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第一話 懲りない男

 そいつは僕の姿を見るなり襲い掛かって来た。


「ぬらぁ!」


 前と同じ掛け声からわかる通りコルラドだ。どうやら渡した回復薬を呑んだのか、すっかり回復したらしい。手に持っていた棍棒でいきなり殴りかかってきた。


(懲りないなぁ)


 僕はその攻撃を片方の掌で余裕を持って受け止める。そうしてすぐにもう片方の手で攻撃しようとしたのだが、


「動かないで」


 その前にミーティアのナイフの切っ先がコルラドの喉元に突き付けられていた。流石にその状況で抵抗する気はないのか、コルラドは武器から手を離して降参のポーズを取る。


「言っとくけど、女相手だと思って甘く見ない方がいいわよ。私は彼と違ってやるから、腰に隠したそのナイフで隙を突くならそのつもりでやりなさい」


 その言葉に込められた意志は紛れもない本物であり、敵を睨む視線もそれを如実に証明していた。コルラドの額にもそれを感じ取った証なのか、じっとりとした汗が浮かんでいる。


 僕はステータスで相手の装備を確認できるからまだしも、完全に隠されていたそれを一瞬で見抜くその洞察力。


 どうやら現状のレベルではコルラドの方が上でも、上手なのはミーティアの方らしい。


 襲い掛かって来たのはコルラド一人だけで他の奴らは特に仕掛けてきてはいない。それどころか突然の出来事に驚いて目を丸くしている奴らもちらほらいるくらいだった。


 どうやらこれはコルラドの独断専行だったらしい。少なくとも連携して襲って来ないところからして計画的犯行ではない。


「何故だ、何故俺がこんなガキや女に一度ならずに二度も……」


 今度こそ諦めたのかコルラドはそんな言葉を呟きながら地面に尻餅をつくように座り込んでしまった。


「所詮お山の大将だっただけの話でしょ。力は有っても技術は皆無で動きも雑。いるのよね、あなたみたいに力だけ手に入れてそれで自分が強いと勘違いするみっともない人が」


 いつも以上にきつく容赦ないその言葉は相手が盗賊だからだろうか。


 まあ、きっと色々と思うところがあるのだろう。ただでさえ村を襲おうとしていた奴らなのだし、怒りを露にして当然とも言えた。


 もはや二度の敗北で自信を失ったのか、何も言い返さずにコルラドは項垂れているだけだった。その姿には哀愁さえ漂っているように見える。


 とは言え、このまま何もせずに終わらせるのは不味い。今度は時間が経っても反抗する気など起きないようにしておかないと。


「他の人も戦いたいのなら相手になりますけど、どうしますか?」


 ニッコリ笑いながらそう尋ねると、全員が首を大きく横に振った。

 最もレベルの高いコルラドがまたしても簡単にあしらわれている姿を見せたことで今度こそ完全に抵抗する気もなくなったらしい。


「でしたら無駄なことはしないで、そして周りにもさせないようにお願いします。それと次はないですからそのつもりでいてください」


 今度は縦に首を大きく振る。こちらが指示するまでもなくコルラドを縄で拘束しているようだし他の皆は素直なようで何よりだ。


 その後、兵士が来るまでまだ時間が掛かることを告げ、必要な食糧を預ける。


 ついでに何かわからないかと男爵の事も聞いてみたが、異常なほどに徴兵していることとあまりいい噂は聞かないとのことくらいしかわからないらしい。


 盗賊達も貴族に手を出すなんてことは考えていなかったから最低限の情報しか仕入れていないのだとか。


 ミーティアにも確認したが、その噂とやらは税金を横領しているとか徴兵させたのは単なる労働力の確保の為だとか、挙句の果てには魔王や魔族に操られているなんてろくでもないものばかりだった。


 まあ、そう言われても仕方のないことばかりしている人物らしいので自業自得なのだろうが。それでも貴族としてやって行けているのが不思議なほどである。


 貴族とはそんな奴をも使わなければならない程に人材不足なのだろうか。


(とにかく行ってみるしかないな)


 だがその前にやるべきことがもう一つある。


 僕はステータスを確認して適当に数名の人物を指定する。そいつらは『状態異常・病』を抱えている奴らだ。そしてそんな状態だから当然ながら顔色は悪い。


 詳しく調べてみたら中には病といっても性病という恐らく自業自得だと思われる奴もいたがこの際気にしないことにした。何故なら僕は彼らで実験をするつもりだからだ。


「少しの間、目を瞑って動かないでください。あなた方の病気を治せるか試してみます」


 そう言われて断る人はおらず――いても許すつもりはなかったが――僕は魔法を発動した。


 まずは相手に触れず対象を『状態異常・病』に選択。消費するMPの数値と本当に実行するかを尋ねてくるそれにYESの答えを返す。


(これでよし)


 MPゲージが少し減って一人の男の状態異常の表示が消えた。それだけでは特に外見に変化はないが、これで病は消え去ったはずである。


 次の男には触れで発動する。やはり消費するMPは触れた時の半分だった。


 三人目の男相手には状態異常を消すと同時にHPとMPも減らすことは出来るか試してみた結果、中々のMPを必要としたがやるにはやれた。もっとも効率的に考えるとHPに関しては普通に攻撃した方が圧倒的にマシであるが。


 そして最後の男では、こっそりとその背中に刻まれていた盗賊の証も選択する。そして当然ながら成功だった。


 これでしばらく様子を見て何もなければミーティアに奴隷紋などを消すことを提案するとしよう。前に出来ない感じの発言をしてしまったのでうまい言い訳も考えなければ。


(本当に僕が認識しているものなら何でも消せるみたいだな)


 消費するMPの量に差はあるものの、今のところ消せなかったものは存在しない。病やHP、つまりは体力という明確な形のないものであろうとそれは例外ではなかった。


 それに加えて対象の選択数にも制限はない。MPさえ足りるなら幾つでもいけるようだ。


 改めて思うがとんでもなく有用で、それと同時に恐ろしい能力である。この分なら人体消失だってMPがあれば可能なのだから。そして今の僕には万を超えるMPがある。


 これが神に選ばれた勇者の真の力なのか。だとすればそれに対抗する魔王とは一体何者なのだろう。向こうにはこちらと違って神の加護もないはずだろうに。


「……これで病は治ったはずです。一応言っておきますが、この事は他言無用でお願いします。それを破った時にはそれ相応の罰を与えさせてもらいますのでそのつもりで」


 もっとも風の神の言う事に嘘がないのなら僕には関係ないはずなのだ。まあ、自分でもその根拠は非常に頼りないとはわかっているのだが、だからと言ってどうしようもない。


 その時が来ない事を祈りつつ、万が一の時の為に対策は練っておくとしよう。


 それで盗賊団の元でやる事は追えたので僕らは今度こそナバリ男爵の待つであろう街へと出発した。

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