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僕は姉の代理で勇者――異世界は半ばゲームと化して――  作者: 黒頭白尾@書籍化作業中
第一章 異世界への旅立ち チュートリアル編
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第十三話 魔術に挑戦

 魔術とは魔力を消費して使える秘術のことである。それらは八つの属性に分類され、適正に応じて使える者が限られるのだとか。


 例えばミーティアが使えるのは水魔術でその中でも所謂回復系の魔術が得意らしい。


 実際に魔物との戦闘で負った掠り傷を瞬く間に治してしまったところを見た時は驚き、そして感動したものだ。


 こうして魔術の効果を目の当たりにすると、その凄さを実感させられる。


 体力ゲージも回復するが、何より傷がまるで時の流れを加速させたかのように急速に塞がっていくのだ。僕の常識からは考えられない出来事である。


 もっとも神が現れて勇者になれと言われた時点で僕の常識なんて木端微塵に吹き飛ばされたに等しいのだけれど。


「水の魔術は回復系のものが多いし、逆に火の魔術は攻撃系の魔術が多いわ。扱う人によって差異はあるけど、属性によってそれぞれ得意な分野があるの」


 ただし、もちろん火の魔術にも回復系はあるし、水の魔術にも攻撃系があるので一概には言えないのだとか。あくまで参考程度の話で、結局は本人に資質によって左右されるらしい。


 属性は違えど魔術の使い方をお手本として見せてもらったので、スキル欄にある風属性魔術とやらを使えないか色々と試したが結果は芳しくない。というか全く発動しないし、その兆候さえ感じられなかった。


 それでも諦めずに何度も挑戦したのだが、隙を作るだけでしかなかった。その所為で魔物共の攻撃を何度も受けることになったが、どんな攻撃でも蚊に刺された程度のダメージなので問題はない。


