第三十一波、服屋のおっさんとは知り合いでした。世の中狭いね
洋服の絵の描かれた看板をぶら下げた店の中に入ると、こじんまりとしている割に結構な数の服が展示されていた。ハンガーってのはまだないようで、人一人分のスペースを空けて置かれた棚に綺麗に畳まれている。
「いらっしゃい、見ない顔……ってああ!」
店の奥に座ってたおっさんがいきなり叫んだ。なんなんだよ、うっせえな。
「君はあの時の魔法使いじゃないか!」
「はあ?」
誰だよこいつ。
「ああ、うん。見覚えが無いのも無理はない。私は奥の方にいたからね。でも、私も君のおかげで戦場にいかなくて済んだものの一人なのだよ」
「ああ!」
あの時の純真無垢なおっさんたちの一人か!
「君、名前は何と言うんだい?」
「ミヤタタツオだ」
「ミヤタタツオ……よし、今すぐ行ってくる!」
おっさん店から出てった。え?
「何あれ?」
「俺に聞くな」
イケメンに聞いたのが間違いか。
「え? どうしたらいいんだよ」
「私に聞かれても分からないでありマス」
ああ、こいつは論外だった。でも貴族らしいおっさんなら知ってるだろう。
「ど、どんな風習なんですかね?」
「いや、あれは風習ではないと思うが」
「私も分からないわ」
ジュヴラリクさんまで分からないってことは、習慣とかじゃなくてあのおっさんがおかしいだけってことだな。
「なんなんだい、騒がしい」
んあ、店の奥から恰幅のいいおばちゃんが出てきた。
「あら。あたしの亭主はどこだい?」
「何やら知らんが出て行ったぞ」
イケメンの言う通りだから辺りを見回しても無駄だよおばちゃん。
「まったく客をほっぽりだすなんてどうかしてるよ! すいませんねあんたたち」
「いいえ、気になさらないで下さい」
「あたしはアレのツレでね。昔から情けないアレの世話をしているうちにいつのまにか一緒になってたんだよ」
嬉しそうな顔しやがって。まんざらでもないってか。
「へええ、素敵ですねえ」
「そうかい? 迷惑な話だよ」
「うふふ。そんなことおっしゃってもばればれですわ」
「なあに言ってるんだい!」
おい。
おいどうすんだよ女の世界が構築されちまったぞ。
ジュヴラリクさんは何でおばちゃんの馴れ初めを楽しそうに聞いてるの?
「あの、ジュヴラリクさん? 俺たち目的があるんですけど」
「ごめんねミヤタタツオ。今いい所なの。それでハンクさんはどうしたんですか?」
ああ、おいたわしや。おしゃべりに夢中で俺たち蚊帳の外。ジュヴラリクさんは遠い世界に行ってしまわれた……。
「なあ、どうすんだよ」
「好きにさせればいいさ」
「ま、たまの息抜きになるだろう」
ええ……何だよお前ら。
「ん、お前はいいのか」
「え? 何がでありマスか?」
こいつは俺の隣で服を広げている。
「何やってんの?」
「え? 服買いに来たのでありましょう? ほら、これミヤタタツオでも着れそうでありマスよ」
「ん、おお」
何だよいきなり冷静になりやがって。まあ言ってることは間違ってないだけどさ。
「おお! 本当にいたぞ!」
俺が服に手を掛けた瞬間、扉が勢いよく開いておっさんたちが次々に入ってきた。邪魔が入りやがったか。つうか、俺を指差してんのはなんなんすかね?
「よう! また会ったな!」
俺のこと知ってるみたいだが、誰なんだよ。狭い店の中に十人もおっさんが入ってきたもんだから途端に暑苦しいから早くどっか行ってくれよ。
「何なんだいいったい!」
おばちゃんがたまらず叫ぶと、おっさんたちが口々に返答する。うるせえよ、お前ら。
「ああもうあたしのツレ以外は黙りな! で、何なんだい!?」
「そこに子供がいるだろう! その人が俺たちを助けて下さったんだよ!」
「ええ! じゃああんたが言ってた魔法使いってのはこの子のことかい!?」
「そうだとも!」
おばちゃんの視線が俺に向けられる。
「へええ、あんたがねえ」
そしていきなり手を握られる。え、人妻は守備範囲外なんすけど。
「ありがとうよ、ツレが戦争に巻き込まれずにすんだのはあんたのおかげだ」
あ、ああ。そういうことか。
「ようし、お前ら! この坊主に飯を振る舞ってやるぞ!」
おお! という掛け声が響き、俺は肩を掴まれ連行される。
「ちょっと待て! 俺は服買いに来たんだっつうの!」
感謝されんのは嬉しい! だが強引すぎんだろうが! 俺にも用事ってもんがあるんだよ!
「ははは! そんなら一着好きなのを持っていきな! いいだろうあんた!」
「もちろんさ! 命の恩人だからね!」
「じゃあ俺らはマルフェの居酒屋で席取っとくから早く来いよ!」
「ああ!」
という訳でおっさんたちは出て行き、服屋の夫婦とイケメンたちだけとなった。しかし貧乏くっせえこの夫婦から無料で物をいただくのは気が引けるな。
なんせ、服屋のくせに自分らの服は継ぎはぎだらけときてら。つっても、今金渡しても受け取るとは思えねえ。あれだな、あとでこっそり置いとけばいいか。
いや待て。ここは貨幣経済かすら俺は知らないじゃねえか。
「ちなみにこれはいくらなんすか?」
近くに置いていたそこそこ小奇麗なTシャツを指差す。
「それは銅貨五枚だね」
いくらだよ。レェヴェチを隅の方に引き込んで聞くか。
「おい、銅貨五枚ってどんくらいの価値なんだ?」
「価値と言われても……分からんでありマス」
「ビッグマックいくつ買える?」
とぼけた顔しやがって。そりゃビッグマックねえもんな、しゃあねえな。くそが!
「じゃあ昼飯一食町で食うならいくら出す?」
「そうでありマスな。銅貨三枚から五枚でありましょうか」
ふうん。なら、銅貨五枚ってのは割と庶民的な値段なんだな。
「ちょっとそれ見せてくれる?」
「いいとも」
全体的に白っぽいTシャツには目立った汚れや穴もない。ほつれとかはあるが、許容範囲内だな。よし、これでいいや。
最終的に俺はシャツを三枚とズボンを三枚買うことにした。しめて銅貨三十六枚となるな。やっぱ、あとで金置いとかないと経営やばいんじゃね? うん、忘れないようにしよう。
「本当に金はいいんすか」
「あ、ああ! もちろんだとも!」
おい。表情引き攣ってんぞ。まあ心配すんな。フャトミトュウから経費として出させるから。
「では、居酒屋に行こう! 君も行くかい?」
「あたしは店番してるよ。楽しんどいで」
「ありがとよ」
「なあに。気にすることないさ」
くそ! 見せつけやがって。人前でキスすんじゃねえ! しかも十秒以上とか長すぎだろうが! 酒が出たら飲んでやっか。ヤケ酒じゃあ!
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