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第十一話 穏やかな日常 鍛錬編

 買い物を終えた僕達は王城に戻ったのだが、するとオルトとミーティアの二人はのんびりする間もなくいそいそと準備をし始めた。そう、買ったばかりの装備を身に着けて戦う準備を。


「少しオルトと鍛錬しに行ってくるわ。いつまでも頼りっ放しではいられないもの」


 視線で僕が何をするのかと思っているのを察したのかミーティアが簡潔に答えてくれる。オルトも騎士の鍛錬を真似してみると張り切っていた。


「そっか、それなら僕も付き合うよ」


 ようやく体術のスキルを手に入れたとは言えそれはまだ初級という入口をやっと通過した程度に過ぎない。これから何が起こるか分からない以上それで満足するのは良くない。


 という訳で相変わらず肩車の状態を維持しているメルも了承した事もあり、皆で前に騎士に稽古を付けに行った場所に向かう。

 あそこは施設を破壊しない限り自由に使っていいと許可を貰ってあるので。


「そう言えば今更かもしれないけど、前の時にメルは騎士達に稽古をつけて貰うように頼んだよね。どうだった?」

「……が、頑張りました」


 具体的な内容のない返答にそれだけかと思っているとオルトがケラケラ笑いながら言葉を足してくる。


「俺も現場は見てないからよく知らないけど、あそこにいた騎士の人達のほとんどがのされたんだってさ。兄ちゃんに頼まれたからメルが張り切り過ぎたんだよ、きっと」

「お、オルト!」


 図星だったのかメルは焦った様子でオルトの名前を呼ぶ。どうもこの感じだと相当厳しくやったらしい。王達からの文句などはないから大丈夫だと思うが、焦るその様子を見るとどれだけやったのかと少しだけ心配になる。


 まあそれを放り出して後の事を全て任せた僕が言えた義理ではないだろうが。


 ちなみにその隣でミーティアも責任の一端を感じているのか乾いた笑いを浮かべていたし、恐らくは僕と似たような心境だったに違いない。


 そうしてその場所に着くとそこには先客がいた。というかそれなりの数の騎士達がそこで訓練をしていたのだ。


 幸い訓練場でもかなりの大きさがあるから邪魔にならないところでやればいいだけなのだが、何も言わずにやるのもなんなので一応近くにいた騎士に場所を借りて良いかと尋ねてみる。


 すると非常に元気のいい声で「もちろんです!」という返事を頂けたのは良かったのだが、


「……見られているよね?」

「ええ、確実に」


 これまで通り僕やオルトがミーティアやメルに挑んで軽く叩きのめされるといった何の学ぶべきところなどないと思われるその光景を休憩中と思われる騎士達がジッと見つめているのだ。


 それどころか中には訓練の最中なのにチラチラと視線を向けてくる奴までいる始末である。

 どれだけ気になっているのだろうかという以前に集中しないと危ないだろうに。


「そりゃ紋章を持つメルやカージって強いけど悪い奴を一日足らずで改心させた兄ちゃんが目の前に居るんだぜ? 気にならない訳がないじゃんか」

「まあ、そうなるよね」


 僕とオルトは仲良く投げられて地面に倒れた状態で、メルとミーティアは僅かな汚れもない立った状態で話をしていた。


 きっと傍目から見れば子供のオルトはともかく僕は情けなく見えるに違いない。


「おい、坊主」


 そこである人物が僕に声を掛けてきた。その視線からして坊主というのは僕のことを言っているので間違いないだろう。


「あなたはジュールさんですよね。何の用でしょうか?」


 先程までは騎士達と鍛錬をしていた彼は僕を見下ろすようにして傍に立っていた。彼がこの場にいた事には気付いていたが特に接点もないので特に気にしないでいたのだ。


 だけど向こうはこうしてわざわざ近付いて声を掛けてくるとこからして僕に用があるらしい。


「俺の事を知っているのか。なら話は早いな。聞きたい事があるから少し付き合えよ」


 首で場所を移す事を示してくる相手に付き合わなければならない理由はなかったが、無視しても強引に引っ張っていきそうな態度だったことから僕は素直に付いて行くことにした。


 そうしてメル達を置いてジュールさんに付いて行くと訓練場の片隅で立ち止まる。その周囲に人はいない。


「ここなら誰にも聞こえないだろう。それでだ。お前、あの時に何をした?」

「あの時っていつの事ですか?」

「誤魔化すな。俺が王子を治療していたあの時だよ。そもそもそれ以外に俺達が関係した事はないだろうが」


 この様子だと確信を持っているようだが、果たして僕は何を間違えたのだろうか。


 あの時、疑念は残したものの発覚しなかったのに今になってそれがわかるなんて思わなかったので想定外の事態である。


「ああ、言っとくが俺は王家の奴らと違って別にお前の隠し事を探りたい訳じゃないからな。ただ単に俺では助けられなかった命を救った方法に純粋に興味があるだけだ。残念ではあるが、教えられないならそう言ってくれればいいさ」


