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エピローグ

「……私は何故こんなところにいるんだ?」


 さっさと消えろと言わんばかりに手早く東吾に追いやられた後の帰り道。その馬車の中で彼女がそんな事を口にしていた。


 現在、非常に大きい馬車の中に入るのは五名。男性は僕と大樹と守人で女性が紅葉と、


「どうしてこんなことになってしまったんだ……?」


 ブツブツと疑問なのか恨み言なのか判別がつかない事を呟き続けているエルフで雷の勇者の仲間でもあるエルーシャだ。ちなみに御者は魔力で動くゴーレムだと言うのだから便利なものである。


「いつまで文句を言ってるのよ。ここまで来たんだからスパッと諦めなさい」

「諦めた方が賢明なのは全面的に賛成だが、彼女を連れてくることを選んだ紅葉が言えることではないと思うぞ」


 紅葉の言葉に大樹が突っ込みを入れる。


「ほんとお前とその姉は色々ととんでもないな」

「ちょっと僕まで一緒にしないで貰えるかな? 少なくとも僕はあそこまでじゃないんで」

「いやいや、紅葉の被害者第一号の俺から見てもどっちもどっちって感じだぞ」

「非常に心外なんだけど」


 僕と守人も互いに主張を続ける。争点は僕がまともかまともではないかだ。


 ちなみに紅葉は最初からまともではないと共通の認識が成されていたのでそこは問題なしだ。


「私以外のメンバーが勇者って時点であり得ない。そもそも無の神とか勇者何て聞いたこともない。ここは一体どんな魔境なんだ」

「確かにこの錚々(そうそう)たるメンバーを見ると魔王でさえ逃げ出しそうだな」

「と言うか実際に魔王を倒してる人物も一人いるしね」

「そこでコソコソ話してる守人と木葉は私に何か言いたい事でもあるのかしら? なんなら受けて立ってあげるけど」

「「いいえ何もありません!」」


 そんな僕達の会話を聞いて大樹が呆れたように肩を竦めている。

 そして好き勝手やって誰もエルーシャにフォローしないのを見かねたのか大樹がその役に回る。


「エルーシャ、そう気に病むな。こう言ってはなんだが、今更文句を言ったところでどうしようもないんだからな」

「それはそうかもしれないが……」

「まあ俺からのアドバイスがあるとすれば、基本的に勇者については変人だと思って出来る限り諦めるってことだな。少なくとも今まで出会った勇者は俺を除けば奇人変人だらけだしな。多分そう言う奴じゃないと勇者に選ばれないんだろう」

「ちょっと待った。なんで大樹だけまともみたいになってるのさ」

「俺は紅葉に連行されただけで本来は勇者ではないからな」

「それだと僕も紅葉の代理だったから、どっちかって言えば大樹側じゃないか」

「「「いやそれはないから」」」


 エルーシャを除く三人に即刻否定される。それも完璧にハモって。何故なのか。


「って、俺まで変人扱いするなよな。少なくともこんなバカげた姉弟よりはマシなつもりだぜ」

「どうして三人とも私は変人扱いがデフォなのかしら。どうやら後で徹底的に鍛えて貰いたいみたいね」


 結局この会話は地雷を踏み抜く人物がもう一人増やしただけだったらしい。それでも巻き添えになることを避ける為に大樹は必死な様子で弁明を図る。


「い、いや紅葉。あくまで俺は立場的に彼女に近いから気持ちが判ると言っただけで」

「口説き文句に聞こえるから却下」

「ぐっ、しまった……!」


 だがあえなく理不尽な理由で撃沈していた。


 僕の事を王都に帰ったら紅葉は鍛え直すと張り切っていたので残念ながら自分が地獄を見るのは確定済み。これで狙っていた道連れを二人も増やせたので大満足だった。


(いや、実際は全然満足じゃないけどね……)