 もっとも僕のレベルを知らないミーティアにはとんでもない命知らずな行為に見えたらしく、回復してもらいながらかなりきつく注意されてしまったが。


 そこで気付いたのだが、どうやらこの世界の住人はレベルやらスキルやらを認識していないらしい。いや、もしかしたらそんなものは本来なら存在しないのかもしれない。


 僕はこのチート能力で半ば無理矢理に世界をゲームのようにして表示しているから見えるだけの話であり、あくまでこれは特殊な一例ということだろう。


 もしかしたら他の勇者ならあるいは、という可能性はなくはないがそれを確認する術が今はないのでどうしようもない。


「って、また失敗か」


 これで十回以上挑戦を続けているのだがまったく成果はなし。


 落胆して無防備なこちらに襲い掛かって来ようとしたゴブリンだったが、その前にミーティアに振るったナイフによって首を裂かれてあっけなく絶命してしまった。


 ゴブリンのレベルは平均して10ちょっとなのでミーティアでも苦戦することはないのである。


「いい加減諦めたら?」


 きっとミーティアから見たら無駄な努力をしているように見えるのだろう。その表情には若干の呆れさえ見える。


 だがスキル欄に表示されているし全く使えないということはないはずなのだ。


「やっぱり魔術書で魔術を覚えなきゃダメなのか?」


 ミーティアが使ったのはヒールという水魔術で子供の頃に魔術書を読んで覚えたらしいし、僕もそうやる必要があるのかもしれない。


 チートならあるいはそれがなくてもいけるんじゃないかと期待したのだが、流石に無理が過ぎたらしい。


「仕方ない。今は諦めるか」


 そろそろミーティアにばかり戦闘を任せているのが申し訳なくなってきたし魔術に関しては一旦諦めることにした。


 今まではある目的の為、僕は一撃で敵を殺さないようにレベルを30まで下げて色々と行動している。が、基本的には戦闘に参加していない。


 たまに落ちていた石を拾って敵にぶつけたりはしているが、それだけで戦闘の大部分から止めはミーティアに任せっきりである。


 もちろんズルをしていた訳ではなく、これはクエストがどれぐらいのものなら討伐にカウントしてくれるのかを見る為だ。


 結果から言うと、戦闘に参加してダメージを与えさえすれば僕が直接止めを刺さなくてもいいらしい。現に数体は討伐したとカウントされている。


 それに何となくだが、与えたり与えられたりするダメージについても把握出来てきた。


 おおよそ20のレベルの差があればほとんどダメージは通らず、逆にこちらの投石でも大きなダメージを与えられる。要するに戦闘ではなく虐殺が可能になる訳だ。


「よし、ここからは僕がやるから少し下がってていいよ」

「あら? ようやくその気になったの?」

「まあ、そんなところかな」


 実際には違うのだが、わざわざ訂正する必要もないので僕はそう誤魔化しておいた。


 今度は徐々にレベルを引き上げていき、ダメージ量の計算に入る。


 大体30から40の差になれば本気でそれなりの大きさの石をぶつけただけで相手は瀕死になり、50も離れれば、


「即死、かな?」


 左胸、心臓付近に突き刺さった石によって生命活動を止められたゴブリンを見る限り一撃必殺という訳だ。


 それでも体が吹き飛んだりしておらず、この上には最初のダイアウルフのように肉片と化すものがあるのだが、あれは見ただけで気分が悪くなりそうなので止めておいた。


 素材の回収のことを考えればわざわざ肉片になるレベル差なんて調べる必要なんてないし、そもそもそれを狙うなら全力で戦うからだ。


「さてと、それじゃあ本格的な魔物退治と行こうか」


 そこから先はマップでゴブリンを探し出しつつ、手早く目標数のゴブリンを討伐し終えた。


 そうしてあっさりとクエストもクリアした僕はそう言って背後にいるミーティアへと振り返る。すると何故かそこには顔をひきつらせて彼女が固まっていた。


 そう、まるであり得ないものでも見たかのように。


「どうかした?」

「……いや、勇者の仲間を自称するだけあってバカみたいに強いのね。あんな倒し方、見たことも聞いたことないわ」


 確かに端から見ればそこら辺の適当な石を投げるだけで人の恐怖の対象と言われているらしい魔物が絶命するのだ。こちらの人からすればこれほど馬鹿げた光景はそうそうないのかもしれない。


「それに加えて死体も消滅したかのように無くなっていくし、勇者が神から選ばれた存在だっていうのは本当のことなのかもしれないわね。そんな相手に粋がってた自分の愚かさが恥ずかしいわ」

「まあ、そうは言っても僕の力はあくまで借り物だから偉そうな事は何も言えないんだけどね。神については勇者本人に聞いてみて欲しいな。僕はあくまで従者で力を貸し与えられてるにすぎない訳だし」


 そう言いながら僕はアイテム内に入れておいた入れ物に入った水を取り出してミーティアに渡す。


 その他にも必要な武器や着替えなどもこの中にしまっているのでまだまだ行けるだろう。ミーティアが作った食事もこの中では腐らないどころか冷めもしないのだし、色々とこれは便利過ぎだった。流石はチートである。


 倒した魔物の死体はほとんどこちらにくれるとのことなので頑張れば頑張る程に成果も出る。それにアーカイブの魔物図鑑も埋まるのでこちらに損はないのだ。


(何より、これでグッチさん達にお礼を返せるようになるだろうし)


 ついでに薬草などの使えそうな草花もどんどん回収しておく。最悪、回復薬を何個とか作って渡すだけでもお礼にはなるだろうし。


 汚い小人のようなゴブリンに硬い皮で体を覆っていたラバーラット、角の生えた兎のようなホーンラビットなどを次々に投石で仕留めていく。気分はもはやちょっとしたハンティングである。


 だが、その順調なハンティングにも遂に強敵が現れた。


「あれ? 効いてない?」


 ゼリーのような体を持つ魔物スライムは確かに石が直撃したのにまったく効いた様子がない。ステータスで確認したところHPが減っていないのでどうやら本当に全く聞いてないようだ。


