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第六話 書庫での出会い

 そうして落ち着いたミーティアを部屋に送り届けた後、僕はバスティート王へと会いにいった。


 だけど今は忙しいとのことで会えるまで少し時間が掛かると聞いたので、僕はその間の時間を王城にある書庫で潰すことにしていた。


 相手のスキルで懸念されるとすれば『狂化』と『黄泉返り』の二つだ。王家の書庫で調べればそれらの能力について何かわかるのではないかと期待した訳なのだが、


「そう簡単には行かないってか」


 調査は行き詰っていた。それもかなり初めの部分で。


 スキルとはあくまで僕のメニュー能力によって可視化された力の形に過ぎない。だからスキル一覧表なんてものはこの世界にはないし、似たような能力が混ざって考えられていることも少なくないようだ。


 属性などがはっきり別れている魔術などの本は数も多いし、体系化されているのか内容もかなり具体的だが、それ以外のものはかなり怪しいものがほとんどだった。


 もっとも敵の能力についてここでわからない可能性の方が圧倒的に高いと思っていたので落胆はしなかったけど。


 それにここではそれ以外の事を知れるものがたくさんある。


(魔王は一度倒されても長い時間をかけて復活を遂げるのか。そしてその度に紋章の体に秘めた勇者が神の導きによって遠き地より現れると。これはその度に異世界から召喚されるってことかな?)


 書庫にあった伝記などを読みながら僕は自らが異世界に召喚される原因となってこの勇者と魔王という根本的なことについて調べていた。


 中には確定したことが分からない為か抽象的で理解に苦しむ部分もあったが、どうにか想像や他の本の内容と照らし合わせて読んでいると、


「勉強熱心なのね」


 いつの間にか隣に見知らぬ長い白髪の女性が座っていた。


 集中し過ぎて接近を見逃したかと思ったが、そうではなく現在も反応はない。手の甲を見たが紋章は浮かんでいないので『隠蔽』系のスキルを持っているようだ。


「どなたですか?」

「客人よ。あなたとはまた少し違った立場だけどね」


 そう言えば僕と水の勇者の仲間やジュールの他にもあと一人、女性の招かれた客人がいると前にユーティリアが言っていた。確かその人物は優れた魔術師であると同時に研究者でもあると言っていたはずだ。


 客人という発言からするとこの人がその最後の一人なのだろう。


「僕の名前は」

「ユウキコノハでしょ。知ってるわ。あなた、勇者の弟だって城の至る所で噂になっているわよ」


 そう言いながら彼女は僕の読んでいた伝記を取って目を通す。


「さっきからの様子からすると何か調べているみたいだけど、こんな分かり難いものを読むくらいなら私が色々と教えてあげましょうか?」


 研究者と言われるくらいだし知識は豊富なのだろう。でも基礎的な事すらわからない僕に説明されてもわかるだろうか。


「いいんですか? 僕は異国の出身でこちらのことはまだよくわかっていないんですが」

「暇潰しみたいなものだから構わないわ。それにその代わりと言ってはなんだけど、あなたに答えてもらいたいこともあるから」


 教えてやるから聞きたいことに素直に答えろという訳だ。別に問題はないので僕はそれを了承する。不味いことを聞かれたら誤魔化せばいいだけだし。


「それじゃあ勇者ってそもそも何なんですか?」

「勇者は世界を作ったとされる神々から紋章を通じて特別な力を与えられた存在。魔王というこの世界を滅ぼそうとする存在に対抗する者のことよ」

「じゃあ魔王は?」

「魔王は神々と対をなす存在よ。八体の魔王がそれぞれの神に対抗するようになっているわ。火の神に対しては火の魔王、水の神に対しては水の魔王って。今回は八体全ての魔王が目覚めるみたいだし、あなたはこれから大変でしょうね」


 その発言に僕は「なんだそれ!」と思わず声を上げかけた。何故なら魔王が八体もいるなんて初耳だったからだ。


 ただ、彼女の様子と口ぶりだと魔王が八体いることは当たり前の事実のようだし、それを問い掛けると不審に思われるかもしれないから必死に押し留めた。


(でもだとしたら無の神は一体何なんだ?)


 この人の言葉が真実だとすると無の神には対となる存在がいないことになる。


 もしくは無の神と同じく隠された無の魔王という存在もいるのだろうか。隠しボス的な感じで。


「どうかした?」

「い、いえ、何でもないです」

「ああ、そうだ。あなたが飛空艇で飛ばされた迷宮は恐らく闇の魔王の復活の為に存在する神殿の一つよ。あなたがやったように神殿を一つ残らず確保して生贄を捧げられないようにすれば、あるいは魔王復活を阻止できるかもしれないわね」


 もっともすべての神殿を見つけて確保するなんて事はまず不可能でしょうけど、と彼女は言葉を続けた。


 確かにその神殿とやらの数がどれだけあるのかもわかっていないのだから、可能性の域を出ない話だ。それもかなり成功率の低い。


「他に聞きたい事は?」

「そうですね……魔王復活は何度か起こっているみたいですけど、前回のその戦いはどういう結末になったかわかりますか? それとそれがいつ起こったのかも出来れば」

「いつだったかしら? まあでも、その事についてなら私よりもこの国の王族に聞いた方が早いわよ。だって今のこの国の王族には前回の風の勇者の血が少なからず流れているのだから、きっと記録としても残してあるはずよ」

