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僕は姉の代理で勇者――異世界は半ばゲームと化して――  作者: 黒頭白尾@書籍化作業中
第一章 異世界への旅立ち チュートリアル編
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第十話 初めての合成

 薬草が多く生えている場所を教えてもらって一人でそこへ行く、そのはずだった。


 だけど何故かそこへと向かうべく歩いている僕の前でミーティアが先導している。マップもあるので大体の場所さえ教えて貰えればいいと言ったのだが、何故か付いて来ると言って聞かなかったのだ。


 彼女の言い分としては、魔除けの鈴やお香も持たずに行くなんて無茶だし、監視の為にも付いて行くとのこと。


 たぶん、そんなものがなくともマップさえあれば魔物と遭遇しないで済むのだが、それを説明する訳にもいかず、頷く以外になかったのである。


 魔除けの鈴などはその名の通り魔物を遠ざける魔術が込められた道具のことらしい。


 鈴なら音でお香なら匂いでといった風にそれぞれ効きやすい対象が違うし、持続時間や効果にも差異があるのだとか。例を挙げればお香は短時間だが強力な効果を発揮するのに対して鈴は永続的な代わりに効果はそれほど高くないとのこと。


 この他にも魔除け陣などがあり、これは村の周囲に描かれているらしい。そのおかげで村に魔物が近寄ることは滅多にないのだとか。どうやらこの世界では人が住む場所を確保するためには魔除けを施すことが必要になるらしい。


 もっとも魔除けの効果も万能という訳ではなく、極度に空腹だったり興奮していたりする魔物には効果がないこともあるのだとか。過信は禁物である。


 この村では一番レベルが高いミーティアでさえ一人で村の外に出る時は魔除けの鈴を欠かさない。それを考えると見た目的には弱そうな僕が何も持たずに村の外に出ようなんて自殺行為以外の何物でもないように見えるに違いない。


(まあ、いいか)


 別に派手なことをするつもりはないから付いて来られても特に不都合はない。わざわざ道案内をしてくれると言うのならその好意に甘えさせてもらうとしよう。


 そうして進むことしばらく、その場所は見えてきた。


「ここに生えている薬草が村の近くで一番品質がいい薬草よ」


 地面に生えている薬草と思わしき草を手に取って観察してみると色々と画面が表示された。


 草の名前だったり効果の説明だったりする画面のそれらの中で品質が良と書かれているのを見る限り、確かにこれは薬草の中でも良い物らしい。


「助かったよ。ありがとう」


 とりあえずクエストの目標である十個を目安に薬草を集めてみた。アイテムボックス内にしまわなくても持ってきた袋に入れれば換算してくれるので特に問題なく集まり、


「よし」


 クエストがクリアされたことを確認して僕は頷く。更にそこで前に制限されていたレベルが元に戻っていた。


 どういうことかアーカイブで確認するとどうやらペナルティの軽い奴はクエストを何回かクリアすることで解除されるらしい。


 もちろん中にはそうじゃない物もあるようなので油断は禁物だけど、取り返しがつく場合もあるのは救いと言えるだろう。多少のミスならどうにかできるということだし。


 それに加えて今回はクエストをクリアした事に対する報酬があるとのこと。本当にゲームのようだ。


 与えられたのは合成レシピとかいう奴でどうやら薬草を使って回復薬を作れるようだった。


 随分都合がいい気がしたが、このクエストがもう一つのクエストと連動していると考えればおかしくはないのかもしれない。何にせよ良い事なので文句はなかった。


 そのままメニュー内で操作をして初めてのレシピありの合成に取り掛かる。使うのは薬草二つと何故か魔力、つまりはMPだ。どうやら合成には魔力が必要になるらしい。


 合成にMPが必要なのは何となく腑に落ちない気もしたが、とにかくやってみるしかない。


(……成功だな)


 出来上がったのは体力回復薬というアイテムでボックス内にその名が現れていた。取り出してどんな物か確認したいところだが、ミーティアがいる手前そう言うわけにも行かない。


(後で一人になった時に確認しよう)


 消費したMPは全体のごく僅かでドット単位でしか減ってはいなかった。この桁外れのレベルのおかげなのだろうが、HPは約二十四万、MPはその半分とは言え約十二万もある。


 そこから三十くらい使おうが誤差とも言えない量の消費でしかないのも当然だろう。


 それにしてもミーティアでさえHPが五百前後しかないところをから考えると万越えのHPと言うのは馬鹿げているだろうことが簡単に予想できる。神の力とは実に恐ろしいものだ。


(他の勇者には関わりたくないな)


 僕の適合率は高くないと風の神は言っていた。それでこのチートなら他の適合率が高い勇者などは一体どれほどの力を持っているのやら。いわんや天才の姉ならもはや想像もできない。


 幸いなことかはわからないが、僕は正体を隠さざるを得ないようだし、この調子で誰にも正体を知られないようにし続けるとしよう。その方が面倒事も少なくて済みそうだし。


「……ねえ」

「ん?」


 そこでミーティアに呼び掛けられる。


「さっきから何を考え込んでるの?」


 その目は明らかにこちらを怪しんでいた。


 考えに集中したり、まだ慣れていない所為かステータスなどメニューに集中したりするとボーとしてしまう事が多い。どうやら何度もその状態を目撃したミーティアはそこに何かを感じ取ったらしい。これはあまりよくない傾向だ。


