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第七話 王の決定

「先程は奴があのような真似をすることを止められずに申し訳なかった。本来ならああいった輩は奴隷紋で支配しておくべきなんじゃが、勇者の仲間を支配できるような術者などそうは居らんでな」


 レベルによって状態異常などに対する抵抗力が違うこともこれまでの事でわかっているし、奴隷紋もそれの例に漏れないという事だろう。


「そのこと自体は別に怒っていません。と言うかどうでもいいとすら僕は思っています」

「それは良かった。さて、それでは話とは何かのう?」


 急いで向かった事もあって遅れは致命的ではなかったことに安堵しながら、用意された席に着いた僕にバスティート王からその言葉が投げかけられた。


 ちなみに王の横には宰相がいるが、他には誰もいない。護衛の騎士などさえも。

 どうやらこちらが秘密の話がしたい事をある程度は察しているようだ。


「単刀直入に、そして一切の遠慮をせずに言います。僕は水の勇者の仲間、カージの事をどうにかしたいと考えています。それに協力していただけませんか?」

「本当に遠慮がない上、突拍子もない事を言い出すわい。しかも実に物騒じゃ。ここに騎士達がいれば大騒ぎになっていよう」


 笑っているバスティート王に釣られることなく僕は一切気を抜かずにその顔を観察し続ける。


 今のこの人の笑顔は仮面のようなもの。その奥にある本心を少しで見極めて話を有利に進めなければならないからだ。


「もっともこちらとしてもあの者の扱いには困っておるから、仮にどうにか出来るのであれば大歓迎といったところか。して、その理由と方法は?」

「方法はともかく、理由に関してはこうして人払いをしていることから考えても把握済みなのでは?」

「いやな、コノハ殿がこうして出向いたからこそ我らとしてもようやく確信を持てたといったところよ。これまではまさかそのような偶然と因縁があろうとは思ってもみなかったわ」


 そうやって次にどちらが手持ちの情報を開示するのかというテーブル越しの心理戦が繰り広げられていたが、


「ふむ、このまま腹の探り合いを楽しむのも一興なのだが、あまりコノハ殿を困らせると後でユーティリアからの報復が恐ろしいのでな。ここは一つ、こちらから腹を割って話をするとしよう」


 腹芸を止めると突然宣言した王のその言葉を待っていたかのように宰相が紙の束を取り出してこちらに差し出して来る。


「確かに我々はあなた方の過去について大よその事は把握しています。もっともコノハ殿については不明な点が多々ありますが」


 どうやって調べたのかはわからないが、確かにそこにはメル達の過去の経歴らしきものが書かれていた。


 と言ってもメルとオルトは僕に会うまでは普通の少年少女だったので特筆すべき点はなく、ミーティアの方も盗賊や奴隷だった可能性があるという程度だったが。


(やっぱりミーティアの過去は把握済みで招待していたのか)


 カージの例でもわかる通り、魔王討伐の為に過去はどうあれ優秀な戦力なら多少の問題は無視されるのだろう。

  それにミーティアが奴隷として強制されていた面も影響があるに違いない。


「現在、カージとミーティアという少女が所属していた盗賊団は火の勇者との抗争の結果により多数の構成員が捕縛され壊滅状態です。逃げ果せている者も中にはいますが、カージのように監獄に収容されている者がほとんどでしょう」