 叶う事なら地獄を見ないで済みたいのだが、それが出来るなら初めから苦労しないのである。


「き、貴様らは勇者としての自覚はないのか!」


 そこでそれまで色々と溜め込んでいたと思われるエルーシャが爆発した。


「トウゴ様を見習え! あの方は私心を捨て、勇者としての自覚を持ち、為すべきことを為すために行動しておられるのだぞ! 現に勇者の中で最も精力的に魔王討伐の為に活動しておられるし、その為の組織だって着実に作り上げて人材の育成にだって力を入れている! それなのに貴様らときたら!」

「ああ確かに話してみて思ったけど真面目そうだったもんな、あいつ。ただその所為で損しそうなタイプでもありそうなんだよなあ」

「確かにそうかもしれないな。その真面目さが仇となって無の神の勝手に耐えきれずに喧嘩を売ったわけだし。恐らくは勝ち目が薄い事も分かった上で」

「だとしても返り討ちに合ってちゃ世話ないわよね。しかも私にまで負けた訳だし」

「知らなかったとは言え迷惑を掛けてた以上、僕は申し訳ないとしか言えないな」


 そんな風に三人が好き勝手に批評しているとエルーシャの肩がプルプルと怒りの為に震えている。そして僕たち全員を睨み付けてきた。


「貴様ら全員、絶対私が倒してやる! そしてトウゴ様に謝らせてやるからな!」

「え、僕は怒られるようなこと言ってないよ。むしろ謝ってるのに」

「うるさい! 元凶であるお前も同罪だ!」

「だ、そうだ。残念だったな、木葉」

「元凶じゃあ仕方ないわな」

「そうね、木葉がもっと自分の意志をしっかり持ってればこうはならなかったかもしれないし」

「て、敵しかいないのか。ここには……」


 そんな風にいつの間にかエルーシャも混じってなんだかんだ会話を楽しんでしばらく経った時だった。マップで気になる光点を確認できたのは。


「この先で待ち伏せされてるみたいだ」

「と言っても力の感じから見て雑魚ばっかりみたいだがな」


 守人も索敵能力があるのか同じことを告げる。確かにレベルも高くて三十前半とたいしたことはないし、職業や称号から察するに盗賊の類だろう。


 何と言うか運の無い奴らである。まさか勇者とその仲間しか居ない馬車を襲うことになるなんて自殺行為以外の何物でもない。


「それでどうするつもりだ?」

「邪魔するなら排除するだけでしょ。エルーシャがやりたいのなら譲るけど?」

「いや、私も別にやりたい訳では……」

「まあこのメンバーじゃ誰がやっても結果は同じだものね。よし、じゃあここは公平にジャンケンで行きましょう」


 負けた一人が襲ってきた盗賊達の相手をする。ちなみにその対処方法もその人物に一任することとなった。


「俺の個人的な意見としては正義の味方と自称していた守人にここは頑張って貰いたいところだがな」

「おい大樹! てめえ、それは言わないって約束だろうが!」

「あれはダサかったわよね。自分で自分の事を正義の味方って呼んでその上、登場する時は「正義の味方、参上!」だったもの。笑い過ぎてお腹痛くなったくらいだし」

「悪かった! さっきイジッた事は謝るから勘弁してくれ!」

「調子に乗ってたってそういうのだったんだ。何だか考えてたのと違ったな」

「いいからさっさとやるぞ!」


 ふざけてばかりでいつまで経っても始まらない事に業を煮やしたエルーシャの叱責でようやく僕達はジャンケンを開始する。最初はグーから始まり、


「「「「「ジャンケンポン!」」」」」


 で選ばれたのは誰かを言っても意味のない事だろう。何故なら誰であろうとその盗賊達が辿った運命に大きな変化などなかったからである。


 そうして僕達は些細な障害など物ともせずに和気藹々としながら王都へと続く道を進んで行ったのだった。

これにて話の一区切りというか第一部は終了となります。


第一部で木葉が決意を固めたように、これから先の第二部では魔王や魔族との戦いを中心にやっていこうと考えています。

ですがそれを載せるのはしばらく間をあけるかもしれません。


これからの予定としてはスライムの方か、または別の新作を書くと思うので。


そんな訳ですが、今後とも応援していただけたら嬉しいです。

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