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第二十四話 創世の神話から現在に至るまで その2

「こうして作られた世界だけど、神々は神という存在に成るに当たって幾つかのルールを決めたの」

「ルール?」

「代表的なもので言えば、私を除く神がこの世界のものに干渉するのは原則的に禁止。例外として人々の祈りを通じてのみ、その力を限定的に世界に一人だけ与えることで神の代行者を生み出すことが可能ってね。それが紋章を持つ者、あなた達が勇者と呼ぶ存在のことね」


 人々の祈りを通じて神の力を与えられた存在、それが勇者。何ともらしい話だが、それにはおかしな点があった。


「あなたを除くって点もどうしてなのか聞きたいですけど、その前に世界に一人ってのはどういう事ですか?」


 これまでの旅の中で勇者や勇者の仲間といった紋章を持つ者が複数名することが判明している。それと今の話は矛盾しているではないか。


「そうね、確かに今は紋章を持つ者は複数名存在するわ。でもそれは本来の形ではないの」


 そう言うと無の神は手を振る。すると赤、青、緑、茶色、紫、白、黄金色、黒色の八色の紋章が宙に描かれていた。無の神以外の神の紋章が。


「この世界を作るに当たって神々は各々が対となる属性を司りながら世界のバランスを保つと同時に自分達が極力手を出さないように取り決めをした。そうしないとせっかく苦労して作った世界のバランスを崩すことにもなりかねないし、なにより神々は人形遊びをしたい訳ではなかったから」

「神からしたら僕達人間は人形扱いですか」

「あくまでものの例えよ。でもそれぐらいに神にとって人を操ることは簡単だってことは否定しないわ。だからこそ神々はそうしないように取り決めを決めたんだもの」


 話を戻すわね、と無の神が続ける。


「神の代行者、つまり勇者はあくまで非常事態の時の為の措置。あなた達人間ではどうしようもない事態に陥った時の為に用意しておいた一種の保険みたいなものね。現にその懸念通り魔王なんて神にすら対抗できるかもしれない存在が生まれた訳で、その措置は間違っていなかったでしょう? でもその魔王という存在は神々の予想を遥かに超えていた」


 無の神がもう一度手を振ると、浮かんでいた神々の紋章が消えて同じ色の別の紋章が宙に浮かび上がる。どことなく神の紋章と似ているが細部が違うものが。


「私から他の八柱の神々が生まれたようにこの世界でもそれに値する存在が生まれた。それが魔王。彼らは次代の神に成るかもしれない存在よ」

「次代の神……」


 それが魔王。

 つまり勇者が神の代行者だとするならばこれは新世代と旧世代の神の争いだというのか。


「当初の神々は魔王達が望むのならば神の座を明け渡してもいいと思っていたらしいわ。引退して世代交代って形でね。でも残念な事に魔王達はどれも野心家だったのか、あるいは成り立ち方が良くなかったのかそのどれもが世界のバランスなんて知ったこっちゃないって奴等ばっかりだったの」


 それはまた危ない奴らだ。そしてそんなヤバそうな奴らに世界の運営を任せられるかと聞かれれば答えは否だろう。


「神々としては折角苦労して作った世界だから大事にして欲しいし、その世界で生きる者達を可能な限り大切にして欲しい。対する魔王は自分達が新たな神となって自分達の好きなようにやりたい。旧世代の遺物を全て破棄した上でね」

「それはつまり人類どころかこの世界そのものを壊すつもりってことですか?」

「大正解。そうやって八柱の神と八体の魔王は対立して何度も争うことになったってわけ。ちなみに魔物や魔族といった存在は魔王によって生み出された生物。要するに新世代の生物ってことよ。だから旧世代の生物とは相容れない上に見下している奴が多いの」


 ここまでの話を聞く限りだと僕の気持ち的には神の方に賛成だが、それと同時に魔王側が全面的に悪だとは言えない気がしてしまう。元の世界でも恐竜の時代から人類の時代に移り変わったようにいつかはそうなるものだと思うからだ。


 もっともだからと言って向こうの言いなりになって滅ぼされるのは納得がいかないが。


「それから長い年月を掛けて魔王側と神側に分かれて争ってきたんだけど、徐々に魔王達は成長し、力を増して強くなっていったの。そしてある時を境に既存の勇者を超え得る力を魔王達は手に入れ始めてしまった」


 そこで神々はどうするか決断を迫られたというらしい。このままでは勝敗はともかくこの世界が甚大なダメージを受けることになると。


 だからと言って下手に決められた世界のルールを破って更なる力を代行者に与えればその影響で世界のバランスが崩れてしまう。最悪の場合はその所為で世界が自壊する可能性もあり、それでは本末転倒となる。