「要するにカージさえどうにかしてしまえばミーティアという少女がこの先、怯える必要はまずなくなるということじゃな」


 これでもミーティアがあの状態になった事は誰にも知られないように注意していたのだが、この様子だと完全に筒抜けのようだ。


 だとしたらこの件に関しては隠し事してもあまり意味はないと見るべきだろう。


「とは言えカージは紋章を持つ者です。魔王や魔族という脅威がある今、戦力という面で彼の存在は非常に重要になってきます」

「だからそう簡単に協力はできない、そういう事ですね?」


 それに頷く宰相。


 でもそれは逆に言えば、その問題さえクリア出来ればいいという事だった。だとすれば可能性は皆無ではない。


「まず協力していただけるのならばこちらをしても見返りを支払う用意があります」


 そこで僕はボックス内から合成しておいた騎士剣を取り出して二人に見せる。


 突然現れたそれに驚きながらも、それを手に取って観察した宰相はその出来に目を見開く。


「……これは一見既存の騎士剣と変わらないように見えますが、実に素晴らしい剣です。これほどの物を一体どこで手に入れたのですか?」

「そうなのか? 正直余にはよくわからんのだが」


 本当に腹を割っているというかぶっちゃけている感すらある王の態度に戸惑いながらも僕は説明を続ける。


 幸い宰相は見ただけでその価値がわかる程度の鑑定眼は持っているようだし。


「入手経路については言えません。ですが僕はその気になればこの剣ぐらいならかなりの数を用意できます。恐らくは王都にいる全ての騎士に行き渡らせるぐらいなら何の問題ないと思います」

「こ、これを量産出来ると言うのですか? 王都にいる騎士全体となるとその数は百を軽く超える事になるのですよ?」

「多少時間は掛かるかもしれませんが可能です」


 それを証明するように僕は用意していたそれと同じ剣を次々と取り出してはテーブルの上に置いて行った。


 それを宰相が一つ一つ確認して、どれも同じ品質であることを見てもらう。


「し、信じられない。どれも特殊な素材が使われている訳でもないのに素晴らしい出来だ」

「宰相よ、これはどれくらい凄いのだ?」

「こう言っては何ですが、今の騎士達の装備よりもかなり上物です。これでもかなりの物を配備しているはずなのですが」


 それはそうだろう。


 なにせどれもエディット機能を使ってその性能を最大限にしたものばかりなのだ。同じ材料でも普通に作るのとチートを使うのではどちらが優れた物になるかは明らかだろう。


「それ程の物が百以上も用意できるのか。凄まじいな」

「……確かにこれは実に魅力的な提案です。ですが流石にこれだけではあの男を排除する選択は下せません」

「それはわかっていますし、元より僕もカージを殺したりするつもりはありませんよ。どうにかしたいというのは、あくまでこれ以上迷惑を掛けられないようにしたいというような意味です」


 そもそも勇者の仲間の時点で殺すことは出来ないのだ。だから取れる手段は限られてくる。


「では、どうすると?」

「漠然とした考えと言うか作戦はあるのですが、その為に一つ教えて貰いたい事があります。カージの力について何か知っていることはありませんか? その詳細さえ判れば後は何とかなるのですが」


 この質問に宰相は明らかに迷っているようだった。


 この様子だと能力は知っているようだが、それをおいそれと他の勇者の派閥に教える事には躊躇いがあるのだろう。最悪の場合はこれが原因で水と風の勇者同士の争いに発展する、なんて未来もあり得そうだし。


「宰相よ、全ての事をコノハ殿に教えて差し上げろ」


 だけどそこでバスティート王はあっさりと許可を出してきた。まるでそんな事かというように。


「し、しかし!」

「余が良いと言っているのだ。それとこの先もコノハ殿に全面的に協力するようにせよ。これは命令じゃ」

「……か、畏まりました」

「い、いいんですか?」

「ああ、構わぬ」


 ここまであっさりだと僕の方が逆に戸惑ってしまう。だけど王は何か根拠があるのか、決然とした様子で頷く。


 そこに迷いは一切感じられない。


「それでコノハ殿。どのような方法を取るつもりなのだ?」


 宰相から一通りの説明を受けた僕が考えた作戦を行けると言うと、当然の事ながら王はその内容を尋ねてくる。言ってしまえばそれは簡単。


「彼は二度と反抗する気も起きない程度に叩き潰させてもらいます」


 根拠も提示していないこの簡潔でいきなりの発言にも王は些か異常とも言えるようにあっさりと許可を出すのだった。

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