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第二十六話 唐突な別れの通達

 部屋に戻るとそこには何故かユーティリアやレイナさんも居る。少し意外だったが都合がよかったので僕は彼女達にもその話を聞いて貰う事にした。


 これから単身で雷の一派の居城に潜入する事と、それが終わったら僕は故郷に帰ることになるという事を。


 その話を最後まで聞いた皆は黙っている。特にユーティリアやメルといった女性陣は驚きの余りか固まってしまっていた。


 その中でも予想外だったのはミーティアまで若干とは言え取り乱した事だろうか。


「そんな急に……メ、メルやオルトのことはどうするの? その二人の仲間が救出できたとしても雷の一派に狙われ続ける事には変わりはないじゃない」

「それについても考えてあるから大丈夫だよ。実は僕が故郷に帰るのと交代する形で風の勇者である姉がこちらに来るんだ。だからその後の事は勇者である姉、紅葉に任せる事になると思う。その方が僕が守るよりも安全だしね」

「それはそうかもしれないけど、だからってこんなに早く帰ることないじゃない。それにお姉さんが来たってあなたが帰ることも」


 その辺りで硬直が解けたメルやユーティリアも激しく同意してくる。だけど僕はそれらの反論を許さない建前を用意してあった。


「元々僕がこっちで活動するのは姉が来るまでの間だけって予定だったんだ。それに実は姉がこちらに来る為には僕が向こうに帰る必要があるんだ。だから僕がこちらに残っている限り紅葉はこちらに来れないことになる」


 勇者をこちらに呼び寄せる為。僕が帰るのにもこれ以上ない理由だろう。だというのにミーティアは納得できないといった様子で次の言葉を探しているようだった。それはメルやユーティリアも同じだった。


 でもそんな中でオルトだけは無言でジッとこちらを見つめていた。まるで何かを見極めるかのように普段の騒がしい様子とは打って変わって。


 そのオルトがゆっくりと口を開く。


「……兄ちゃんは故郷に帰ったらこっちには二度と戻って来れないのか?」

「残念だけどそうなるね」

「それでも兄ちゃんは帰っちゃうのか?」

「紅葉を、風の勇者をここに来させる為にもそれは必要な事だからね」

「……後の事はその紅葉って姉ちゃんに任せるって事で良いんだよな?」

「メルとオルトの事を最後まで見守れないのは申し訳ないと思うよ。でも僕以上に姉なら適任だ。君達を守る事でも強くする事でもね。身贔屓に聞こえるかもしれないけど紅葉は良くも悪くも天才だから」

「そっか……」


 そこまで聞いたオルトは一旦顔を伏せて考え込むが、


「……分かったよ、兄ちゃん」


 そう納得したのかニッコリと笑って頷いてくれた。


「ちょっとオルト! 何を言ってるの!?」

「だって仕方がないじゃん。メルだって分かってるだろ? 兄ちゃんがそう決めたんだならどうしようもないって。それによく分かんないけど風の勇者様をこっちに呼ぶ為に必要な事なら文句を言う訳にもいかないじゃんか」


 思わずといった様子で発言したメルの言葉にオルトは予想外なほどに冷静で的確な返答をしてみせた。


 それを聞いたメルや周りが咄嗟に言葉に詰まり反論できないくらいの。


「俺は兄ちゃんに助けられたし、兄ちゃんのおかげでメルも守れた。なにより兄ちゃん達が居たおかげでここまで強くなれたんだ。その兄ちゃんがやるって決めた事なら正直淋しいけど応援するよ。だって父ちゃんや師匠も男にはどんなに辛くてもやらなきゃ行けない時があるって言ってたしさ」


 その純真な言葉に僕も何も言えなかった。まさかこんな風に送り出してくれるとは思ってもみなかったのだ。しかもそれをあのオルトがやるとは。


(力もそうだけど心も思った以上に成長してるってことなのかな)


 それを皆も感じているのか誰もその言葉に反論出来ずにいた。


「こいつは坊主の勝ちだな」


 そこにいつの間にかやって来ていた師匠が声を掛けてくる。と言っても僕だけは話を始める頃にこっそりと気配を消して部屋の中に入って来ていたのには気付いていたのだけれど。


「お前等の気持ちも判るが、今のままじゃこいつを止める事はできねえよ。それぐらいの事はお前達だって判ってんだろ?」

「その様子だと師匠は賛成してくれるんですか?」

「賛成はしねえが仕方がねえだろ。それにいつかはこうなるはずだったんだし、それが少し早まっただけの話だ。なにより伊達に長生きしてねえっての。残念な事に別れってのはこっちの都合なんて関係なくやって来るもんだからな」


 実に含蓄ある言葉だった。もっともだからと言ってそれですぐに納得できるかと聞かれれば答えは否であることが皆の表情からも伺える。


 それを察していたのかオルトは師匠の発言に続くように言葉を紡ぐ。


「でもさ、やっぱり今すぐにお別れってのは悲しいからその二人を助け出した後にもう一回だけ会いに来てよ。そこでちゃんとお別れをしたいんだ。それまでに俺も頑張って兄ちゃんが心配しないぐらいの力を付けておくからさ。それを兄ちゃんに見て欲しいんだ」

「……そうだね、その助け出した二人を送り届ける必要もあるし、そうしようか」


 名残惜しくなってはこちらとしても辛いが、このまますぐに居なくなるのはあまりに無責任かもしれない。そう思った僕はその提案を呑むことにした。


「それでその二人を助けにここをいつ出るつもりなんだ?」

「明日の朝です。コーネリアスを含めた彼らが帰国するそうなのでその後を追ってみようかと」

「あわよくばそのまま潜入するって事か。まあ確かにそれが妥当だわな」


 そこで僕の頭の中に声が響く。無の神からの伝令でその内容は王達が僕を呼んでいるからすぐに来るようにというものだった。


 なので僕はそこで席を立つと皆に事情を説明して部屋を後にしようとする。


 そこで、


「あ、あの!」


 ユーティリアが急に大きな声でこちらに呼び掛けながらその場で立ち上がる。


「わ、私は……」


 何かを言おうとする彼女だったが、その先が出て来ない。


「……私も無事に戻って来るのをお待ちしていますね、コノハ様」


 そしてようやく出てきたその言葉はこちらの予想とは違っていたものであり、それに僕は心のどこかでホッとしていた。


「ありがとうございます、ユーティリア姫」


 その言葉を最後に僕はその部屋を後にして、コンと共に王達と今後の事に着いて色々と話し合った。そこで後の事は風の勇者である姉に任せる事やメル達の事を頼んだりして。


 そうして次の日の朝が、別れの朝がやって来た。

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