「本来ならそこまでサボっていた私が勇者を選んで加わればまた勢力図は神側の圧倒的優位に傾いたのでしょうけど、ある理由があってそれは却下されたから別の方法を取るしかなかった。そこで考えられたのが、神々はこの世界の存在に与えられる力は限定的であり人数も一人に限られているルール。それは逆に言えばこの世界の存在でなければその限りではないという風に。勿論それぞれの属性に対する適正が必要になってくるんだけどね」

「……それで異世界の僕や姉さんが勇者に選ばれるようになった。そういう事ですね?」


 この言葉に無の神は頷く。


「ルール的にはグレーゾーンだったけど他に選択肢がなかったから神々は揉めに揉めた末、最終的にはそうすることを決定した。そして元々の代行者が勇者の仲間となり、異世界から来た新たな代行者が勇者と呼ばれるようになったの。それに加えて新たな代行者の子孫、つまりは異世界の因子を濃く持っている存在に関してはその分だけ神の力を与えられる。そう、さっき言ったこの世界の者というルールは適応されないと言えばわかるかしら?」

「まさか……」


 そこで思い浮かんだ存在がいる。

 そう、この世界の者であっても紋章持つ存在であるメルやカージ達の事だ。


「特にあのメルとオルトの双子に関しては一種の先祖返りを起こしているのか因子が途轍もなく濃く強いわ。その証拠に彼らの成長はこちらの人や獣人の基準と比べると遅いでしょう? でも向こうの成長速度で考えるとどうかしら?」


 確かに日数的に考えてみるとメル達は向こうの世界の人間の成長速度に近い。年齢の割に幼いとは思っていたが、まさかこんな理由だったとは。


「まさか雷の一派がメル達を狙っているのもそれが原因って事ですか?」

「雷の神に聞いてみない事には分からないけど、その可能性は大いにあり得るでしょうね。そしてちなみに魔族が前に言っていた因子というのもこれの事よ」


 それは異世界の因子とやらを魔族達も求めているという事だろうか。


「八柱の神々は訳あって私には可能な限り動いて欲しくないと思っているの。あえて異世界から勇者を呼び寄せる選択をしたのもそれが理由。でもそれによって魔王達は神々の力を手に入れる機会を手に入れてしまった。異世界の因子を自らに吸収し、そこに神の力を半ば強制的に取り込むという方法によってね」


 神の力を手に入れた魔王。それは新旧の二つの神の力を持った存在という訳だ。

 そこまで来るともはやどれだけのものなのか想像すら出来ない。


「そうやって魔王側は勇者の子孫を狙ったりしてどうにか異世界の因子を得ようとしているってのが一つ前までの勇者と魔王の戦いの状況よ。ざっと大まかに説明して来たけど、ここまでは大丈夫?」

「ええ、どうにか」


 この世界の成り立ちから現在に至るまでの流れ。その話はたかが一高校生だった僕には荷が重いとしか言いようがない濃く深い内容だった。


「……メルやカージが異世界の因子を持っているのは判りました。でもそれだと紋章は持たないのに火の魔法が使えるフローラはどうなるんですか?」

「あれは先々代の火の勇者が努力の末に神の力に頼らないで使える魔法をどうにか作り出したのよ。もっともその作り出した魔法とやらは魔力を選ぶのか、あの一族の中でもある波長の魔力を持っている人物しか使えないみたいだけどね。だから彼女は紋章が無い事からも分かる通り、火の魔法は使えても異世界の因子は持っていないわ」

「そうですか……それじゃあそろそろ頭の中が整理出来たので本題です。神々の取り決めすら無視できるというあなたは、無の神とは一体何なんですか?」


 この無の神はこれまでの話での神々という単語をまるで自分は関係ないという風に使っていた。そしてそれはこれまでの言葉から察するに事実なのだろう。


「簡単な話よ。今の私はこの世界に有る全てのものの逆であり表裏であり、なおかつ対偶でもある」


 その僕の考えを肯定するように彼女は微笑んだのが仮面越しでもわかる。


 そう、ゾッとするような綺麗で神々しい、そのオーラだけで僕は膝を屈してしまいそうになるくらいのまさに神と言うべき圧力を持った笑みを。


 だがそれも一瞬の事ですぐにいつもの調子に戻ってしまった。


「言うなれば私は数字の零と言ったところかしら。プラス側が神や人間でマイナス側が魔王や魔族って考えればいいのよ。そして魔王達は自分達がプラス側になろうと躍起になっているって感じで、その為にどちらでもない私を味方に付けたいってことね」


 数字の零。プラスでもマイナスでもない存在。それが無の神だと彼女は言う。


「全ての有るものの対である事かわかる通り私は他の神や魔王ですら比べ物にならない力を有しているわ。その気になればたった一人の代行者だけでも世界を滅ぼせるくらいには、ね。そして他の神々程度が強制されるルールでも私にとっては大した縛りにすらならないってわけ」