「それはどういう事ですか?」


 勇者の血が流れている、つまりそれは子孫だということで間違いないだろう。


 だとするとこちらの世界に残った勇者がいるということだろうか。いや、それ以外にも帰る前に子供を残していたという可能性だってあり得なくはない。


「だからそれは私に聞かないで。他に質問はないなら私の聞きたい事に答えて貰うわよ」

「……とりあえずは浮かばないですね。それでそちらの聞きたい事とはなんでしょうか?」


 あっさりと質問を却下されたので呆気にとられながらも、確かに王に聞いた方が早いし正確な事も分かるので僕は何も言わずに引き下がる。


 そして他にも幾つか質問はあったが、どれも無の神関連の事なので聞くのは止めておいた。


 近い内に現れるらしいし、その時が来るのを待つ事にして。


「仮に全ての魔王を倒されこの世界に平和が訪れたとして、あなたはその後にどうするつもりでいるの? やっぱり歴代の勇者のように忽然と姿を消すのかしら?」

「……今のところは役目を終えたら故郷に帰るつもりですよ。それ以外は特に考えていません」

「そう……不思議なものね。ここに残れば魔王を倒した英雄として崇められるのに、それを捨てて故郷に帰ることを選ぶなんて」


 心底不思議そうな口調で呟きながら彼女は立ち上がる。


「そろそろ私は失礼するわね。あなたとの話をするのは思った以上に楽しかったわ。だからまた逢いましょう」

「色々と教えてくれてありがとうございます」


 現れた時と同じような唐突さで去って行く彼女にお礼を言うと、書庫の扉を開けた彼女はそこで立ち止まって振り返る。


「そうそう、何か悪巧みしているみたいだけどあまりやり過ぎないようにね」


 そして一方的にそれだけ言うと扉の向こうに消えていった。あの口振りだと僕が水の勇者に何かしようとしている事に気が付いているのだろうか。


 まだ誰にも具体的な事は言っていないというのに。


(彼女は一体何者だ?)


 そこで入れ違いになるような形で書庫に入って来た侍女に名前も聞いていなかった彼女の事について聞いてみる。白い髪で長髪の王族への客人はいるか、と。


「それはフローラ様の事ですね。基本的には研究室か自室に籠りっきりで滅多にお姿を拝見することはありませんが、確かに王城に滞在されています。その、もしかしてお会いになったのですか?」

「ええまあ」


 そう答えた瞬間、侍女の人の表情が凍りつく。


「その、大丈夫でしたか?」


 そして何か不安になるようなことを言ってくる。


 一体フローラという人物は周囲にどんな風に思われているのか。そして何をすればこんな反応が返ってくるようになるのやら。


「少し話しただけですけど、その様子だと何かあるんですか?」

「えっとその、あまり大きな声では言えませんがフローラ様は変わった方なんです。かなり前の事ですが、王城の全ての部屋に盗聴の魔術を仕掛けたり、侍女や騎士の体にこっそりと魔術を付加して経過を観察していたり、挙句の果てには心を読む魔術の実験として侍女達を強制的に参加させた上に想い人を調べるなんて事もした事もあるんですよ。しかも私なんてそれが正しいのかの確認までされたんです! 他の侍女の目の前で! あの時はどれだけ恥ずかしかったことか!」

「そ、そうですか……」

(恥ずかしかったって事は当たってたのかな?)


 違うのなら否定すればいいだけだろうし。


 そうしてどんどんヒートアップしていく侍女に圧倒されていると、そこで彼女も言い過ぎている事に気付いたのかハッとした様子で言葉を付け足す。


「も、もちろん凄い方なんですよ。特に神と勇者に関しての研究については世界に名を知られる研究者の一人でもありますし、魔術師としての腕も超一流だとかで」


 後半の取ってつけたかのようなフォローが実に虚しく聞こえた。明らかに心が籠っていないし。


 まあでも、そう言われるとそんな感じでもおかしくない気はした。


 質問を受け付けておいてあっさり却下したりするあの姿からして、自分の興味ある事以外には関心の薄い人なのだろう。まさに研究者に居そうな感じの性格だ。


 その分、興味ある事に関しては途轍もないのだろうが。それがこの侍女の人の言葉や表情からありありと窺える。


 恐らくはさっきの発言も僕の心を読んだのか、はたまた予想もしない別の方法で知ったという事だろう。


(要するに彼女は非常に用心しなきゃならない相手ってことだね)


 ペナルティがない事から確信的なことまでは知られていないようだが、仮に心を読めるのならばそれを知られる時が来てもおかしくはない。


 彼女は水の勇者の仲間であるカージなんかよりもよっぽど警戒しなければならない相手だ。


「ん? そう言えば今更ですけど、あなたはどうしてこの書庫に来たんですか?」

「……あ!?」


 そこでようやく王に時間が出来た事を僕に伝えに来た事を思い出して、余計な質問と会話で時間が経っている事で青くなった侍女の人の為にも僕は急いで王が待つ部屋へと走って向かうのだった。

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