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第十二話 念の為

 そうして僕達がジュールさんの元で訓練場で叩きのめされながら鍛錬を続けて一週間が経過した頃だった。改めてバスティート王から呼び出されたのは。


「内通者がいるか探してもらいたい。もっともそんな奴はいないじゃろうがな」


 そしていきなりこの王の発言である。単刀直入というかぶっちゃけているにも程があった。


 もっともすぐに宰相が補足説明をしてフォローしてくれたけど。


「調査の結果飛空艇に迷宮への入り口を設置した者がいることが判明しました。その内通者と思われる人物をコノハ殿にも探してもらいたいのです。もちろん受けていただけるだけでも報酬は用意致しますし、見つからなくとも責任を問うようなことはありませんのでそういった点はご安心を」


 ユーティリアの件や第三王子の件のことからも何者かが出引きしていることは疑いようがない。


 そうでなければこうも簡単に襲撃できる訳がないし、そもそも飛空艇には中の部屋に迷宮への入り口が仕掛けられていた。


 飛空艇にも結界はあるから外から仕掛ける事はできないので何者かがあそこに入って仕掛けたのは確実。

 これらの事から王家を狙う内通者がいる可能性が高いということだ。


「その者が魔族に操られているのかそれとも自ら望んでやっているのか。はたまたすでに逃亡しているのかさえわからんが、だからと言って可能性がある以上は放置する訳にはいかぬ。そういう訳で是非とも勇者の仲間であるコノハ殿達の力を貸してもらいたいだがどうじゃろう?」

「それは別に構いませんけど、僕達が力になれることはそう多くないと思いますよ」


 敵が隠蔽系のスキルを持っていれば僕のチート能力でも敵の特定はできない。チートがなければ僕などただの若造な訳でその場合はほとんど役に立たないはず。


 その内通者が余程の間抜けでなければ見つからない為の対策をしている事だろう。でなければスパイなどやれないだろうし、既に僕が見つけているはずだ。


 念の為に周囲の人達のステータスはかなり初期の時点で調べるようにしていたのだから。


 もちろんのその中で怪しいと思われる人はいなかった。

 いたらとっくの昔に対処している。


「この依頼はあくまで念の為です。正直に申せば王城に立ち入る全ての者の調査も終わっていますし、状況から判断して我々はポルックスという魔族が何者かに憑依をして潜入していた可能性が高いと考えています。ですが万が一ということも考えられますのでコノハ殿に調査してもらうことで抑止力を働かせようとしているのです」

「勇者の仲間が調査しているとなれば仮に敵がいても迂闊に動けなくなるじゃろうからの。例え見つからなくとも動いてくれるだけで意味はあるという訳じゃ」


 なんでも王都は何重にも張られた強力な結界によって常に守られており、魔物はおろか魔族さえも退ける力を持っているのだとか。


 だから滅多なことでは魔族の侵入を許すことはないし、仮に許したとしても侵入した魔族は弱体化するのだとか。それこそ平凡の人間並かそれ以下に。


 つまり魔族にとって王都へ忍び込むのには大変なリスクが生じるという訳だ。


 もし正体が発覚すれば力を封じられている為にその時点で詰みになる可能性が高いのだから。


(例え上手く忍び込めても力を封じられて出来ることが少ないのならリターンよりリスクの方が大きいか)


 ちなみにポルックスのような魔族がもっといるのではと聞いてみたところそういった特殊な魔族はそもそも数が少ないはずだし、もし多数いるならならとっくの昔に王都以外の都市は陥落させられているとの返答を頂いた。


 確かにこれだけの防衛を働かせている王都ならともかく他の防御の薄い街や都市はもっと簡単にやられる事だろう。


 それらが現在も無事でいることから考えればポルックスのような王都にさえ潜入できそうな魔族はそう多くないという結論に至るという訳だ。


「それとこの件について我々が依頼した事は内密でお願いします。あくまでコノハ殿の方から申し出た形にしてもらいたいのです」

「それも構いませんけど、どうしてですか?」


 勇者の方から協力を言い出すほどに王家と良好な関係だと周囲にアピールしたいのだろうかと思ったが、この感じだとそれだけではないようだ。


「王家に対してよからぬことを考えておる貴族は裏でこういった噂を広めるのじゃよ。勇者に頼ってばかりで今の王家には内通者さえ見つける力はないのだ、とかの。そうやって王家の威信をどうにかして地に落そうとする訳じゃ」

「王家の影響力が落ちれば得をする貴族達の中には魔王討伐のことなど後回しに考えている者達がいるのです。これまで幾度となく魔王が復活しても歴代の勇者の奮闘のおかげでどうにかなっている弊害と言うべきでしょうか。今回も勇者達に任せておけばいいと考える愚か者達が一定数いるのですよ。もっともそれは貴族に限った話ではありませんが」


 人類の共通の敵ともいうべき魔族や魔王がいても討伐の為に一致団結とはいかないのが人間の性というものなのだろうか。


 魔王討伐の名目で国同士の衝突などは沈静化して表立っては協力しているように見えるが、実際はそれに乗じて相手の懐を探り合っているのが現状らしい。


 これはかなり昔の話らしいが、中には最後の魔王が討伐されたと同時に魔王討伐の為に疲弊したところを狙って他国を攻め滅ぼした鬼畜のような国もあったらしい。

 だから各国は魔王討伐に全てを投入する訳にはいかないのだとか。


 魔王という危機を退けても国が滅ぼされては何の意味もないのだから。そしてそれと同時にどの国も魔王討伐後に一歩リードする為に様々な画策をしているらしい。


(罪深いというか欲深いというか。どうしようもないな、人間って存在は)


