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第一話by鯉

 はじめ、私には目が覚めたのか、まだまどろんでいるのか分からなかった。

 真っ暗闇の中、現実だか夢だか知れないところにいる私はどうやら寝ているようで、背中のだるさが不自然にリアルだった。

 どれだけそうしていただろう。

 足元のほうで、静かにドアを開けて誰かが入ってきた。いい加減何も変わらない夢にも飽きたので、私はいたずらをするようにその誰かに話しかけてみた。

「……あの、こんにちは?」

 その人は息を短く吸い込んだ。

「お加減はいかがですか? 今、担当医をお呼びしますね」


「お目覚めになられたのですね」

 やがてやってきた、私の担当医だという医者はそういった。

「あなたは沼田美香子さん、24歳の会社員のかただそうですね」

 そう、私は確か、午前の仕事が長引いて、あわててお昼ご飯を買いに行こうとしていたのだった。

「お昼の13時42分、会社の前の通りで交通事故に遭われました。覚えていらっしゃいますか」

「はい。少し急いでいました。コンビニでお弁当を買って帰るところだったと思います。焦っていて、横断歩道の信号が青に変わったのであわてて飛び出して、左右の確認を怠ってしまいました」

「そうでしたか。――記憶は正常のようですね。では、あなたの状態についてご説明させていただいても?」

「お願いします」

 交通事故の後、私は救急車でこの病院に運び込まれ、目の下と後頭部を少し縫ったらしい。

「縫合痕は目立たないように処置しました。脳はもちろん、全身の精密検査も行いましたが右足の骨折以外に異常は見つかりませんでした」

 今、私が明るさを感じられないのは、目の下の傷を保護するために包帯を巻いているかららしい。目がつぶれてなくなったわけではないらしい。思っていたよりも、視界が不自然に不自由な環境に緊張していたらしい。

 自分の肩から、力が抜けていくのが分かった。

「それで、私はどのくらい入院するのですか?」

「足の怪我はそれほどひどいものではありませんので、歩くこと自体は松葉づえを使えば今からでも可能です。しかし、頭部の包帯が取れるまでは大事を取って車いすを使っていただくことになります。包帯が取れるまでにだいたい1週間弱を見ております。それからリハビリを始めるとして、2週間後には松葉づえですが退院できると思います」

 意外と長かった。

「普通の怪我でしたら実はもっと短いのですが、交通事故に遭われた方はまれに、心にも怪我をされる方がいらっしゃいます。今後の生活を大切に過ごしていただくためにも、当院に入院されている間に心理ケアも並行して行なっていきます。――ほかに、何か質問はありますでしょうか」

 しばらく考えた。

「いえ、特に思い至りません」

「分かりました。短い間ですが、一緒に治していきましょう」

「よろしくお願いします」


 それから、また私は病室で一人になった。もしかしたら他に患者さんはいらっしゃるのかもしれないが、目が見えないと見て確認できないし、何より目の前が真っ暗だとつい寝てしまう。私の時間感覚は乱れに乱れ、1日3回の食事が唯一の時間を図る術だった。

 私には誰も、見舞いに来てくれる人なんていなかった。実家は遠く大学時代から一人暮らしをしているし、学生時代から教室の中で仲がいい友達はいたが休日に遊びに行くような人はいなかった。それは社会人になっても変わらない。

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