 恐らくスキルに物理無効があるからだろう。これは困った。


 今の僕は魔術など使えず物理以外に攻撃手段は存在しない。つまりどうしてあってこいつは倒せないという事になる。


 そう思って背後のミーティアに視線で助けを求めると、


「スライムは物理にだけは強いけど、それ以外には弱いの。だから物理以外で攻めればいいのよ」


 何故そんなことも知らないのかという呆れた表情でこちらを見てくる。


「具体的には?」

「燃やせば焼死するし、水で濡らせば寒さで凍死するわ」

「なるほど。じゃあ水攻めにしよう」


 液状の体を伸ばして攻撃しようとして来るスライムから距離を取りつつボックスから取り出した水を浴びせる。ロックオン機能を使えば狙いを誤ることはないので非常に便利だった。


「そう言えば他の魔物もそうだったけど、何で頑なに接近しようとしないの?」

「いや、汚れたくないからさ」


 動きの素早いミーティアでさえ返り血を浴びることもあるようで服に血が付いている。もちろんすぐに洗っているけれど、わざわざ汚したいとは誰も思わないだろう。


 これはグッチさんから借りている物なのだからなおさらだ。


「だから返り血も反撃も届かない場所で敵を一方的に倒す。その方が安全で、何より怖くないし」

「……あなたって何だか勇者の仲間っぽくないわね」

「自分でもそう思うよ、心からね」


 可能ならそれに適した人物である姉とさっさと交代してしまいたいのだが、そううまくは行かないのが人生である。実に虚しい限りだ。


 そうして徐々に動きが鈍くなったスライムが完全に動きを止めたところでボックス内にその死体をしまう。死んでないと収納出来ない筈なのでどうやら仕留めたようだ。


 初めて投石がきかないという手応えのある相手のはずなのに何とも地味な事の顛末である。まあ、本当のゲームなどならともかく現実なんてこんなものだ。


 その後も順調に魔物退治を行い、特にボスが出て来るようなこともなく僕たちは日が暮れるまで討伐を続けるのだった。


「さてと、そろそろ戻りましょうか。十分すぎるほどに魔物は狩ったはずだし」

「そうだね。ボックス内が一気に豪華になったよ」


 まさに大漁である。

 それにしても、


「結局、魔術は使える気配すらなかったな」


 休憩中もミーティアにコツなどを聞いてみたのだが全く変化はなかった。


(魔法の方も同じく何も起こらずだし、何か使えるようになる条件でもあるのかな?)


 こっそりと魔法の方も使えないか試してみたのだが、何も起こらなかった。正直、非常に残念である。魔法や魔術とかを使えるのなら使ってみたいと思うのが地球人からしたら当然の反応というものだろうし。


 魔術の上位互換的なものである魔法は使える存在は世界でごく僅かしかいないとされているのだとか。


 それこそ大魔導師やら大賢者、それか勇者などの特別な存在の中でほんの一握りしか使えず、その威力や効果は魔術とは比べ物にもならないらしい。


 もっとも具体的どう違うのかはミーティアも知らないらしいけど。あくまでそういう風に言われているだけ。


 噂では死んだ人を蘇らせることもできる魔法もあると言われているが、流石にそれは眉唾物だろうとミーティアは言っていた。


 一般人からしたら魔術を凄くしたもの、みたいに考えられているとのこと。


(そんなのが使えるなんてわかったら厄介なことになりそうだし、秘密にしよう)


 更に僕の場合は無という何故か存在が知られていない属性の魔法なのだ。ただでさえ勇者――対外的にはその従者――として注目を集めかねないのだ。これ以上、そう言った要素をひけらかす必要も意味も見いだせないし隠すに限る。


 そんなことを考えながら僕とミーティアは村へと続く帰路へと付くのだが、そうして村に戻った僕たちに待ち受けていたのは予想外のものだった。

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