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僕は姉の代理で勇者――異世界は半ばゲームと化して――  作者: 黒頭白尾@書籍化作業中
第一章 異世界への旅立ち チュートリアル編
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第十二話 ミーティアの事情

 その後、アイテムボックスの能力を何度か見せることでこちらの言い分を一先ず信用してくれたミーティアは自らの事情を語り出した。


 要約すると十歳の頃に村を魔物が襲ってきて、そこから逃げている時に運悪く家族とは逸れ、更にそこで盗賊に捕まり奴隷にされた。


 本来なら売られるだけのはずだったが、魔術の才能があった事から使えると判断されて鍛えられたとのこと。この時にあのナイフ捌きを習得したようだ。


 そうして十二歳の頃、皮肉な事に今度は盗賊団が盗みを働いているところに魔物が襲ってきて、その隙を突いて逃げ出したとのこと。それからはこの村で見つからないようにひっそりと暮らしているらしい。


「でも私は完全に自由になれた訳じゃない。この奴隷紋ともう一つの印がある限り、私は隠れてひっそりと生きていくしかないわ」


 そう言って袖を捲くったその腕には奴隷紋と言われる魔術による紋様が刻まれていた。


 更に背中には盗賊団の一員の狼を模った紋様もあるらしいが、服を脱がせて確認するわけにも行かないのでそちらは遠慮しておいた。


 どちらも地球の刺青とは違って直接肌に刻み込むわけではなく、魔術によって体に植え付けるような感じらしい。


 だから後を残さず消すことも出来るらしいのだが、その為にはそれ系の、しかもかなり高位の魔術を行使する必要があるのだとか。


「でも、そんな高位の魔術を使える人なんて滅多にいないし、そもそもそれを頼む為のお金もない。だから私みたいに一度奴隷になった人は例え運よく逃げられても一生、この奴隷紋からは逃げられない。それに下手に動いてこれを役人に見つけられたら逃亡奴隷として捕まる可能性だってなくはないの」


 奴隷の扱いが良い訳がない。


 中には性的な目的の為に使われることもあり、そうなるぐらいなら死んだ方がマシでさえあるとミーティアは言ってのけた。それほどまでに奴隷とは過酷な境遇なのだろう。


 もちろんそんな扱いは本来なら違法なのだが、魔王が現れて魔物が凶暴化したことなどもあってそちらの対処に重点が置かれることとなり、隠れて違法行為を働く輩が増えているらしい。


 各国や各領地の騎士団も動いているが圧倒的にその数は足りていないとのこと。


(魔王退治以外にやって欲しい事があるってそういうことか)


 だからこそ僕がこうして呼び出されたのだろう。そういった奴らの横暴を止める為にも。


「奴隷紋がある限り、奴隷は主人の命令には逆らえず絶対服従。だから私も盗賊団に見つかればその時点で終わりなの。逃げるなと命じられたらそれまでだもの」


 命令は絶対だがそれが届く距離には限界があり、ミーティアは騒ぎのおかげで運よく自らの意思ではなく主人から距離を取ることが出来たらしい。そうじゃなければ逃げられなかっただろうと言っていた。


 ちなみに僕の服を脱がそうとしたのはそう言った印が何かないか見る為だったらしい。


 川で遭遇した時は焦ってよく見られなかったし、何かを塗って隠している場合もあるから、その目でしっかりと確認したかったとのこと。それによっては正体もわかるかもしれないから、だそうだ。


 中には自らの国の国旗や家紋をわざわざ体に刻んでいる者もいるというのだから驚かされる。


 高位の貴族は自らの権威を示すために、騎士などは国への忠誠を誓うためや死んだ時の目印の為など用途は様々だが、日本人の僕には正直理解できない習慣だ。どうしても刺青を連想してしまうからかもしれない。


 もっとも、だからと言ってその文化にいちゃもんをつける気もないが。僕に直接関わって来ない限りはやりたいようにやればいいと思う。


 残念ながら今の僕にはこの奴隷紋やその他の紋様を消す力などないし神からのクエストもまた、ない。つまりどうしようもないのだ。


 これでも代理とは言え勇者となったが、元々は何処にでもいる高校生に過ぎない僕に多くを期待されても困る。出来ない事は出来ない、無理なのだから。


「いつかそれを消せるといいね」

「そうね……そんな奇蹟の日が来ることを願ってるわ」


 暗に僕にはどうしようもないという意味を込めたこの発言をミーティアはしっかりと理解してくれたようだ。


 案の定、勇者の従者だからもしかしたら,という思いがあったらしく、その言葉を聞いた瞬間はほんの少し悲しそうと言うか表情に影が落ちたが、すぐにその色は消え去る。


 奇跡と言っていたし、駄目で元々といった感じだったのだろう。


 あるいは僕のスキル欄にある魔術や魔法ならどうにかできるのかもしれないが、今のところそれらの使い方さえわからない。現状ではそれらは使い物にならないと言わざるを得ないのだった。


「って、そうだ。どうせだからついでに色々と教えて欲しい事があるんだけど」


 ミーティアの事情はわかったものの、だからと言ってやる事に変わりはない。とは言え、スパイ探しは例の商人が来るまで進まないのでそれは後回し。


 だとすれば、残る最後の通常クエストであるゴブリン討伐を済ませるのが妥当というものだろう。だから僕はミーティアにこの辺りでゴブリンが生息している地点を知らないかを尋ねた。


 結果からすると、現れるポイントを幾つか知っているからそれはよかったのだが、


「……で、何でついて来る気満々なのさ」


 何故か翌日になってミーティアは戦闘準備を万端にして僕を待っていた。一人で行くと昨日の内に言ってあったのに関わらずである。


「あなたがゴブリン退治するって言うから私も手伝おうと思って。言っとくけど、定期的にそうしておく必要があるの。魔王の所為で魔物は前よりも凶暴になっているし、あんまり数が増えると村に押し寄せてきかねないからね」


 本来なら村の男達が、それでも間に合わないなら騎士や冒険者などが派遣されてやるべきことなのだが、これまた魔王関連に手一杯で前より処置が行き届かなくなっているらしい。


 ましてやここは辺境の地だからなおさらなのだとか。


 更に戦力となる者がいないから、いざという時にも不安があるということ。確かに女子供や老人ばかりのこの状況で村が魔物に襲われればひとたまりもなさそうだ。


「だから私がやるの。この村やグッチさん達にはお世話になっているし、これはせめてものお礼よ」


 身一つで彷徨っていたミーティアをグッチさんは僕の時と同じように手厚く歓迎してくれたらしい。ミーティアはその恩にこうして誰にも知られず報いているという訳だ。


 それは良い話だし別に構わないのだが、明らかにそれに僕を利用しようとしているのは気のせいではないだろう。


(まあ、いいか。お互い様だし)


 こちらも色々と彼女を利用しているのは事実なのだ。向こうが同じようにしたからと言って攻める資格はない。


 それにしてもいくら魔王が現れたからと言って、辺境の村から維持に必要な最低限の男手すら残さないとは何とも酷い話である。グッチさんも言っていたが、本当に魔王が倒される前にこの村の方が先に滅んでしまうそうだ。


(その上、内通者までいるし)


 村を救えという神からのクエストは実に的確なものなのかもしれない。たぶん、このまま放置すればこの村はいずれ終わる可能性が高い。少なくとも平穏無事で済むとはどうしても思えなかった。


「わかったよ。でもその代わり、僕の言う事を聞いてもらうよ」


 秘密については他言無用や分からない事を教えて貰うことなどを約束して、僕達はゴブリン討伐改め魔物討伐に向かうのだった。

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