第十話 穏やかな日常 ショッピング編
面倒な相手の処理も終わり僕達は平穏を取り戻したので、僕はミーティア達を連れて王都を散策していた。
隣にはミーティアが並んで歩き、前方にはしゃいでいるオルトが駆けていて、最後に肩車で上にメルが居るといった具合で。
ちなみにポールは本人から王城に留まると体が持たないという申告があったこともあり、魔王や勇者の事に付いて重点的に調べる為に一人で去って行った。
何かあれば連絡するようには言ってあるし、資金についても王家から与えられた一部を預けてあるから大丈夫だろう。
僕を裏切ればどうなるかはカージの件などを例に挙げてきっちりと説明してあるし。
「それにしても王都の広さはとんでもないね。この大きさだと数日掛けないと全体を回りきれないや」
「そうね。それにお店の中に入ったりすればもっと時間が掛かるでしょうし」
今回は僕だけはマップの情報を獲得しておくノルマがあるものの他は完全にフリー。つまりこれは単なる気晴らしであり骨休めという訳だ。
なんだかんだ飛空艇でも王都についても問題が起こったし、しばらくぶりの完全なオフだった。
「メルは何か見たいものはないの?」
「うーん……特にないから大丈夫です」
よほど肩車のポジションが気に入ったのらしく乗っけてからかなりの時間が経つのだがそこから降りる気配はない。
時折店に飾ってある商品などを見つめているから興味がまったく無い訳ではないだろうが、それでもこの場所にいるのを選び続けているのだった。
「さてと、折角街に出たんだし食料を買い溜めしておこうか。他にも皆の装備を揃えるのもありかもね」
王家から少なくないお金は貰ってある。
もちろんそれらは今後も協力関係を続けるという暗黙の了解の上で支払われた報酬だったが、裏切る気など今のところは欠片もないので何も問題なし。だから好きに使わせてもらうとしよう。
この世界での通貨は基本的に銅貨、銀貨、金貨の順で価値が高くなり、百枚で一つ上の位の一枚と同じ価値になる。要するに銅貨百枚で銀貨一枚、銀貨百枚で金貨一枚といった具合だ。
ちなみに一般的な家族が銀貨数枚あれば一年は楽に暮らせるとのことで、それなのに僕達は王家から金貨を十枚も貰っている。つまりちょっとやそっとの買い物ぐらいじゃどうってことないという事である。
だから僕達は色々なお店を見て回りながら屋台のようにしておいしそうな食べ物を売っているところで買い食いをし、気に入った物は大量に買い込んでボックス内にしまうという事を繰り返していた。
いつ王都を去っても食に困ることはないように。
十分な量の食材と料理を買った後に向かったのは武器屋で、そこでオルトやミーティア達の武器を新調する為だ。
そのついでに面白い物が有ったら買って分解してみるのもありかもしれないし。新しいレシピ入手の為にも。
「本当にいいの? 私達の装備なんかにお金を使って。こう言ってはなんだけど私とオルトは足手まといだし、他の事を優先させるべきだと思うけど」
「これでいいんだよ。武器を買ってもまだまだお金には余裕があるし、買える時に買っておかないとね」
と言うか大抵の敵は拳だけでどうにかなる僕やメルと違って二人は武器や防具といった装備によって戦力が大きく左右されるのだから、むしろ彼女達こそ一番いい装備をさせるべきだろう。
ゲームなら死んでも蘇生やリセットが簡単に出来るのかもしれないが、現実はそうはいかないのだし。
そこで各自が各々に合う武器を別れて探し始めた。
もっとも父親から受け継いだ強靭な獣人としての肉体を駆使した肉弾戦を主体とするメルは防具ならともかく武器はあまり必要としない為、僕の頭の上に居続けたのだけれど。
それに今のメルの全力に耐えられる装備が中々ないという面もあるのだ。
服や靴などは全力を出すとすぐに破れたり壊れたりするし、半端な装備より強化された肉体の方が頑丈なので本人の希望もあって今のところはどれも安物で済ませているのである。
ちなみに破れたり壊れたりした服や靴などは回収して魔法で直す場合が多い。そしてすぐに返すと怪しまれかねないのでしばらくしてから渡すという幾つかのローテーションとなっている。
そんな事を考えながら僕は色々な装備を見て回る。流石は王都の武器屋と言うべきか剣に槍、弓や槌などが数多くありかなり豊富な品揃えだ。
それに加えてどれも今まで見てきた武器屋の物よりも性能などが高い。
ただそれでも力を解放したメルの肉体よりも頑丈な物はなかった。
もっとも本気になった僕達の体は飛竜の鱗よりも強度が高くなる訳なのでそれも当然なのだろうけど。
それでも僕は良さげな装備をなるべく種類が違う物を選んで幾つか購入しておく。これはレシピを入手する為だ。
そしてそのついでに店主に交渉を持ちかけて鉄屑や銅塊などの質が悪い素材を格安で売って貰った。ちゃんとした鉄や銅などの素材も売ってはいたが、地道な作業をすればそれは改善できるのだから問題は量だ。
騎士達に装備を作る約束もしてしまったし、その為にも材料はいくら有ってもいいし、可能な限り安く仕入れるに限る。
ちなみに合成だが、使う素材については結構いい加減なところもある。
例えばロングソードを合成する為に必要とされるのは同じ鉱石または金属系素材が二つとそれとは異なる鉱石・金属系素材が一つに幾許かのMPの三つだ。
そう、鉱石か金属系の素材なら鉄だろうと銅だろうと鋼だろうと、はたまたもっと別の物でも構わないのである。
もっとも使用する素材によって出来上がる完成品の性能の善し悪しなどはかなり変わるので厳密には何でもいい訳ではないが。
だから僕はこれまでは基本に忠実に普通のロングソードに使われている鉄を二つと銅を一つ、そして魔力でそれを合成してきた。
だけど仮に鉄を鋼に変えると性能は上がるだろうし、鉄屑に変えれば逆になるはず。素材によっては特殊な効果が付いた物を作れるかもしれない。
あるいは使う材料によっては新しい武器が出来る、なんてこともあるかもしれない。
(どうせだったら良い物を作りたいし、色々と試してみよっと)
これまでは王達に見せる騎士剣を作る為やドラゴンファングのエディット機能を使えるようにするのに掛かりっきりだったが、数日掛けたそれらも最近になってようやく終わったのだから。
前回の戦いで倒したゴーレムを分解してクリスタルという鉱石系の素材なども手に入っているし、これらを素材の一つとして使ってみるのも悪くないかもしれない。
クリスタルだと仮に強度は落ちても芸術品としては価値が出る可能性だってある。
そうこうしている内に二人も自らに合う装備を選んだようだったのでそれも購入。少し意外だったのはオルトが剣と楯という騎士のような装備を選んだことだろうか。
まあミーティアがそれで問題ないと言っていたし、それが今のオルトにとって相応しい装備なのかもしれないと納得しておいた。
僕にはその面でのアドバイスなど出来ないのだから。
「さて、それじゃあ次はどんなところに行きたいかな?」
「そうね……次はあそこのお店に行ってみない? メルも気になっているみたいだし」
「え、そ、それは……はい、行ってみたいです」
そうして買った物をボックスにしまうところを見て驚く店員を置き去りにしながら、僕は女性陣の希望であるアクセサリーショップに向かってショッピングを満喫するのだった。