マックスさんやその他数名は用事で街の外に出ていたりして何を逃れたられたとのこと。
「つまり徴兵とは名ばかりで実際には鉱山で働かされているってことですか?」
「間違いねえよ。ここ一ヶ月で訓練場は使われた事がない上にかなりの食糧とか採掘の為の道具なんかを鉱山に運んでいるのも確認している。封鎖されているから直接見ることは叶わなかったが、あそこには多くの奴が連れて行かれているはずだ」
この機を逃さず労働力を総動員して金稼ぎに邁進する。いきなり宝の山が天から降ってきたようなものだからその気持ちは分からなくはない。
だが、だからと言って加減というものがあるだろう。バランスを考えさえすればこんな問題にはならなかったどころか、どちらも利益を得られただろうに。
それともそこの利益はすべて自分のものだと思っているのか。そうでもなければここまで横暴な行為に踏み出しはしないのかもしれない。
「でもこんなことをしていて他の貴族や国は何も言わないんですか? 流石にこんなことを見逃していたら国家として成り立たないと思うんですけど」
「普通ならそうだ。こんなことが国に発覚した日にはいくら男爵とは言え、重罰に処させるだろうよ。だがここは辺境の地だからな。閉鎖的だし情報が中央に伝わるのに時間が掛かる。しかも今はあの野郎が旅人まで捕まえる事で情報を拡散するのを防いでやがるんだ」
だからと言ってバレたら終わりなのは変わりがない。永遠にこの事を秘密にしておくのはどう考えても不可能だろうし、いつかは発覚する日が来る。
まさかそれを考えていないことはないだろう。だとしたらバレても構わないと考えているのだろうか。
「誰かナバリ男爵の目的を知っている人はいませんか? 単に金を稼ぐ為だけにこれだけのことをするとは思えません。何か別の、本当の目的があるはずです」
「それは俺達も探っているんだがさっぱりわからねえんだよ。元々貴族様の考えていることは分からない上に情報収集を得意としている奴なんてこの街にはいないからな。知り得る情報には限度があるんだ」
「そうですか……」
となればあいつの出番だ。その為に利用しているのだから、こんな時にこそ役立ってもらわなければ。
僕はいつものように誤魔化しながらある物をボックスから取り出す。それは盗賊から取り上げた物で、交信石と言われるアイテムだ。
効果はその名の通りでこれと対となる物を持っている人物と交信ができるというもの。と言っても繋がる力はそこまで強くなく街や村、もしくはそれに近い安定している場所でしか交信はできないのでいつでも連絡を取れるという訳ではない。
(頼むからそっちもどこかの村にいてくれよ)
そう願いながらそれを使うと、
「どうしました、若旦那?」
(よし!)
心の中でガッツポーズを取る。当然ながら出たのはポールだ。
「ナバリ男爵の事で情報が欲しい。彼は常軌を逸した方法で金を集めている。国に発覚すれば終わりなのも気にしていないようなんだけど、何かわかることはないか?」
すぐさまこちらの詳しい事情を手早く説明する。
「……すみません」
だが返ってきた答えはそれだった。ポールも貴族については詳しくないらしく、見当も付かないらしい。
「で、でも金儲けをしている理由については情報が入ってきてますよ。何でもナバリ男爵は最近中央への進出を狙っているとかで、その為の資金が必要になっているらしいです。もっとも資金とは言い様で、有体に言えば裏金とか賄賂のことでしょうね。それで辺境の田舎貴族から成り上がるつもりらしいです」
とは言え、この地がなくなる訳ではないので、例えナバリ男爵が中央に行ってもその代わりに別の貴族の誰かが派遣されるとのこと。そしてそいつにこの不当な事が知られれば罪に問われるのは必至。
「その代わりになる奴に賄賂を贈って黙ってもらう可能性は?」
「なくはないでしょう。けどまだ誰が派遣されるかわからないはずですし、新しく派遣された貴族には中央がしっかりとやれているかを確認する事が多いですから隠し通せるかは微妙なところですよ。それだけの規模でやらかしてるならどんなに隠蔽していても、いずれどこからかは漏れてしまうものですからね。それこそ証人となるその街の人が全員黙秘でも貫かない限り不可能でしょう」
「そしてそんなことをされた街の人が黙っている訳がないか、か」
周辺の村々の人は詳しい事情を把握していないが、マックスさんやロイゼさんのようにこの街の人はナバリ男爵のやってきたことをその目で見てきている。
この人達がいる限り、ナバリ男爵は厄介な爆弾を抱えているのと同じだった。
また何かわかったら連絡を入れるように告げて交信はそこで終わる。
そして残念ながらナバリ男爵の目的はわからなかったので、次のマックスさん達の話に移ることにした。
「俺達の一番の望みは当然ながら無理矢理働かせられている人々の解放だ」
「それは僕の目的とも合致しますね」
「ああ。とは言え、一介の平民に過ぎない俺達にそんなことは出来る可能性は低い。いや、ないと言っていいだろう。だから次善の策としてはせめて子供だけでもここから避難させられたらってところだな」
日に日に食糧にも困るようになって来ており、今はどうにかなっているがこのままではいずれ餓死者が出てもおかしくない状況なのだとか。
そして万が一、どうしようもなくなって命懸けで抵抗する時が来た時にも巻き込まない為にそう言った人達を逃がす。それがマックスさん達の現実的な望みだそうだ。
しかし街の唯一の入り口である門には門番がいる。そこを強引に突破できても追手が放たれるだろうし、そもそも安全な場所まで行けるかもわからない。
街の外には魔物だっているのだ。戦う力を持たない人を逃がす為には護衛だって必要になってくるし、人数に応じて食糧なども要る。
「今の俺達の状況じゃ、安全にこの領地から逃がせることができる人数はごく僅かだろう。そして彼らに食糧を与えた時点で街に残った奴らは近い内に何も食うものがなくなる」
逃げる人も逃がす人もそれを覚悟してやらなければならないということだ。前者は死ぬ覚悟を、後者は逃がしてくれた人達を死なせる覚悟を。
「なるほど……状況は思った以上に悪いですね」
「そうだな。最悪と言っていいだろうよ」
そこで僕は思考に耽る。
考えるべきは物事の優先順位と何をして何をしないかという行動の取捨選択だ。
マックスさん達と僕の目的はほとんど同じとは言え完全に一致している訳ではない。その事も考慮した上で出した結論は、
「とりあえずは食糧を確保しましょう。それさえあれば餓死する人も出ないから時間も稼げるし、いざという時にも行動の選択肢が広がるでしょうから」
今が最悪の状況なら少しでもそれを改善するというものだった。
一気に全ての事を解決できるならそれが最善なのだが、そんなことが出来るなら苦労はしないし、そもそもこんな状況になってはいないだろう。
「それはつまり奴らの食糧庫を襲撃するってことか?」
「いえ、そんなことしないでも大丈夫ですよ」
と言うか、その目標の半分くらいは既に達成していると言っていい。そして残る半分も今の僕なら簡単にクリアできるだろう。
「一先ず僕に任せて貰えませんか? うまく行けば今日中にその問題を解決して見せますから」
そしてその為に必要な物を僕は述べていった。
男爵の目的についてはこの時点でわかる人もいるかもしれませんね。
宜しければ推理してみて、そして楽しんでいただければ幸いです。