エピローグ
コーネリアス達の後を追う予定の為に基本的にはこっそりと僕は王都を出立する事となった。向こうに尾行を気付かれては厄介な事になりかねないからだ。
その前に王やミーティア達の限られたメンバーに見送られる時間はあったものの、それはどこかぎこちなくなったのは否めない。
オルトやバスティート王といった面々はともかくとして、ミーティアやユーティリアなどはまだどうにも納得できていないようだったのだ。それでも気を付けてや行ってらっしゃいなどの言葉を掛けてくれるだけマシだと思うべきだろうか。
「そりゃそうでしょ。あんな事を急に言われてすぐに納得しろって方が無理あるわよ」
「それは分かってますよ。でも先延ばしにしても辛くなるだけだからこれで良かったはずです」
師匠の言葉ではないが、いずれ別れは来たのだ。それを考えれば下手に長引かせないのは正解なのだろう。僕はそう思うことにした。
「まあ私にはどうでもいい事だけどね。さてと、見送りもここら辺にして私は戻ってあの子達を見守ることにするわ」
別に見送りなど頼んでいないのだが、その気遣いだけは有り難く受け取っておくとしよう。
もっとも無の神曰く、僕が何をしているかはどこに居ても見られるそうなので全く意味のない見送りのような気がしなくもなかったが。
「皆の事をよろしくお願いします」
「分かってるわ。それよりもあなたの方こそ気を付けた方が良いわよ。次の相手は魔王とは違った意味で手強いんだから」
敵は雷の一派であり、そのボスは当然の事ながら雷の勇者。
神の力を与えられた存在という訳だ。
「願わくば荒事に発展することなく終わってくれることを望むんですけどね」
「十中八九無理でしょうね」
我ながら無茶を言っているのは判る。敵の本拠地に乗り込んで人質を救うというこのクエストがどう考えてもそのまま平穏無事に終わるとは思えないし。
「それじゃあ最後に一つだけとっておきのアドバイスをあげるわ」
その言葉に横で歩く無の神の方を向くが、
「私を含めた神々の大半は曲者揃いよ。それだけは頭に置いておきなさい」
その言葉が聞こえる頃にはその姿は影も形も無く消えていた。
「そして音も無く。まさに無の神って感じかな」
そこで僕はマップを開くとしっかりと光点がある事を確認する。追跡する為に昨日握手をした時にこっそりと服に石の欠片を忍ばせておいたのである。
それに移動に使っている場所の方にも同じようなものを幾つか仕込んであるし、これで標的を見失う事はないだろう。
「さてと、僕も最後のクエストを頑張るとしますか」
そこで僕はコンの姿になって気合いを入れると標的の後を追う。
捕まっているという二人を助けに向かう為に。
そしてそれを終えて元の世界に戻る為に。
狐の仮面で顔を隠した僕はそう思いながら先へと進んで行った。