 まあ俺が気付いたってことは少なくとも王には遅かれ早かれバレるだろうよ、そうジュールさんは最後に付け加えた。


 確かに何か気付く要因があったのならあの王がそれを見逃すとは思えないのでその言葉には納得するしかない。


「ちなみに俺がお前に目を付けたのはお前がどこぞの盗賊団を壊滅させた時の情報を耳に挟んだからだ。無事に捕えられたそいつらの一部がお前によって病気を治されたって言ってるって話をな」


 そう言えば確かに前に無の魔法の効果を確かめる為にそんな事をやった事があった。


 完全に失念していたが、そこから僕が他人を治療する能力を持っていることを突き止められてしまったらしい。これは完全に僕の失策だった。


「……確かに僕はあの時に少し手を出しました。でも少しだけですよ。それに僕だけなら王子を助ける事はできなかったと思います」

「どうだか。って言えないならそれはもういいんだよ。俺が言いたかったのは能力を隠すつもりならあの狸には十分気を付けろってことだ。ほんの僅かでも情報を与えるとあいつは秘密を推理して察してくるぞ」

「えっと、もしかして狸って王様の事ですか?」

「おいおいそれ以外に誰がいる」


 この人は遠慮がないというか豪快というか、とにかく誰に対してもこんな感じのようだ。


 まさかの国王に対しても変わらないその言い草にこの態度とは凄い度胸である。


 もっともその忠告は非常に正しい気がするが。


「ご忠告ありがとうございます。ところでこれで話は終わりですか?」

「いやいやこれでお前があの時に手を出したのはわかったから、つまり俺はお前に借りがある。それをそのままってのは俺の信条的にあり得ねえわな」


 あの一件で王子の命を救った者として周りから賞賛されているらしくて、それは本来なら僕が得るべきものだとジュールさんは主張。


 それを横取りした侘びとして折角だから稽古を付けてやると言い出してきた。


「いや、いきなりそんな事を言われても……」

「いいから試しにやらせてみろって。お前達に損はさせないからよ。それに俺も王家の奴らと古い腐れ縁があるから客人としてずっとここに居るが、本当に何もなくてつまらない毎日なんだよ。それこそ退屈で死にそうになるくらいに。だから俺の暇潰しと思って付き合ってくれや」


 半ば強引に押し切られる形で僕は一先ず許可を出してみた結果はジュールさんの言う通りになった。即ち僕達は彼にほんの僅かな時間だけでも多くの事を学ばされたのである。


 レベルで言えば本気になった僕やメルには到底及ばないものの、技術的な面ではジュールさんは圧倒的だった。

 それこそ今の僕どころかあのミーティアさえ軽くあしらわれるほどに。


 まさかあのミーティアが片手一本で投げられ地面に叩きつけられる姿を見る事になろうとは。


 その他にも振るったナイフを器用に躱して、あろうことか相手の手を軽く打撃して緩んだすきに武器を奪って見せるという芸当まで見せられた。


 元盗賊であるミーティアが相手だというのにだ。


 伊達に年は食ってないとカラカラ笑うその姿は王とは違った貫禄が感じられた。


 試しに僕も挑戦してみたが、腕の一本も使わずに体裁きと足を引っ掛けるだけで何度も転倒させられ、良いようにあしらわれてしまった。


 一応レベルはジュールさんと同じまで上げて挑んだというのにこの結果という事はそれ以外の面で僕が劣っているという事に他ならないだろう。


「折角だしそっちの双子の坊主は騎士直々に手解きして貰えよ。俺が上手いように取り計らってやるからよ。そんで双子の嬢ちゃんに関してだが、俺じゃあ技術はともかく力的に相手にならないからカージだったか、あの水の勇者の仲間に相手をさせろよ。お前の言いなりらしいし、どうせあいつも暇だろうし」

「それで残った僕達はどうするんですか?」

「そりゃ俺直々に相手をするに決まってるだろうが。特にそっちの嬢ちゃんは良い手癖の悪さだから鍛え甲斐があるしな」

「手癖が悪いって全然誉められてる気がしないわね」


 何だか当初の予定とはかなり変わってしまったが、それでも悪い方向ではないので断る理由はない。むしろこの方が学べることが増えるし望むところだろう。


 メルも不承不承ではあったものの納得してくれたこともあり、僕達はこうしてそれぞれにあった鍛錬を始めていった。

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