第二話by無駄に哀愁のある背中
「美香子さん、包帯外しますね。外しても目をすぐには開けないでください。外の明るさになれない状態で目を開くと目に悪いので、サングラスをこちらがかけさせるまで目を開かないでくださいね」
ついに視力が戻る日がやってきた。今思えば、目が見えないこの六日間、私が人とのつながりを感じたのは担当医さんや看護師さんと定期的に触れ合う以外ではたったの三回だった。
一回目は私が意識を取り戻してから三回目の食事(意識を取り戻してから二日目の朝食のあと)後、看護師さんに頼んで会社に電話を掛けたり、警察の方と話したりした時だ。会社曰く、交通事故は仕方がないし轢き逃げだったことも考慮して、とりあえずこれまでに溜まった有給をすべて使い、その上でほかの日はいつもの給料の四割減で配給してもらえることになった。岩田部長はいつも真面目に働く私だからこその待遇だと言っていた。私から言わせれば真面目に仕事する以外することがなかっただけだけど。警察の方とは治療費及び慰謝料についての話をした。とりあえず、犯人が見つかるまでは保険外の三割は自己負担ということになり、犯人が見つかりしだい慰謝料の請求を裁判か和解ですることになった。完全に相手の過失なので心配することはないと刑事さんは言っていた。この時に親への伝達はどうしますかと聞かれたが、私は「いいえ」と答えた。親とは大学に通うと言って家から出て以来一度も会っていない。もう頼ることもできないだろう……。
人と触れ合いを感じた二回目は不思議な出会いだった。意識が戻ってから三日目。私がすることもなくボーっと横になっているとその子はやってきた。
「ねぇねぇ、おねえちゃん」
声をする方向に顔向けて私は言った。
「私?」
「うん、目に包帯を巻いたおねえちゃんだよ。おねえちゃん、だーれ?」
声の主はおそらく五、六歳の男の子だと思う。
「私? 私は美香子っていうの。……君も入院してるの?」
「うん! 胸の病気なんだってさ。おねえちゃんは目が悪くて……足も怪我してるの?」
「まあそうなのかな。君、名前は?」
「僕は陽太。増田陽太っていうんだ。太陽の陽に太いって書いて陽太っていうらしいよ。お父さんがそう言ってた!」
「……陽太くんか。病室にはいなくていいの?」
「ううん、でも暇だから勝手に来ちゃった。おねえちゃんも暇だったらなんかしようよ」
「うーん、目も使えないし足も動かないから、できることほとんどないけどいい?」
「うん、いいよ!」
その陽太という少年はもう一年近く入院しているらしく、「この病院は僕の庭だよ!」とどこで覚えたか分からない台詞を元気よく言っていた。私に病院の外の話をたくさんして欲しいと言っていたのでしてあげた。
「また、来るね。みかこおねえちゃん!」
と言って、陽太君は看護師さんに連れて自分の病室に戻っていった。その二日後、また陽太くんは来て、たくさんの話をした。それが三回目だ。私にとって今日、視力を取り戻すということは陽太くんに会いに行けることを指していた。
「サングラスをつけたので、もう目をあけていいですよ!」
担当医さんの声が聞こえた。私はゆっくりと目を開いた。