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第十六話 平行線の夜

 その夜、僕は書庫で調べものをしていた。それはメルとオルトが雷の一派に狙われる理由が見つからないかと思っての事である。


 けれど、


「手掛かりになりそうな情報すらなし、か」


 あれからコーネリアスや王達と色々と話し合ったが話は平行線を辿るばかりだった。


 僕がどんな理由でもメル達を渡さないように向こうも頑としてその主張を引くことはなく、バスティート王達がいくら間を取り持とうとしてもそれは無駄に終わってしまったのだ。


 王家側からしたらコーネリアスの提示した案は別に悪い物ではない。メルの代わりに別の二つの戦力が手に入るのだから。


 それでも僕との関係を重視しているのか、基本的には神託という言葉だけで事を運ぼうとする相手側に対して色々と牽制などを行ってくれたのは幸いと言うべきだろう。もっともそれでも一向に引く気配すら見せなかったのだが。


 一体その神託とやらは一体どんなものなのか。それを問うても神託をそう簡単に他者に教える事は出来ないという一点張りだし、このままでは本当に争う事になりかねない。


(同じ陣営同士で争っている場合じゃないだろうに)


 万が一雷と風の本格的な抗争となってしまったら魔王側にとって最高の状況だろう。敵が勝手に潰し合ってくれるのだからこれほど笑えることはないに違いない。


 あるいはこれは魔族の引き金なのではと疑う自分もいるぐらいだ。もっとも紋章を持った相手が居るところを見るとそれはないだろうが。もしそれなら雷の神がそれを見過ごすとも思えないし。


 そして困ったものだと大きな溜め息を吐いた時だった。


「そんな溜息を吐いてどうかしたの?」


 その聞き覚えのある声に振り返ると前と同じようにいつの間に現れたのか例の白髪の女性が立っていたのは。


「フローラさん、でいいんですよね? いつから居たんですか?」

「あなたが気付かなかっただけで結構前から居たわよ。それで質問の答えはどうなの?」


 僕も結構前から居たのだが今まで声を掛けなかったところ見ると僕の事を観察でもしていたのだろうか。何か本を読んでいた訳でもないようだし。


「かなり行き詰っている、っていうのが正直なところですね。どうにか話し合いで済ませたいですけどこのままだとそれは無理そうですし」

「ああ、あの双子の子達の事なのね、その溜め息の理由は」

「その様子だと事の次第は知ってるんですか?」


 彼女はその言葉に何てことないように頷く。

 部屋から滅多に出て来ないにしては随分と情報を得るのが早い気がしたが、あるいは王達が情報を流していてもおかしくはないと思い直した。


 師匠の話ではフローラという人物は僕達とはまた違った意味で王家にとって重要な存在って話だし。


「本当に面倒なら力尽くでどうにかすればいいんじゃないのかしら。あのカージという反抗的だった男を従えた時と同じようにして」

「残念ながらあれはカージだったから出来た方法なんですよ。それを隣国の使者に対して下手に手を出したら大変な事態になりかねません」


 不死身の相手でなければ力尽くは色々と怖いし、それに犯罪者でなければ記憶の消去も出来ないのだから普通に考えて力尽くはなしだ。本当に他に手段がない時以外は。


「ってそうだ。あなたに聞いてみたい事があったんです。土の魔王についてなんですけど何か知っていることはありませんか?」


 魔王や勇者の研究の第一人者という話だし何か耳寄りな情報を持っていてもおかしくはない。そして敵についての情報は幾らあっても足りない事はないという思いからのこの質問だった。


「そうね。土の魔王事態についての面白い話はないけど、魔王全体についてはあるわよ」

「と言うと?」

「復活した魔王が外に出てくるまでは時間が掛かる。そして出てきた魔王は力を蓄えていたこともあって強力って思われているけど、実はそうとは限らないの」


 それはつまりコーネリアスの話が間違っているというのだろうか。と言うかこの人はどうしてコーネリアスが僕に話した内容を知っているのだろう。


 いや、心が読める人に何を言っても無駄なのか。何となくこの人の実験に付き合わされた侍女の人の気持ちが理解できた。


(この人はバスティート王達とは違った意味でやり難いな)


 そんな思いを知ってか知らずか、目の前の彼女は話を続ける。


「実は引き籠ったままでも強い魔王も存在する。外に出てくる魔王はそれが最も自分の能力を発揮できるから出てきているだけであって、そうではない魔王は力を蓄えても外に出て来ないだけなのよ。ちゃんと歴史書とかを詳しく調べればわかることなのにね」


 神殿という自らのテリトリーを放棄するだけのメリットがあるからこそその魔王達は外に出てくる。


 そしてだからこそ、そこでの強さは途轍もないというのだ。自分の城を捨てるという選択をする点に特異性はあるものの、強さが他と圧倒的に違う事はあり得ないらしい。


 もっとも外に出てくる時は居城での戦闘と違って周辺諸国への被害が大きいからそう思われても仕方ないかもしれないとのことだが。


「八体の魔王の力が特殊な原因や理由もなく離れていることは絶対にあり得ないわ。それは八体の神も同じ。彼らはそれぞれが対となり、そして表裏の関係でもあるのだから」

「対とか表裏ってどういう事ですか? それはつまり神と魔王に何か重要な関係性があるってことですか?」

「ええそうよ。例えば火の神と水の神は、もしくは魔王でも言えることだけど、それらは対となっている。風と土、氷と雷、光と闇にも同じことが言えるわ。この世界はそうやって全てが対になってできているの。そしてそれと同時に火の神と火の魔王は表裏となっている。分かり易く言えば火の神が正の存在で魔王が負の存在って感じかしら。彼らは同じ属性でありながら相反している。だから争うのよ」


 ちなみに歴代の火と水などの対となる勇者達も仲が悪い事が多かったのだとか。

 表裏の関係程までは行かないが、やはり対と言うだけあって仲良しとはいかない事が多いらしい。


 でもだとするなら無の神とは一体何なのだろう。この話だとそいつは対や表裏といった神と魔王の関係の枠組みにすら入っていないと思われる。


 トランプでいうならジョーカーのような枠外の物。異端な存在。


(その特異な奴の目的は果たして本当に魔王を倒すことなんだろうか?)

「さてと、そろそろいい時間だし私は行くわね」


 そんな風に思考に耽っているところに投げ掛けられた声で僕の意識は現実に戻ると、その時には既に彼女の姿は消えていた。扉の方を見るとその背中だけが見えて、


「大変だろうけど明日は頑張って。また逢いましょう」


 という言葉だけを残して去って行った。気配を感じられないというのがこうも厄介なのか、彼女の神出鬼没振りには圧倒されてばかりである。


(面倒な事ね。確かにその通りだな)


 居るかわからない内通者など他にも問題があるというのにこんな勇者同士で争っている。本当にくだらないとしか思えない。そんなくだらない事に長い間かかずらわってなどいられないだろう。


(だけど良い方法は全く思い付かないんだよなあ)


 明日も互いにひかないと判り切っている話し合いは行われる。判っていてもそうするしかないからだ。お互いに武力に頼るのはギリギリまで避けたいので。


「さてと、もうひと頑張りしてみますか」


 だが結局、この徹夜で書庫を探ったがメルとオルトが狙われている理由は見つける事が出来ずに僕は朝を迎えることとなるのだった。

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