「いや、薬草を使って何か作れないかと考えてたんだ」


 咄嗟に考えた言い訳ですぐに返答したが、それを素直に信じてくれる関係でもないので、


「……そう」


 そう言いながらも明らかに納得していない様子だった。


 ここで彼女が追求せずに引いたのは幸いだったが、彼女は僕の言葉を全く信用していないのは見ればわかる。


(こうして付き合ってくれているのも親切心から、なんてことある訳ないし)


 こちらの勘違いでそれならいいのだが、そんな甘いはずがなかった。恐らく彼女は一先ず僕が手を出すことはないと見て、その正体を知ることを最優先にしたのだろう。


 時折、観察されているようだし、やりにくい面はあるのだが、だからと言ってミーティアなしだと色々と情報が不足しそうだから厄介なのだ。


 わざわざクエストがあった事から考えるに彼女から得られる情報はきっとこの先で役に立つはず。だからこそクエストがあった、僕はそう予想していた。


(……まあ、これから先の事を考えればいい練習になるし、頑張るしかないか)


 これから先でも同じような状況は起こるかもしれない。だったら今回の件で学ぶと事は学ぶ。そして次に活かすようにするのが建設的というものだろう。


 そう覚悟して――または諦めたとも言うが――僕は薬草を拾えるだけ拾う。


 その気になれば持っていた袋以上に収集できるのだが、それをやると怪しまれるのは判りきっているので自重した。もちろんばれない程度にこっそりしまったりもしたけれど。


 そうして袋が満タンになったのでここでやる事は終わり。


 残されたクエストはゴブリン退治だが、既に日が暮れはじめていた。いくらチートがあっても夜の森で魔物退治をするのは躊躇われたのでそれは明日に回すことにして、


「そろそろ戻りましょう。充分な量は取れたし、日が完全に暮れる前に戻らないと危ないもの」


 夜の方が活性化する魔物が多く魔除けの鈴の効果が効かない可能性が増えるとのこと。まだ日数はあるし、別に急いでいないので僕がその意見に反対する理由は当然ない。


 そうして日暮れを気にしたのか行きより少し早目のペースで進むミーティアの背中に僕は付いて行った。のだが、


「……えーと、本気?」


 ミーティアの家に戻った僕は信じがたい発言を聞くことになっていた。


「ええ、本気よ。あなたみたいな怪しい人から監視の目を解くなんて出来ないわ。だからこの村にいる内はここに泊まってもらうからそのつもりでいて。グッチさんには私から説明しておくし」

「いや、いくら何てもそれは……」


 これまでの事からわかるかもしれないが、ミーティアは独り暮らしだ。そんなつもりはないが、いくら何でも一人暮らしの異性の家に泊まり込むなんて、


「言っておくけど、妙な真似したら承知しないから」


 ミーティアはその発言と共にナイフをこちらの首に突き付けられる。それは一切の遅滞を感じさせない動きだったが、レベルのおかげか僕には止まって見えた。


 まあ、だからと言ってそれを避けてこちらの実力がばれても困るので、あえて動かないでおいたけれど。


「わかったから、勘弁して」


 両手を上げて降伏する。こうするのが一番手っ取り早いから。


 その予想通り、ミーティアはすぐにナイフをしまった。元々脅すだけで、本気で刺すつもりはなかっただろうからそれも当然なのだが。


 その後、かなり可愛い女の子と一つ屋根の下で二人きりだというのに僕はまったくドキドキなどできなかった。いや、別の意味でならドキドキさせられたと言っていいのかもしれない。


 気を使ってこちらから話しかけても返事は短く会話はほとんど続かず。空気が凍っているように感じたのは断じて気のせいではなかった。


 その上、こちらを全く無視すると言う訳でもなく様子を窺っている感じがするから気まずくてしょうがない。その所為もあってメニューをほとんど使えなかった。下手にボートすると不味い気がしたし。


 最後の方は無理にでも逃げるべきだったかと、少し後悔したほどだ。


「じゃ、じゃあ疲れたからもう寝させてもらうよ」


 ベッドも布団もないので床に毛布のような物を引いて寝るだけだったが、今はそれで構わなかった。そう、とにかく一刻も早くこの気まずさから逃れられるのなら。


(失敗したなぁ)


 奴隷の事などを言ったことで僕に対して一定の評価を得られたおかげでこちらの話は聞いてもらえた。だけどその所為で彼女の警戒心まで強めてしまったのは今にして考えれば間違いだったようだ。


 この様子だとミーティアは僕の正体を掴もうとこちらの様子を常に見張る事にもなり兼ねない。それはこちらが動きにくくなる事と同義だ。


(何とかしないとな)


 そう考えるもののいいアイデアがそうそう浮かんで来るわけもない。


 とりあえずその件は明日に考えることにして――または後回しにしたとも言うが――眠りに付くことにした。チートのおかげで体力的には余裕があっても精神的には結構疲労していたこともあってか、目を瞑るとすぐに眠気はやって来る。


 そしてそれに逆らうことなく僕は眠りの世界に落ちて行った。

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