 自分もその人間の一人であることをわかった上で僕はそう思った。同じ人間でもそんな風にはなりたくはないと願いながら。


「もっともこれはあくまで一部の奴らの話です。大半の者は魔王や魔族を倒すことが最優先だということくらいはわかっています。そこに敗北すればその後もない訳ですので」


 これが政治というものなのだろうか。僕からしたらややこしくて面倒過ぎる世界なので可能な限り関わりたくないというのが正直な気持ちだ。


 ただでさえ無の神という厄介な相手がいるのだからこれ以上の苦労は背負いたくはないのである。


「わかりました。正直に言って自信はないですけど、やれるだけやってみます」


 だから僕はそちら側には深入りしませんのでよろしくお願いします、と宣言をしておく。


 向こうもそのつもりだったのかそれはあっさりと受け入れられた……のはよかったのだが。


「感謝する。ああそうじゃ、案内役としてユーティリアを用意したからわからないことがあれば何でも聞くといい。力になってくれるはずじゃ」

「え、いや、それは」

「王城には王家の者がいなければ入れない場所もありますので王族の案内役は必須なのです。それに最近のユーティリア王女は元気がないので少しでも気晴らしをしてもらいたいのですよ」


 残念な事にその理由には心当たりしかなかった。


 ここ最近はジュールさんとの鍛錬があるとか適当な理由をつけてユーティリアとなるべく接触する機会を減らしていた事だ。


 自惚れであればよかったのだが、その度に元気がなくなっていく姿をこの目で見ていたし原因は僕で間違いないだろう。


 ちなみにそれでも好感度は一向に落ちないのでこちらとしても困っていたのだ。僕だって目的があるかやっているだけで別に意地悪したくて避けているわけではないので。


(と言うかさっきまでの内容は全部建前でこれが本題なんじゃ……)

「コノハ殿が懸念している事は余も重々承知しておる。娘を避けているのもコノハ殿なりの優しさじゃということもな。だが一人の親として娘がこのまま苦しみ続けているのを見るのはあまりに辛い。少しの間だけでも構わぬから、娘が元気になるまでの間だけ協力して貰えぬか?」

「……この際だからはっきり言わせて貰いますけど、そう言いながら僕と王女を接近させようとしてますよね?」

「おやおや、ばれてしまったかのう」


 真剣な表情で頼んできた次の瞬間にはこれである。ジュールさんが狸と評していた理由がわかるというものだ。


 もっともその言葉の半分は冗談だったらしくすぐに言葉を足してきたけれど。


「しかしユーティリアが日に日に元気がなくなっているのは紛れもない事実なのじゃよ。しかも最近は食事もまともに取らぬようになって余としても結構本気で困っておるのだ」


 宰相もそれは嘘偽りない事でこのままでは本当に倒れてしまうのではないかと周囲のレイナさん達も心配しているらしい。

 そう言われるとその原因である僕としては非常に気まずくて申し訳なくなってしまう。


 彼女を気遣ったが故の行動だったとは言え、その所為で元気がなくなっているのは事実な訳だし。


「……わかりましたよ。でもあくまで王女の体調が元に戻るまでですからね」


 ここで受け入れてしまう自分は甘いのだろう。

 だけどここで頷かないとユーティリアはますます体調を崩しかねないし、それは僕としても望むことではない。


「その代わりと言ってはなんですが、期を見て改めて王女には僕から話をさせてもらいます。それでも構いませんね?」


 その話の内容など言わなくてもわかるだろう。現に王達はその内容を聞くことなく頷いていた。


「確かにそうしておかぬと不公平じゃな。じゃがそれはユーティリアが元気になってからで頼む。今の状態で失恋したとなると、それこそ臥せってしまいかねないからのう」


 意外なことに王はあっさりと僕がユーティリアを振ることを了承してくれる。

 この人ならもっと悪巧みをしてもおかしくないと思っていたので些か拍子抜けだった。


 その僕の表情を見て察したのか王は苦笑しながら口を開く。


「もちろん王の立場としては上手くいことを願っているが、無理強いしてもどうにもならないことぐらい余とてわかっておる。それに親としては娘に良い恋というものをしてもらいたいのじゃ。例えそれが失恋という結末を迎えるとしても」


 王女という身分故にあの子にはそういった自由が滅多に与えられぬからのう、と王は申し訳なさそうに告げてくる。


 単に計算だけでこう言っているのならこちらも同じように対応するのだが、なまじこうやって親や人としての情も持っているからこの王は性質が悪い。


 僕だって血も涙もない冷血漢ではないので、それには感じるものがあるので。


 もっともこの人ならその情さえも時と場合によってはあっさりと捨てそうな気もするけれど。だからこそこの人は恐ろしいのだろう。


 情を持ち合わせ、なおかつそれらの事を深く理解した上でも非情な決断を下す。そういうまさに王というべき民の上に立つべき存在だからこそ。


「って、そう言いながらもユーティリアを嗾ける気満々ですよね?」

「否定はせん、とだけ言っておこうかのう」


 ハッハッハっと笑いながら悪びれもせずにそう発言するバスティート王を見て、僕はこの人と腹芸で勝負するのは止めようと思うのだった。

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