 どんだけだよ、と思いながらも僕はその発言である事を思い出す。


「もしかしてそれが原因であなたが代行者を立てる事は却下されてたんですか?」

「察しが良いわね、その通りよ。下手に私が好き勝手な事をすると魔王が暴れるよりも世界が大変なことになるから黙ってジッとしててくれってのが神々の総意らしいわ。失礼な話よね」

「いや、これまでの言動と行動から察するにその判断は間違ってないと思いますよ」


 そんな魔王や勇者よりも危ない存在がこんなに気まぐれで適当とか神々も気が気じゃないだろう。本当に同情するしかない。


「でも、そんなに強いって割に僕の能力はそこまでぶっ飛んではいないですよね。勿論勇者としてとんでもない事は認めますけど、魔王の一部にだって苦戦した訳ですし」


 全ての魔王と神々と対となるという程であるとは思えない。それが僕の正直な感想である。


「それは人の身で受け入れられる力に限度があるからよ。でも徐々に慣らしていけば与えられる力も多くなるからそれも時間の問題でしょうけどね。ちなみにあなたにこれまで色々な事を教えなかったのもペナルティを課して行動を制限していたのも、そうしないと雷みたいに融通の利かないのがあなたを問答無用に殺しにかかる可能性があったからよ。私、神々には敵より性質の悪い味方って思われてるみたいだし」


 無の神という存在は言うなれば現代における核爆弾に近い。


 新旧合わせた神を含めた誰も敵わない最強の兵器でもあるが、扱い方を僅かでも間違えるとそのまま人類滅亡および世界崩壊という事態になりかねないという。


 だからこれまで他の神々によって無の神は動かないようにきつく言い聞かされてきた。


 だが今回の僕という存在を選んだことで事態は良くも悪くも大きく動く事となったという訳だ。


「ついでに言っておくけど、あなたが望むのなら今からでも魔王側に着いても私は構わないわよ。これまでは仕方がないから神々の言う事も聞いてあげたり別に私だけは守らなくてもいいルールだって守って来たりしたけれど、それも飽きてきたところだし」


 これだけ常識外れで最強の無の神という存在を味方に出来れば魔王側は一気に優位に立てる事だろう。だとすれば水の魔王の一部が無の神に関係している僕に気付いた途端に確認しに来たというのも納得だ。


 そしてそれは神側にとって何としてでも避けなければならない事態でもある。


「あなたがその存在を知られていないのもそのルールとやらが原因ですか?」

「まあそんな感じよ。下手に人の世界に関わって面倒を起こされたら困るんだって。それに無の神である私自身もそれを望んでいたしね。出来る限り無に近いという状態でありたいって」


 まあそれも飽きが来るまでの話なんだけどね。そう言って無の神は無邪気に笑っていた。


 これほどはた迷惑な存在は今までに見たことも聞いたこともない。むしろ僕的には神々に同情してしまう気持ちの方が大きいくらいだ。


「ここまでの話から分かると思うけど、今回の魔王と勇者の戦いにはこれまでとは違う私という要素が加わったわ。だから魔王達はこれまで通りの手段である異世界の因子を取り込む事と同時に無の神の力を分け与えられた存在をどうにかして味方に引き込むか、その力を奪おうと躍起になって来るでしょうね。向こうからしたらリスクも大きいけど、それでも千載一遇の好機だもの」

「それを勇者は阻止しようとする。最悪の場合は無の神の力を分け与えられた存在を消すことになってもってところですか」


 敵に取り込まれるぐらいならその前に始末する。実に合理的で正しい判断だろう。巻き込まれた当事者である僕からしたら堪ったものではないが。


「その通りよ。それにそろそろあなたのお姉さんみたいに特別な理由がない限りは勇者やその仲間も出揃ったみたいだし、ここから更に流れは加速していくでしょうね。現にルールや取り決めを破ってまで動き始めた奴がこの城にもいるみたいだし。さてと……」


 そこで無の神はそれまでの口調や態度などを改めコンとして様相を整えると、


「三秒後に扉を攻撃しろ。レベルは三百もあれば十分だ。三、二」


 そんな命令を下してきた。そしていきなりの事に一瞬だけ迷った僕だったが、すぐに気持ちを切り替えてそのカウントダウンを待つ。


 そして、


「一……零」


 その言葉と同時に書庫の扉を蹴破った。扉の背後にいた人物ごと薙ぎ払う形で。


「ぐう!?」


 吹き飛ばされて扉と壁に挟まれる形となったその人物は苦悶の声を上げる。そして彼には見覚えがあった。そして盗み聞きをされる事に対する心当たりも。


「何の用ですか? コーネリアスさん」

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