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第九話 下僕誕生

 戻ってきたカージの様子を見た王や宰相、その他の騎士達の反応は唖然、もしくは愕然と言うべきものだった。


 それもそうだろう。なにせある意味でメル以上に僕の命令に忠実になるようになっていたのだから。


「……一体何をどうすればあれがこうなるのじゃ?」


 さしもの王も驚きと呆れの感情を隠し切れていなかった。質問も実に抽象的だし。


「説明していた通りコンに協力してもらって天狗になっていたその鼻を徹底的に叩き折っただけですよ。まあその後に反省を促す罰も色々と与えましたけど。だよね、カージ?」

「はい! その通りであります!」


 敬礼でもするんじゃないかと思うほどカージは背筋を伸ばした状態で返事をする。たった一日であれがここまで変貌すると矯正と言うか洗脳の域かもしれない。


 あれから五回目のトライで上手く気絶させることに成功した僕はそこでカージの記憶を第八階層の扉を開けるところまで消去。

 そこから目が覚めたカージにお前だけを別の場所に連れてきたと言って、そこから同じことを繰り返すように彼を圧倒したという訳だ。


 もっとも今度は木葉としてではなくその仲間のコンとしてだが。


 それから最初の一時間は不死身の体を利用して力加減の練習をさせてもらった。そこでわかったことだが無意識の抑制というものは僕の想像を遥かに超えていたということだろう。


 これまでだって殺してもいいと思って攻撃してきた時には同じような事を思ったものだが、今回の怒りや嫌悪感から明確な殺意や傷つける意思を持って放つ攻撃はこれまでのものとは比較にもならなかったのだ。


 なにせデコピンで頭部が吹き飛ぶとかざらなのだ。もはやファンタジーを超えたホラーの領域だろう。


 たぶんその気になれば爪先が掠っただけでも並の人間なら肉片かそれ以上に出来るのは間違いない。


 ごく初めの内は一撃で即死になることがほとんどだった為にカージが痛みを感じる回数は少なかったが、段々と加減を覚えて来るのに比例してその数は増えていった。


 三十分を超えた辺りで泣きながら痛みを訴えて許しを乞うて来るぐらいになっていたっけ。


 カージは不死身だがその能力は死んだ時に復活できるというもの。

 だから腕が捥がれようと足が吹き飛ぼうと、例え半身が消し飛んでも死なない限り痛みは続くし復活はできないのだ。


 泣き叫びながら復活する度に逃げ出そうとしたのも一時間ぐらいで諦めたのかやらなくなった時点で僕も力加減については問題なくなったので次の段階に移る。


 ちなみにこの時に『基礎体術・初級』というスキルと何故か『断罪者』という称号も習得した。別に裁いた訳ではないと思うのだけれど。


 その後は二度と犯罪行為に手を染めない事と今後は木葉という人間に決して逆らわないことなどを約束させた上で気絶させ、その後でコンから木葉の姿に戻って彼を起こす。


 するとチャンスとばかりに先程の約束など無視して僕に対して攻撃を仕掛けてくるので容赦なく気絶させて記憶を約束した地点まで消した上で何を言おうが矯正を続行。そして今度こそ心を完全に折ったと思ったら約束して……を繰り返した。


 これは中々にしぶとく、なんと三時間近く掛けてようやく木葉やメルを目にしても逆らわないようにすることが出来たのだ。それどころか少々行き過ぎたのか軍隊の兵士のように絶対服従状態になってしまった感すらある。


 まあ秘密を洩らさせない為にもやり過ぎなぐらいで丁度いいので気にしない方向で行こう。


 それ以外でも彼は色々と役に立ってくれた。もっともそれは長くなるのでこの場では省略する。


 こうしてカージはコンを見るだけで失神して、僕やメルには絶対服従の精神を持ち合わせる人物へと生まれ変わったのだ。現に称号でも『下僕』の称号が加わっているし、それが誰の下僕なのかなど言うまでもないことだろう。


 勿論の事、今後は王家の指示にも従うことは命じてある。


 つまり僕は意図せずとはいえメルに続き、水の勇者の仲間も手札として手に入れてしまったという訳だ。風でも水でもない無の勇者だというのに。


「ちなみにカージが忠誠を誓わされたのは僕ではなくコンの方ですから。あくまで僕はその代理といった形です。ああそれと、これは万が一の話ですがカージが何かやらかしたら僕に言ってください。すぐコンを呼んでまた洗脳……もとい矯正をしてもらいますから。もっともその時が来ることはないよね?」

「も、もちろんであります!」


 叫びカージの声は掠れて裏返っていた。


 コンという単語を聞いた瞬間のカージの顔中に冷や汗が浮かび上がり、それと同時に唇や体が目に見えて判るほどに震え始めている。彼にとってコンがどれほどの恐怖の対象なのかこれだけでもありありとわかるというものだ。


 そのあまりの変わりように周りのほとんどの人がドン引きしていた。完全に人格が別物になっているのだし、その気持ちは分からなくもない。


 そこで僕は隠れてこの場を見て貰っていたミーティアの方に視線を送る。


 案の定ミーティアもカージの変わりように目を見開いて呆然としていた。だけど僕と目が合った時にウインクで合図をすると、堪えきれないといった様子で笑い出しかけて慌てて口を押えている。


 恐がっていた自分が馬鹿らしくなったのか、それとも別の理由なのかはわからないが少しは気持ちが楽になったようでよかった。

 可能なら後でカージと会って貰ってそこで改めてカージに言い聞かせる事にしよう。


 コンや僕は勿論の事、彼女にも逆らう事は許さないと。それを破るようなら今回の比ではないくらいの目に合う事になる、と。


 その後に何かない限りカージの扱いは王様達に一任する事を取り決め、こうして僕は新たに絶対服従の下僕を手に入れるのだった。

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